第二章
第1話 「夏祭りまであと6日」
勢いを増して、激しく鳴り響く雨音
そして、強く吹きつける風の音で
私は目を覚ました
昨日の朝から開けたままのカーテン
窓から見える外の様子は
まるで、嵐みたいだった
おもむろに、時計を見ようと
ベッドの周りを手で探しても
立ち上がって、テーブルの上を探しても
携帯電話が見つからなかった
「あれ?私、、携帯どうしたっけ?」
暗闇に目が慣れて来た時
壁に掛かる時計の針が見えた
「 0時18分、、
まだ、こんな時間。。?」
体の軽さと、時計の針がさす時間に
私は違和感を感じた。
「そうだ私、あの後にベッドに横になって…そのまま寝ちゃったのか。」
携帯の行方も気にせず
私はベッドに上に腰をおろした
何気なく、髪をかきあげた時
手に違和感を感じて手のひらを見ると
カサブタになりかけてる小さな傷があった
「あの時、バイクにビックリして。
ここも怪我してたんだ。」
その時、昨日の公園での出来事が
私の頭の中に一気に浮かびあがった
フェンス近くに生えていた草の匂いも
あの頃より大きくなった直也の背中も
そして
あの子の不敵な口元も
全て。。
窓を叩く雨と風のおかげで
寂しさはなかった。
「彼女がいる人と付き合えるわけないのに」
「私が彼女でも自分みたいな存在って気になるし。。」
「今日で夏休みが終わらなくてよかったよ」
指でなぞっていた、手の平の傷が少し濡れ
私は立ち上がり窓の方へ
「少し開いてたのかな?」
閉まっていた窓の鍵に指で触れたまま
しばらく外を見つめていると
ふっと我に返り
勢いよく、カーテンを閉め
眠った。
いらっしゃいませ
コンビニの、入り口横のレジから聞こえた
男性の大きな声に私の右耳は驚いた
大学生だろうか?
まるで、朝の校門前に立つ先生の
うるさいくらいに元気のいい
「おはようございます」
の声を思いだしながら
店員に軽く会釈をして店内を歩いた
イヤホンを耳につけながら立ち読みする学生
プールバッグを肩に掛け、日焼けした
小学生の女の子
汗を拭いながら、店員に頭を下げ
元気に私の横を走り去る配送業者
飲料が並ぶドアの方へ歩いて行くと
私の目の前にあったトイレのドアが開き
汗の臭いを漂わせた作業員のおじさんが
私に驚きながら、恥ずかしそうに
立ち去った
私は紙パックに入ったレモンティーと
菓子パンをカゴに入れてレジへ向かった
すると
「柚子?」
私の名前を呼んだのは桃花だった
一瞬、あの時の桃の顔がチラつきながら
声をかけた
「あれ?桃、部活は?」
「さっき、終わってさ!今帰り」
「そうだったんだ!大変だね」
「柚子?それって朝ごはん?
まさか、お昼じゃないよね?」
「え?あっ!うーん…半‥々かな」
「何それ?」
「さっき起きたら、お母さんいなくてさ
テーブルにお昼代が置いてあって…」
「さっきって、もう12時30分だよ?」
「昨日、遅くまで起きてたからね」
その後も少し話した後、2人で店を出た
帰り際、店の外で
レモンティーを口に含みながら
入り口横のレジを振り返って見ると
男性ではなく女性の店員に代わっていた
「柚子?あのレジにいる
おばさんの事、知ってるの?」
「えっ?いやっ!別に!!」
2人で歩く、帰り道
私は考えていた
昨日の夕方、教室を出て行く
桃の表情の理由を聞いて良いのか。
直也と一緒に笑う、
渡り廊下での桃の笑顔が過ぎり
言葉が出て来なかった
隣でストローを咥えたまま
うつむきながら歩く柚子を横目に
私は考えていた
明らかに普段とは違う柚子
いつもなら、自分の役目の様に感じて
一番に声をかけるけど
何故か柄にもなく躊躇している私がいた
教室で西川君と笑いながら話す柚子
電話口で楽しそうに西川君の話しをする
最近の柚子がチラついて
言葉が出て来なかった
桃といる時の沈黙は
とても、居心地が悪くて
凄く、嫌な感じだった
今まで、小学生の時からずっと
こんな事…なかったから
昔、お父さんが言ってた
「学生の間なら、何度だって
友達の関係は修復できる
だけど、些細な気持ちの綻びを
そのままにして
上辺だけの仲良しでいたら
学生じゃなくなった後には
どんなに仲の良かった人とでも
会わなくなる」
その時は、私には関係ない話しだと
聞き流していたけれど
今はピリピリと肌で感じる
きっと、こう言う事の積み重ねで
仲の良かった人と話さなくなり
大人になるにつれて疎遠になるんだと
だけど、
今の私にはどうする事も出来なかった
その時、桃が声を掛けた
「と、ところでさ
あと、6日で夏祭りだね!
今年も3人で夏祭り行くでしょ?」
「えっ?!うっうん!」
桃はいつもと変わらない顔つきを装って
私の方を見ながら話していたけど
いつもよりも笑顔に硬さがある事に
気づいた
きっと、
私と似たような事を
考えていたんだと感じながら
口ごもる事を選んだ私と違って、
言葉を掛けるという行動をとった桃を見て
「さすが、桃だな」
っと感心させられた
夏祭りの事を考えた時
一瞬、直也の事を思いだした
だけど、
沢山の人で溢れてるだろうし
簡単には、会わないはずだと
自己解決した
「柚子は浴衣、買ったの?」
「いや、去年のままかな」
私は苦笑いをしながら答えた
「去年って、あの向日葵のやつ?」
「うん!」
「そう言えば、柚子って
小学生の時から向日葵柄の浴衣着てるよね
まさか、小学生から同じやつ?」
揶揄うような笑顔で桃は言った
「柄が向日葵なだけで
ちゃんと、成長に合わせて買ってます!」
私がふてくされたように言った後
2人で息を合わせたように吹きだした
その時、桃や夏希と疎遠になるなんて
絶対に嫌だという気持ちを
改めて自分の心の中で感じた
「そう言えば、知ってた?
最近、夏希が小説以外に
読みだした本があるんだよ!」
「え?何なに?」
「ファッション雑誌だよ!」
「えっ?本当に?!」
「そう、全く興味を示してこなかった
あの夏希がだよ?
誰か良い人でも見つけたんだな!きっと」
「桃の考え過ぎだよ〜」
「そんな事ないよ!
それ以外に絶対ない!
夏祭りの時に白状させちゃうから」
そんな話しをしながら
私達は別れた
その頃
誰かが家のチャイムを鳴らす
「誰も居ないのかな?」
その場でしばらく待った後
1通の手紙と一緒に携帯電話を
「森崎」と書かれた郵便受けに入れ
その人は立ち去った
オモイノコシ 〜気づかなかった恋〜 翔人。 @shouninn
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