第6話 攻略前夜も騒がしい

 結局、昨夜俺達はシャーロットによる邪神竜刀流講座を一通り聞いた後、ベルルートと共に気絶するように就寝。

 翌朝、誰よりも遅く起きていたはずのシャーロットにへと起こされたのだった。

 そんな愛すべき妹に朝を起こされるという最高のシチュエーションなのにも関わらず、俺は素直に喜べなかった。

 シャーロットの瞳が深淵を見たかのように深く感じられたからである。

 うん、まあそんなことは忘れよう。そうだよ。そうだ。そんなの気のせいである。あはははは……。

 

 とまあそんな具合で朝を迎えた後、昨夜の休み通り、ミライと待ち合わせをしたロビーにへと向かうと、朝食を食べながら本を読む彼女の姿を見かけて声をかけたと言うわけだ。


「はじめまして! ミライといいます! 好きなことは物作り! 嫌いなことはつまらない話です!」

「私はシャーロットといいます。ミライさん。そうだ、お近づきの印に、邪神竜刀流に入門しませんか?」

「やめて」


 人の黒歴史の門下生を増やさないでほしい。いずれ恥ずかしさで死んでしまう。ベルルートの方も単語を聞いただけで怯えてるじゃねぇか。朝から涙目である。


「邪神竜刀流! なんですかそれ、面白そうですね!」

「頼むから興味を持たないでくれ! お願いだからッ!?」

「そう言わないでくださいよ、ナナシさん。なんだかんだ一番筋が良かったのはナナシさんじゃないですか。私の見立てだと、お兄ちゃんに匹敵するぐらい筋がいいですよ!」


 それはそうである。なんせ本人なんだからな。

 ほくほく笑うシャーロットを見て素直に喜べればよかったのだが、何分出しているのが過去の己の恥である。喜べるはずもない。

 とにもかくにも、俺は色々なことを仕切り直すべく、咳払いを一つ立てた。


「さてと、それじゃあ新しい仲間も加わったということで、これからの行動を説明するぞ。とりあえず魔王を倒すには魔王幹部が持つ魔王城解放のための魔法の鍵が必要だ。その明確な個数は不明だが、俺が集めた情報では以前ナカムラ・キョウヤが集めて完成させた鍵の数は合計百個だそうだ」


 俺は過去の記憶を思い出しつつそう答えた。

 といっても百という数も正確ではない。

 魔法の鍵は他の鍵と合体させていき、一つの鍵を作り上げなくてはならない。

 そのため他の鍵と合体していた状態で見つかれば、その個数は変動することとなるのだ。

 面倒極まりない。

 尚完成の有無は、鍵に魔力が宿ったときである。

 

「魔王幹部たちの強さもピンキリだ。ビックリするぐらい弱かったり、驚くほど強かったりもする。まあ幹部になる条件が魔法の鍵を手に入れることだからそれも仕方が無いのかもしれないがな」


 そのため今の俺たちでも相手によっては魔法の鍵を手に入れることができるのだ。

 そして敵が敵ならば得られる経験値もまた多くなる。

 ならば、行動は早めに起こした方が得策だろう。


「てなわけで俺たちは、王都を出発してアルバの街を目指す」

「アルバの街? どこなんですか? ナナシさん?」

「アルバの街は通称『旅人の宿り木』と呼ばれる街で、小さいながらも多くの商人や冒険者が出入りする人気の街ですよ。牧場も経営していて、主な名産品としては牛乳が有名ですね」

「流石博識だな、ミライ。だがここ最近、魔王幹部の一人によって占領され、街は封鎖されてしまったらしい。話によると、魔法実験場になってるという話だ」

「実験! 本当ですか!?」


 実験という言葉にミライが飛びつき、目を輝かせた。

 物作りが好きだと言っていたし、それで興味が出たのだろう。

 だが、ここには一つ、恐ろしい噂話が流れているのだ。


「だがな、ミライ、ここで行なわれてる実験はどうやら人間が使われているらしいて噂だぞ?」

「わぁ~! 楽しみですぅ……!」

「あれ……?」


 ミライを脅かすつもりだったんだが、当の本人はさらにわくわく顔でその話を聞き、おまけ何か思いを馳せている。おかしいな……? 普通は怖がるはずだけど……?

 結局、その話を聞いて一番びびっていたのはベルルートだった。

 聞いた瞬間青ざめて、また目の端から涙を漏らしている。


「に、人間ですって……!? 私そんなおぞましい所に行きたくないですわよッ!!」

「落ち着けよ、あくまで噂だよ噂。本当かどうかは定かじゃないよ」

「し、信じられませんわ……そんなこと……!」


 ベルルートさんは椅子に引っ付き、意地でも動こうとしない仕草を見せた。

 まさかここまでこいつがびびりとは思わなかった。今度から気をつけるとしよう。

 

「だが、どちらにしろここに魔王の幹部の一人がいることは間違いないんだ。なら、倒さないと魔王城にすらたどり着けないんだよ。お前だっていつまでもこんな生活は嫌だろ?」

「うっ……わ、分かりましたよ……」

「それに安心しろ。何もそんな危険な場所に、俺たちだけで行くわけじゃない」


 そうだ。いくら勝算が高くても油断はならない。

 相手が魔王幹部ならば尚更だ。念には念を入れておかねばならないだろう。

 ……前回それで失敗したじゃん、とか思うなよ?

 

「ナナシさん、それはどういうですか?」

「今回は、他の仲間がいるてことだよ」



◇◇◇



「ではこれよりアルバの街攻略作戦を開始する! 分かっているとは思うが、この旅での安否は保証されない、以上! 出発!」


 宣告と共に、王都中心部から大勢の冒険者たちが門の外目掛けて歩き始めた。

 集団の中には俺たちパーティーも混じっている。

 その光景は、現実世界で小学生の頃に体験した集団下校に思わせた。


「『他の仲間』てこれのことだったんですね」

「ああ、元々アルバの街が魔王の幹部に占領されたって話は、この大規模クエストのことを知ったからなんだよ」



 昨日のベルルートの買い物に付き合わされた時、俺は街で仲間を募るこの大規模クエストの話を聞いて、昨夜入浴後に参加するかどうかを考えていたのだ。

 直前、ミライが仲間となるというイベントは挟まったが、それで腹も決まりこうしてクエストにへと参加したと言うわけだ。

 アルバ村までは徒歩で一日をかけたところにある。

 馬車などを使わない理由は、それだけの台数が確保でないないためという理由と、いつでも敵の攻撃に対応出来るためである。

 王都では特に目立った動きも無く、日が沈んでいき、半分の距離をあるいた地点で野宿をすることとなった。


 周りの冒険者たちは各自のパーティーで乾燥した木を集め、魔法や木を擦り合わせたりして火を起こし焚き火を作ったりして体を休めている。

 俺たちも同じく場所を確保して焚き火を起こすと、ミライが手を上げてきた。


「あ、夕食は私が作りますね! お料理得意なんですよ!」

「なら頼むよ。何を作るんだ?」

「そうですね、シチューにしますか」

「なら肉とか取ってきた方かいいか」


 流石にここら辺でもドリルラビットくらいは土に埋まってるだろう。

 そう思い、俺が食材を取りに行こうと立ち上がると、ミライは両手を挙げて俺を止めた。


「いえいえ、既にナナシさんたちは材料を確保してますから大丈夫です。座っててください」

「? なんかよく分からない言い方だな。まあ材料があるならいいか」


 ミライはリュックの中から鍋を取り出して、そこに何かの肉と、タマネギのように見えるけどタマネギじゃない野菜、ジャガイモのように見えるけど顔のような皺が刻まれたマンドラゴラを入れて、牛乳と香辛料を入れて蓋をしてじっくりと煮込む。

 数十分後、蓋を開けると美味しそうなシチューが完成していた。


「……美味しそうですわね?」

「さあ、皆さん食べてください!」


 ミライは四人分の器を取り出してシチューを盛り付けて俺たちに配ってくれた。

 皆口を付けた途端、目を丸めてしまう。

 これは……かなり美味い!

 丁度良く塩付けされた肉がいいエッセンスとなり、クリィーミーさの中にもちょっとした刺激となって飽きさせない味付けとなっている。


「……すごく美味しいですわよ、これ!」

「本当ですね……! とても美味しいです!」

「気に入ってくれたようで何よりです」

「いや本当に美味しいよ! これ何の肉を使ったんだい?」


 どこかで食べたことがあるはずの味だが、塩漬けされているため明確に思い出すことができなかったのだ。


「今回使ったお肉は、塩漬けにしたサンダータイガーのお肉になります」

「むぐっ!?」

 

 ベルルートが勢いよくシチューを吹き出した。


「ベルルート、お前お嬢様なんだからもっと上品に食べろよ……」

「な、何を流暢に言っていますの!? このお肉食べて感電死しませんことッ!?」

「安心しろよ、もう死んでるんだ。放電なんかしねぇよ」


 現に俺のいた世界でも電気ウナギなるものがいたが、あれも捌かれてしまえば放電はしないため食べられるとテレビで見たことがある。

 俺もよく旅の時食べたものだ、懐かしい……。


「ナナシさん物知りですね! そうなんです。サンダータイガーなどの電気を体内から流す動物たちも、死んでしまえば放電しないため食べても大丈夫なんです。ほら!」

 

 ミライは進んでシチューを食べて見せ、自らを使い安全であることを伝えた。

 それを見せられて、ベルルートは怯えつつも、再びシチューの乗ったスプーンをちびちび食べ始めた。

 よほど、ミライのこのシチューが気に入ったらしい。


「でもよく一人でサンダータイガーを倒せたものだな」

「いえ、実はこの肉は元々お三方が倒したタイガーを解体して、塩漬けしたものなんですよ」

「むぐっ!??」

 

 ベルルートは再び勢いよくシチューを吹き出す。

 トラウマが蘇ったのか、顔が青白くして、シチューを見下ろしていた。


「あはは……皆さんが放置されてたので勿体ないかなと思いまして……」

「それはいいだけど、あれだけの大きさのタイガーを一人で解体したのか?」


 あのサンダータイガーの大きさは確か二メートルほどはあったはず。

 それを小柄のミライが一人で解体して塩漬けしたとなると、かなりの重労働ななるはずなのだが、一体どやったのだろか。

 気になることころである。


「道具さえ揃っていれば簡単ですよ? それに、すぐ血抜きもしたので作業も楽でしたから」


 こうしてミライのシチューを食べた後、俺たちは片付けを終えて、寝ることにしたのだが、ここでまたミライが手を上げた。


「皆さんちょっとお待ちください!」

 

 そう言うと、ミライはリュックの中から、一体どのようにして入れていたのか分からない大きさの布を取り出して広げて、ある物を作り上げたのだ。


「じゃじゃーん! 見てください!」

「なんですかこれ?」

「布の塊ですの?」

「いや、キャンプテントだな」


 それどう見てもキャンプテントであり、見覚えある三角形の形をしていた。


「ナナシさんこれもご存じなんですか!? 本当にナナシさんは興味深い人ですね……! 一緒にいて飽きませんよー!」

「それでこれはどうしたんだよ? まさか作ったのか?」

「そうなんです! これは旅をしている最中に、『転生者』と呼ばれる伝説の冒険者の方々の噂話を参考に作った、『キャンプテント』という名称の物なんです! ささっ、中も見てみてください、これ結構な自信作なんですよ!」


 小さな三角テントの中に一体何をそんなに自慢したいのか分からなかったが、ミライに誘われて中にへと入ると、彼女の言いたかったことが理解できた。

 そこに広がっていたのは、とてもテントの中とは思えないような広い部屋が広がっていたからである。

 端に置かれた木製で作られた立派なクィーンサイズベッド。食器や料理道具の入った棚や、無数の本が収納された本棚などの家具たち。フラスコなどのビーカーが並んだ理科室を思わせるような机などと、様々なものが置かれていたのだ。


「ハリー・ピーッターかよ」

「なんですかその単語! とても面白そうな物の感覚がします!」

「いや、マジでなんだよ……一体どんな魔法を使ったらこんなものが作れるんだよ……?」

 

 伊達に一年間も異世界を冒険した俺ですら、こんな芸当お目にかかったことはなく、素直に驚くしかない。シャーロットもベルルートなんかはもう圧巻して、言葉を失ってしまっている。

 

「お父さんが作った、空間操作系魔法装置のちょっとした応用ですよ。私のこのリュックも、お父さんが作ってくれた物なんですよ!」

「道理でそのリュックになんでも入ると思ったぜ」


 その空間操作系魔法装置とやらがあのリュックの正体だったのだ。

 いわばドラ○もんの四次元ポケットのようなものであろう。これでこのテントや他の道具を仕舞えていた謎が分かった。

 というかミライの父とは一体何者なんだろう?

 こんな芸当が出来て、おまけにミライの髪の色のことも考えると転生者しか考えられないんだが。


「み、ミライ……もちろん、あのベッドを使ってもよろしいのですわよね……?」

「もちろんです! そのために出した物ですから」

「ミライ! これで私たちは親友ですわよっ!!」

「現金なやつめ……」

「わぁ……このベッド、ふかふかですぅ……」


 ミライの言葉に甘えて、今日の野宿はミライのテントの中で眠ることにして、翌日の決戦にへと備えることとなった。


 俺? 俺はもちろん外で見張りだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る