第46話 美

月光の下に烏揚羽が蒼い翅を翻している。

水鏡はあらゆる輪廻、理不尽、不条理、喜びと悲しみ、残虐と祝福、それらを写して静かに揺蕩う。

銃弾に穿たれた頭蓋骨から脳がこぼれ、その隣では新しい産声が聞こえる。

あらゆる些細な裏切りの内幕に、苦悩を携えた人がただ一人明日を生きる決意を固める。

孤独に苛まれる誰かのことを、西陽が暖かく包み込んでいる。

陽光に焼かれるある人を、月光が優しく静かな夜へと迎え入れる。

日常的な苦痛の最果てに、語るにはあまりにも小さく、あまりにも壮大な幸福が石ころのように転がっている。

愛情と憎悪が表裏の仮面をつけて笑い、お互いの尊厳を讃えている。

月光に眠る人の側で誰かは陽光に目を覚まし、労苦を終えた一息の側でまた一つの労苦が始まる。


あらゆる全てが、あるべきままに、ただある。

そして私は、やっと美を理解する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気紛れな詩集 鹽夜亮 @yuu1201

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ