第8話 レベル1の冒険者も歩けば、ボスにエンカウントする

 ドロデレとの戦闘後、街に潜んでいた他の魔族やモンスターも討伐、捕獲したことにより昼にはアルバの街を無事奪還。

 キメラにへと返られた街の人たちも全て元に戻ったことにより、自体は思ったよりも早く終息する結末になりそうだった。


「ふへへぇ……こんなに一杯新しい成分が取れるだなんて夢のようです……!」


 それもこれも、緩みに緩んだ顔をして液体の入った瓶を頬ずりするミライのおかげなのだが、何分先ほどの言動が頭をよぎり、素直に褒めていいのか迷うところだった。

 まさか万能少女だと思っていたミライに、あそこまでヤバイ思考が潜んでいるとは……なんとも恐ろしい話である。俺の謎を解き明かしたいとも言っていたし、寝るときは少し注意した方がいいかもしれないな……。 


 バリケードが取り払われたアルバの街の入り口には、クエストを仕切っていた冒険者の男性が立ち、他の冒険者を集めて声を上げた。


「それではこれより王都にへと帰還する。以後は自由行動とし、報酬は王都酒場の『ラック酒造』にて名前を宣告して受け取るように。受け取りの期間は七日間だ。以上解散!」


 その言葉を聞き、ある冒険者は王都に、ある冒険者はアルバの街にへと留まる様子を見せた。


「さてと、俺たちはどうするか。結局魔法の鍵は見つからなかったし」


 あの後、ドロデレから魔法の鍵の在処を聞くと、魔法の鍵自体を魔王幹部である人物が持っているらしく、この街にはないと言われてしまったのだ。

 あれだけ恐怖して喋っていたのだから嘘ではないのだろうが、結果的に今回の旅は骨折り損のくたびれもうけ。全くの無意味だったということである。


「まあでも、キメラにされた人たちは元に戻せたことは結果的によかったてところかな」

「そうですね! 皆さん元の姿に戻れて良かったです!」


 わが義妹もこうして喜んでいるし、結果オーライということにしておこう。

 そうだ、焦ってもしょうが無い。死ななかっただけ、マシだ。


「ど、どうしてあなたたちそんなに元気ですのよ……私はこんなにも疲れているといいますのにっ!」

「ああ、そう言えば今回のMVPは、何気にベルルートだった」


 ミライのポーションを使ったとはいえ、あのボスキメラの攻撃から俺たちを(結果的に)守ってくれたのだ。

 性根が悪くても、流石由緒正しき王都の騎士の娘である。守りに関しては一級品だ。


「俺とシャーロットはそんなに動き回ってないしな。強いて言えば飛んだり跳ねてたりしてたのはミライか」

「わたしは元気ですよ! むしろ今すごく燃えているんです! 早くこの成分を調べたくてうずうずしているんです!!」

「もう今日は無理ですわ……休ませて頂戴……」

「そうだな。でも街はまだ復興中だし、ここで休むのも邪魔になるだろう。だからそこら辺の川にでも行って、今日はそのままそこでキャンプでもして過ごそうぜ」

「賛成ですわ! そうと決まれば、早く行きますわよ!」


 先ほどバテていたのは何処へやら、ベルルートは跳ね起きると、アルバの街から出るため歩き出した。

 本当に分かりやすいやつである。

 その後、元来た道を戻っていき、辿り着いたのは、山々が見える川の畔だった。

 そこにミライのテントを設置し、ベルルートはいち早くミライのテントの中にへと入り、装備品を脱ぎ捨てて、すぐさま眠りにへとついてしまった。


「ベルルートさん、よほどお疲れだったんですね」

「朝からあれだけ動き回って戦ったからな。武器も盾だし、しょうが無いさ」


 ガードナーは防具や盾などの重量あるものを持つため冒険者の中でも一番に体力を使う職業の一つでもあった。

 あれだけ装飾された装備品と盾を常日頃持ち歩くベルルートだ。それなら、あれだけ疲れていてもも無理はないだろう。といっても、あいつの場合は、半分自らのプライドと見栄からくるものだろうがな。


「わたしも今すぐ研究に取りかかりたいので、テントの中にいますね!」

「なら、夕食の材料は俺が取ってくるよ、みんなはゆっくり休んでてくれ」

「あ、それなら私も行きます!」

「シャーロットも疲れただろ? 休んでろよ」

「でも、それを言ったらナナシさんだってあれだけ魔法を使ってたじゃないですか」


 確かに魔法は魔力と同時に体力も持ってはいかれるが、ミライが活躍してくれたおかげで、先ほど《サンダーインパクト》を撃った回数はたかが数回である。それくらいなら体力は残っているし、問題ない。 


「ちょっとひとっ走りしてくるだけさ、だから今の間に休んでてくれよ」

「それなら……分かりました」

 

 シャーロットは少しだけ不満そうな顔をしていたが、最後には手を振って見送ってくれた。

 よし! ここはシャーロットのためにも、いい食材を取って来るぞー! 

 


◇◇◇



「よーし、大量だな!」


 俺は両手一杯に取れた食材を持つ。

 取れた食材はドリルラビット十体に、ツルツルクサ適量、七味草を七枚と、ムーンピーチは八個も取れた。

 これだけあれば、四人パーティーでも満足できる量だろう。


「これだと、献立はツルツルクサとドリルラビットの肉を使った、ドリルラビットそばでも作るとするか。後でミライにダシを作れる調味料があるか聞いてみようっと」


 まあ最悪無ければ、ツルツルクサのパスタに変更だな。ムーンピーチも少し入れてあげれば、いい隠し味となるだろう。

 少し時間をかけすぎた気もするがすぐに帰れば問題ない。

 ふふふ! 妹よ、お兄ちゃんが旅で培った料理技術に感動するがいい!


「ささ! そうと決まれば早く帰りましょっと!」

「ふ~ふふふ~♪ ん?」

「え?」


 キャンプ地にへと戻る途中で、何やらおかしな人と鉢合わせしてしまった。

 頭からは角を生やし、全身の肌は燃えるように赤い。上半身裸でその鍛え抜かれた筋肉を見せている。

 ちなみに男性だ。変な期待はしないことだ。

 そんな、どう見ても魔族は兄ちゃんが爪で木に何かを書いている現場に遭遇してしまったわけである。

 

「て、魔族!?」


 不味い! 今現在俺は一人! 相手の強さが分からない以上、下手な戦闘は返って危険である!

 不幸中の幸いは、シャーロットを連れて来なかったことだろう。


「そうビビるなって、ちょっと待ってろ。もう少ししたら俺のサインも書き終わるからよ」


 そう言った魔族の男は再び木に何かを書き始めたのだ。

 サイン……だって……?

 もしかしてそれは呪いなどの類いの物か? ならかなり厄介だぞ……確実に俺じゃ対処できない代物だ……!

 息を呑み、俺はその魔族の男が書く木を見てみると、魔族が使う言葉でこう書かれていた。


[シュラ様参上!]

 

 その字の横には、デフォルトされた男の顔絵が描かいており、それを書き終えてから男は満足そうにそれを見つめた。


「よし! これで完成だな。よう、待たせたな。俺はシュラ様だ、よろしくな!」


 シュラと名乗った男は、俺の前にへと拳を突き出し止めた。多分、挨拶のつもりなのだろう。


「……」

「おい、なんだよ。魔族だからて名乗りもしないのか? つれねぇな……」


 シュラは残念そうに拳を下ろしていき、唇を尖らせながら非難している。

 俺だって安心出来る状況ならそうしたさ。

 だが、目の前に立つのは魔族の男だ。どんなことが命取りになるか分からない。


「お、美味そうな木の実持ってるじゃねぇか! 一つもらうな!」

「あ! お前!」

「うめぇな! ほれ!」


 シュラと名乗った目の前の魔族の男は、口の端から果汁を飛ばしつつ、みるみる内にムーンピーチを完食する。

 だが一体こいつは何なのだろうか? 魔族でありながら全くの敵意もなく、友人と接すような感じで俺とこうして話合っている。

 なんなんだこいつ? 全く意図が読めないぞ?


「……なあ、なんで木に自分の名前書いてたんだ?」

「分からねぇのか? あれはオレ様がここに来たていう印に決まってるだろうが。あれを見ればここがオレ様の縄張りだってことが一目で分かるてわけよ。頭良いだろ!」 


 ……もしかしてこいつ、ただのバカなんじゃないだろうか? そんな気がしてきたぞ。

 だがもしそうならば、これはチャンス。


「なあ、シュラ様。もう一つ果物やるから、見逃してくれないか?」


 もし逃げれるのならば逃げておいた方がいい。今日は魔力も消費している。無駄な戦闘ななるべく避けるに越したことはないだろう。

 特に得体の知れない相手なら尚更だ。


「そりゃあ、お前とお前の仲間の強さを見極めてからだな」

「!」


 こいつなんで俺の他に仲間がいるって……そうか、俺の持っている食べ物の量を見て判断したのか……!

 バカだと侮っていたが、とんだ食わせ者だったてわけか……!


「仲間だって? 生憎俺一人だよ。どうしてそう思ったんだ?」

「勘だよ勘。もしかしてそうなんじゃねぇかなーて思ったんだよ。でもよぉ、俺の勘はよく当たるんだぜ!」


 うん、当たってるすごいね。

 だがこれで確信した。こいつは直感に頼って考え無しに感情のままに動くタイプの性格だ。

 ならば、とっとと俺がレベル1のクソ雑魚であるということを教えて帰してもらうとしよう。


「ちなみに俺のレベルは35だぜ! すごいだろ!」

「ああ、それはすごいな。だが残念ながら俺はレベル1の雑魚だよ。ほら、ソウルデータにもそう書いてあるだろ」

「本当だな。ならいいさ、見逃してやるよ。でもなんだお前のソウルデータ、見にくいな……ちゃんと綺麗にしとけよ」


 文字化けだらけの俺のソウルデータを見て、シュラは眉をひそめるも、これで事態は解決した。

 よし、これ以上こいつに食べ物を取られる前に早くここから抜け出さないとな。

 そしてキャンプに戻ったら、急いでこの場から離れなくてはいけないだろう。


「おい、誰だ?」


 シュラの突然の声に、体が止まった。


「そこでこそこそと見てるお前らだよ。三人だな? 逃げても無駄だぜ、出てこいよ」


 三人……だって……? まさか……!

 俺はシュラが向く方向にへと見ると、草むらの中から、見覚えのある三人が出てきた。

 シャーロットとミライとベルルートである。

 シャーロットは警戒し、ミライは好奇心に満ちた表情でシュラを見つめ、ベルルートはまだ寝不足なのかどこか焦点の合っていない目でこちらを見ていた。


「なんでお前たちがここにいるんだよ……!? 休んでろて言っただろうが!」

「ナナシさんの帰りがあまりにも遅かったものですから……心配になってみんなで見に来たんですよ」


 しまった! 頑張って食材調達をしすぎた弊害がこんな時に来るなんて!


「お! ほら! 俺の勘が当たっただろう!」


 分かったから、黙ってろシュラ。

 考えがまとまらない……。


「あの……そのお方は……?」

「オレ様はシュラ様だ! おら、お前らの中に強いやつはいねぇのかよ! このレベル35の俺と対等に戦えるやつはいねぇのかよ!」

「っ!」


 お、落ち着け……大丈夫だ……。

 先ほどボスキメラと戦ったとはいっても、以前確認したレベルは全員平均して20以下だった。

 ならば、例えあの戦闘を経験したとしても、得られた経験値からして35にまで到達することなどあり得ないはずだ。

 

「みんな、おとなしくそいつにレベルを見せるんだ。はやく」

「え? なんでなんですか?」

「シュラは強いやつ以外興味がないそうだ」

「シュラ様だ!」

「そういうわけだから、シュラ様の機嫌が損なわれる前に見せてやれ」

「安心しろ、オレ様はザコとは戦わねぇよ」


 シャーロットとミライは理解し、即座にソウルデータを出してシュラにへと見せた。

 先に見たのはシャーロットの方だった。


「ほう、レベル25か。中々高いな」

「は?」

 

 え? レベル25だって、どうしてそんなに上がってるんだ? 二日ほど前に確認した時はレベル15程じゃなかったか?


「ん? なんだ、このチビもえらく高いじゃねぇーか! レベル30だと!」


 レベル30ッ!?

 待って! おかしい! どうして! どうして出会って二日でそんなに上がってるの! 俺がいうのもなんだけどレベルの概念が壊れちゃうぞ!?


「ちょっと頑張っちゃいました!」

「そうか! すげぇな! もう少しレベルが上がったら戦いにいくから待ってろよ!」

「分かりました! ではその時にじっくり調べさせてもらいますね!」

「ん? 何言ってるのかよく分かんないけど、分かったぜ!」


 ミライとシュラは無邪気と言う点で波長が合うためか、楽しそうにやりとりをしており、謎の好感触を得ていた。

 だがこれでいい。

 後はベルルートさえクリアすれば解放されるのだ。

 頼むぞー、お前のレベルが35以下なら大人しく帰れるんだ。どうかレベル35であってくれよー!


「よし、最後は一番の期待してた姉ちゃんだな! 装備品からして、あんたが一番レベルが高そうだし、楽しみだぜ!」

「ふへぇ……ふぇへへ……おかし……おかしがとんでますわ……」

「おい! いつまで寝てるんだ! 起きろ!」


 ベルルートは、相変わらず立ったまま眠りの世界にへと旅立っており、俺はひたすら揺らしたり、顔を叩いたりするも、中々に起きようとしない。

 こいつめ! 

 すまんかったキャロル! 毎回起こさせたりなんかして!

 そんな過去の仲間に謝りつつ、何度目かに顔を叩いた頃、ようやくベルルートの目を覚ました。


「んがっ! ……なに、どうしたんですわよ……?」

「いいからソウルデータを出してくれ! 早く!」

「ベルルートさん早く!」

「ベルさんにかかってますよー!」

「へ? なになに、何が一体どういう……ぎゃ!? 魔族ッ!?」


 目の前に立ってたシュラの顔に気づき、ベルルートは即座に持っていた盾で身を隠した。

 それを、シュラが呆れてみている。


「おいおい姉ちゃん、そんなにビビるなっての。早くあんたのソウルデータを見せてくれよ」

「な、何がどうなってますのよ……!?」

「いいかよく聞けベルルート、お前がソウルデータを見せるか見せないかで、この魔族から逃げれるかどうかが決まるんだ。だから早くだしてくれ」


 俺はベルルートにそう耳打ちをするも、彼女の半信半疑の不安な表情で俺を見ている。


「ほ、本当ですの? 本当にソウルデータを見せれば、見逃してくださるの?」

「ああ、だから早くしてくれ、目の前のこいつが機嫌を損ねない内に」

「み、見せますわ! 見せますから待っててくださいます!?」


 ベルルートは即座にソウルデータを出してシュラへと見せた。

 大丈夫。ミライは30まで上がったが、ベルルートだって高くても35の手前で止まってくれているはずだ! たった二日で、17から35までにジャンプできるはずがない!


 俺たちは祈るようにしてシュラを見つめていたが、シュラは口元を崩し、笑った。


「ふっ、ははは、ははははっ! やったぜ! やっぱり当たりだ! レベル35じゃねぇか、姉ちゃんよぉ!」

「なっ!?」

「へ? それは、その、どういうことですの?」

「いややっぱりな! それだけの装備品付けてたらそれくらいだと思ったんだよ! いやすごいぜ! あんた、見たところ若そうなのにこのレベルなんて大したもんだぜ!」

「そ、それほどでもありませんわ! 私の素質を考えればこのぐらい当然! 造作も無いことですわよ!」


 ベルルートは自分がシュラにどう見られてるのかを全く理解しておらず、彼に褒められて上機嫌な態度で接している。

 だが事態は最悪だ。これでもう、シュラはベルルートを対等な相手として認識してしまったのだ。


「それじゃぁーよぉ、そろそろやり合うとするかァ?」

「そうですわね! ……で、何をやり合うのですの?」

「そんなのもちろん、戦うことに決まってるだろうが、なあッ!」

「えちょっまッ──!?」

「ベルルートッ!」


 気づいた時にはもう、シュラはベルルート目掛けて激突し、彼女を空高くまで吹き飛ばしていた。

 そしてシュラの両手には、いつの間にか銀色の大型剣が握られており、ベルルートの立っていた地面に深い傷跡が刻まれている。


「ミライ! シャーロット! ベルルートを頼んだ! 《サンダーインパクト》ッ!」

「とっ!?」


 すぐさま《サンダーインパクト》打ち込むが、シュラは一手の所で避け、ベルルートではなく今度は俺を見ていた。


「……なんだよお前、その魔法は? なんかそれ、すげぇヤバイ代物だって勘がするぜ!」

「なら自分の体で確かめな! 《サンダーインパクト》!」

「はッ!」


 上空から落ちてきた《サンダーインパクト》を、シュラは両手の剣で受け止めて、切り裂き地面にへと弾き飛ばした。

 弾け飛んだ青い電流は土を走り、火花を上げて燃えあがる。


「《サンダーインパクト》を……切り裂いただと……!?」

「いい衝撃だ! パワーを感じたぜッ! なあ、どういうことだァ? どうしてたかがレベル1の雑魚が、そんな威力のする魔法を放てるんだよ? えぇッ! あの姉ちゃんよりも気になってきたじゃねぇかよォッ!!」

「早っ、ぐはぁッ!?」

 

 見えていた。確実に見えていたはずなのに、俺はシュラの跳躍に脳がついていけず、腹部をその剣で切り裂かれていたのだ。

 その衝撃は大きく、後方にまで激しく吹き飛ばされて、俺は木にへと激突し血を吹き出す。


「ほ、《ホーリーエアー》……!」


 やっとの思いで腹部に回復魔法をかけるも意識が朦朧とし、頭が上手く働いてくれない──。

 腹部が塞がりようやく、目の前で待つシュラを認識することができた。


「……なんで、トドメを指さなかった?」

「お前みたいな上玉、滅多に見かけないからな。さっさと倒しちまうなんて勿体ないだろうが、なぁッ?」

「そうかよ……」


 間違いない。このシュラという魔族の男は、筋金入りの戦士だ。

 先ほど俺が見えていたのに切られてしまったことからして分かる。あれはひたすら戦いに修練を重ねた結果に得られる類いの代物だ。

 そんなバカ正直に、真っ直ぐ自分の目的目掛けて努力してきた者の、基礎の通った強さだ。

 俺みたいに魔法を駆使して戦って来た人間なんかとは違う、根元からの強さを持ち合わせている──ッ!


「──なあ、シュラ、お前魔王幹部だろ?」

「あぁん? 言ってなかったか?」


 言ってねぇよ、このバカが。

 危うく体が真っ二つになるところだったじゃねぇか。


「そう、オレ様は魔王幹部にしていずれ魔王になる男、シュラ様だ! 最近だとこの近くにあるアルバて街を物にしたところだぜ!」

「残念だがそこは今日俺たちが取り戻した。そうか、お前がアルバの街の幹部だったのか」

「あぁッ!? ドロデレのやつしくったのかッ!? なんだよあの野郎、私に任せてくれれば大丈夫ていってやがったのによォ! まっ、いっか、また取り返せばいいことだしなァ」

「!」

 

 駄目だ、また再びシュラが街を襲撃すれば、誰もこいつに勝てるはずがない。そしたら被害も増えて、今度こそアルバの街が取り戻すのは不可能になるかもしれない。

 なら……ここでこいつを倒さないといけないてことになるじゃねぇかよッ!


「なんだよ、その無理ゲーはよ……!」


 唯一の攻撃手段である《サンダーインパクト》は利かず、おまけに目の前のボスは倒さないといけないときたものだ。

 こんな状況、どうすればいいていうんだよッ!?


「でもまずはあそこよりもお前の方だな、なな、な……そう言えば、お前、名前なんていうんだよ? 教えろよ、覚えてやるからよ」

「……ナナシだ。ナナシ・ナガナイノ」

「変な名前だな? んじゃやろうぜナナシッ!!」

「くっ!」


 勝てそうにない戦いに巻き込まれたとき、古今東西ありとあらゆるゲームにてその方法は古来より伝えられている。

 どんなゲームにでもあるのそのコマンドを、俺はひたすら脳に向けて連射した。


「逃げるんだよォ!」

「あ! 待てこの野郎がッ!」


 某有名人間賛歌漫画の主人公宜しく、俺は全力ダッシュでシュラから逃げ出したのだった。

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