第5話 ツインテール眼鏡幼女はお好きですか?

 ベルルートとの買い物を終え、ナナシたち三人は王都内の端に存在する安宿にへと宿泊することとなった。

 ベルルートの出費癖の所為で報酬も殆ど使い切り、部屋も一部屋しかとれなかった。

 そのためシャーロットとベルルートの着替えが終わるまで、ナナシは一人、安宿の中に設置された小さなロビで待つこととなったのだった。

 幸い、王都は温泉の湧き出る地域のため、この宿には小さな温泉がある。

 それに入った後、宿の外から微かに入ってくる夜風を浴びて体を冷ましつつ、飲み物を飲んでいた。


「昔の知恵が役に立って助かったぜ……にしても、ベルルートのやつの出費癖をどうにかしないとまずいな。魔王倒す前に、金欠で倒れちまうぞ、こりゃ……」

「すいません、お隣、いいですか?」

「え、まあいいですけど」

「ありがとうございます! よいしょ!」


 そう言ってナナシの隣に座ってきたのは、小柄で丸い眼鏡をかけた女の子だった。

 見た目からして小学生くらい背丈であり、黒髪をツンテールで纏めて、リュックを担いでいる。

 

「……俺に何か用事でも?」


 ロビーの席はまばらに空いており、用もないのにわざわざナナシの隣に座る必要はない。

 つまり何か理由があって隣に座ったということだ。


「はい! あ、わたし、ミライていいます」

「俺はナナシだ」

「知ってます! 先ほど森でお三方をたまたまお見かけしましたから!」

「森の中て……まさかあの場所にいたのか?」

「はい! あの戦いには驚きましたよ……! あのサンダータイガーが倒してしまうんですからすごいです! 特にナナシさんの《サンダーインパクト》! あれほどの威力を放つ魔法を習得している冒険者の方と、あの森で巡り会えるなんて思っても見ませんでした! それで気になって声をかけたというわけなんですよ!」

「そうなんだ……君、他に仲間とかは?」

「いませんよ? 私一人だけです」

「えっと、歳はいくつ……?」

「今年で十歳になります!」


 ミライが平然と森を一人で歩いていたなどと言ってのけたため、ナナシは驚愕し、言葉を失う。

 確かにこの異世界では、旅に出る時の年齢は比較的に低い傾向にある。

 だがそれでも、十歳の少女が旅に出るのはあまりにも早すぎる。

 しかもあの平均レベル20のモンスターたちが住む森を、たった一人で歩いてのけたというのだ。

 そこでナナシはある結論に至った。

 

「そんなことが出来て黒髪ということは……ミライは転生者なのか?」

 

 そう、現実世界で死に、女神の手によってこの世界にへと送られてきた転生者であればそれもあり得る。

 だがそれは同時に、幼いままに死んでしまったということであり、もしそうならば、その現実はかなり辛いものだろう……。


「違いますよ!」

「違うのかよッ!?」


 よかったー! 不幸な子供なんていなかったんや!

 そう安心しているナナシに、彼女はすぐさまナナシに質問を返した。


「そんなことよりもわたしが気になるのは、ナナシさん方ですよ! どうしてあれほどの力を持っていながらあんなレベルの低い森にいたんですか? 魔法のレベルからして50でもおかしくありませんよね? あべこべです! 矛盾してますよ!」

「え、えっとだなぁ……そういえば結局何の用なんだ? 話が流れてうやむやになってしまったけど」

「そういえばそうでした! 分からないままは嫌ですよね! ナナシさん、私をナナシさんたちのパーティーに入れてもらえませんか?」

「俺のパーティーに? でも俺たちの目的は魔王討伐なんだけど」

「はい、それは調べてあるので知っています。酒場で出会ったベルルートさんもその目的で仲間になったんですよね?」

「誰から聞いたんだ?」

「ラックさんという女性です。先ほど行って確認してきましたので間違いないはずですけど?」

「あのお喋りロリBBAァ!!」


 ナナシの頭にいるラックが、怪しげに笑っていた。

 

「魔王討伐という、まだ誰も成し遂げたことのない冒険なんて、まさにわたし好みです! だからナナシさん! わたしも是非ともあなた方と冒険させてください! ナナシさんという未知の人との冒険なら、きっと面白いことになるはずです!」


 輝く目でぐいぐいとナナシの目に迫ってくるミライだが、彼女の肩を持ち、ゆっくりと引き離す。


「話は分かったんだけど、ミライさん。ちょっと軽い面接をしてもいいかな? 君が何を出来て、何が特技なのかを知ってから決めたいんだ」


 ベルルートの件もあるため、今回は慎重に情報を聞いてから選ぶことにした。

 またそれ以外にも、ミライがたった十歳でこの危険な世界を一人旅している秘密も同時に知りたいという目的が含まれていた。


「あ、それもそうですね。では、ミライ、14歳です! レベルはこの通り、レベル16!」


 ミライはソウルデータを出して、ナナシにへと見せてきた。


「16だって? ……本当だ、すごいな君。魔法に関しては、物の形を変えて変形させる〈アートクリエイト〉と小回復魔法の〈リーフライト〉の二つか」

「それは父の影響ですね、いつも何かを作ってる人ですから」


 スキルの被りは無し、今のところはいい感じだ。


「趣味・特技は物作りとキャンプ、後ポーション作りです!」

「え、ポーション作れるの!?」

「はい! 材料があれば大丈夫ですよ!」


 ポーションは転生者ですら調合が難しいと言われる程に、繊細性と知識のもめられる作業である。

 そんなことを平然と趣味と言いのける目の前の少女に、ナナシは半信半疑で目の前の少女を見た。

 本当に、何者なんだ。この少女は……?

 そんな疑問がますます強くなっていく。


「た、試しにあったらでいいだけど、見せてもらえないかな?」

「いいですよー! これです!」

 

 ミライがリュックの中から取りだしたのは、青色の液体が入った大きな瓶だった。

 それをしっかりと両手で受け取り、ナナシは確認した。


「間違いない……これは確かにポーションだ」


 ポーションの成功は色で分かる。

 むしろ成功しないと青色にはならないのだ。それを知っているナナシは飲むまでもなくミライの話が本当であることが分かった。

 それを見て確信した。何故ミライがたった一人で旅が出来ているのかを。


「なるほど。これだけ頭がいいのなら、その歳で旅にも出れるのも当然だね」


 そうミライは年齢という欠点を、その圧倒的知識によって補い、武器にしてきたのだ。それならばどんな環境を前にしても生き残れることが出来るであろう。

 ミライの秘密を知り、ナナシの答えは決まった。


「ミライさん、是非とも俺のパーティーに入ってほしい」

「合格てことですね!」

「ああ、君みたいな優秀な人なら大歓迎だよ」

「ありがとうございます! それならこれからは気軽に、ミライて呼んでくださいね?」

「ああ、これかよろしく頼むよ」

「わーい! あ、それじゃ翌朝、ここで待ち合わせてことでいいですか?」

「分かった、それじゃ明日、ここで落ち合おう」

「はい! では、よろしくお願いしますね!」

 

 そういってミライは鼻歌交じりでスキップしつつ、部屋にへと戻っていった。


「さてと、俺も戻るとするか」


 利用していたコップをカウンターにへと片づけた後、宿の受付にへと向かう。

 ベッドは二人が寝るので限界のため、ナナシは床の端っこで寝るため、受付から薄い毛布を借りてから部屋へ戻った。


『や──もう勘弁し──シャーロット!』

『──そんな──言わず──ベルルートさん──!』

「!?」


 ナナシが扉前に着くと、部屋の中から聞こえる女性陣二人の声。

 その発言はあまりにも勘違いしてしまうような言葉であり、ナナシは扉に耳を付けて確認をする。


『もう無理よ、シャーロット……私、そんなこと覚えたくないわ……!』

『いいぇ……ベルルートさんには才能があります。さぁ、もっと深くまでハマっていきましょ……?』


 え! え!? なに!? シャーロットて女の子の方が好みだったの!? お兄ちゃんが旅立っている間に汚れちゃったの!?

 あたふたするナナシだったが、落ち着き冷静となる。

 もしやこれはチャンスなのではないだろうか?

 今もしもこの扉の先でキマシタワー建設からの、レズレベルにまで至る不道徳行為が行なわれていたとしたら、それはつまり、この先には女子たちの楽園が広がっているということになる。

 本来ならばそこに男が踏み入れるなど処刑されて文句の言えない行為だが、仮にも俺はシャーロットの義兄あに

 ならば、快楽にへと溺れる妹をすくい上げても、誰も咎めはしないだろう。いや、むしろそれこそが正しき兄としての姿である!

 それに、元々俺が部屋にへと帰ってくるということは、事前に伏線が張られていたのだ。これで文句も言われまい!

 結論! もし部屋の中で女性陣二人がエッチなことをしていても、俺は合法的に入っていい理由があるということであるッ!!


 などと、さぞ頭の悪い結論を立てたナナシは部屋の扉を勢いよく開けた。


「ただいまぁッ!!」

「な、ナナシ! 助けて頂戴ッ!」

「あ、ナナシさん、お帰りなさい。そうだ! ナナシさんも一緒に覚えましょう? これ」

「……はい?」


 結果を言えば、シャーロットもベルルートも裸になどなっておらず、泣きついたベルルートさんがナナシの後ろにへと隠れて、シャーロットがベッドの上である物を広げていたのだ。

 それは、ナナシがよく見慣れたある物だった。

 

「シャーロット……それって……」

「はい! ベルルートさんにも邪神竜刀流を教えてあげてたんですよ。そうすれば、今日みたいなピンチの時ももっと戦えるようになると思いまして!」


 そう、シャーロットが広げていたのはナナシがキョウヤ時代にシャーロットにへと渡した黒歴史ノート。

 そこには、上手くもなく下手でもない微妙な絵が並んでおり、ナナシの記憶だと今シャーロットが開いているページには、邪神竜との契約する方法が書かれていたはずだった。


「だからそんな変な物と契約する気などないと言っているでしょがっ!?」

「ベルルートさん……変なものじゃないですよぉ? 邪神竜との契約はこの世の真理と繋がる方法なんです……さぁ……ベルルートさんも邪神竜と契約して、邪神竜刀流を極めましょう……!」

「怖いっ! 怖いですわよこの子!! ここまでやばい子だなんて知りませんでしたわよッ!?」


 虚空を見つめた目で迫るシャーロットに、ナナシは過去に犯した大罪を悔やみつつ、空いていた部屋の扉が隙間風によって閉められた。


『さぁ──皆さんも覚えましょう? ──邪神竜刀流』

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