後書き

― 西暦2019年11月29日


― ひなぎくの咲き乱れる湖畔の小さな家ではなく、ただ小さいだけの合間家




 「忍び愛づる姫君 王国蕾外伝 花の名前2」を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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 この話はソンルグレ家の末っ子マルゲリットの話でした。実は長女ローズが主役の「色豪騎士の負け試合」よりもずっと先に構成やあらすじなどは考えついていたのです。


 ドウジュとクレハはアントワーヌ君にとても近い存在でしたので彼らの子供同士が将来結ばれるなんて素敵だな、と最初はそんな軽い気持ちでした。しかし、書き始める前から分かっていたことですが、貴族令嬢と間者という、恋愛を成就させるのが非常に難しい物語となりました。


 私のシリーズ作中でも難易度の高い恋愛と言えば、お父さんアントワーヌの「開かぬ蕾に積もる雪」です。主人公たちが結ばれるまで長い年月と辛抱が必要でした。今回、父親に負けず劣らず次女のマルゲリットも身分違いの恋を成就させるために頑張りました。


 構成は随分と前から出来上がっていたこの話ですが、妹の話があるのだったら姉の話も書きたいと思い、ローズの恋についても後から大まかな筋を考え始めた作者です。そして構成を練った「色豪騎士の負け試合」では姉のローズがマキシムと結ばれるのは妹より先になりました。ネタバレを考えると、どうしてもローズの話を先に公開しないといけません。


 話を書く順番と公開順は必ずしも一致しません。しかも「色豪騎士」のすぐ後には、あの当て馬一号君ティエリーが幸せを掴む話である「溺愛警報発令中!」を公開したかったのです。シリーズを順に読んで下さっている読者の方々の記憶が薄れないうちにすぐ連載完結できて良かったと思っています。この二つの物語はほぼ同時に進行して大きく関わり合っているからですね。


 ということで最近の三作の中で一番最初に構成などを考えていた「忍び」は最後の最後まで温めておくことになりました。姉と妹を比べると妹の方がより波乱に満ちた生涯を送っているので後出しで締めくくりました。


 さて、お父さんアントワーヌの話「蕾」でもお姉さんローズの話「色豪騎士」でもマルゲリットの性格や将来のことについて小出しにしていました。


 まず「蕾」の座談会でアントワーヌがこう言っておりました。


『ナタニエルは魔術師でしょ、ローズは文官になって司法院に勤めたいらしい。末のマルゲリットは何になりたいんだろうねえ、ドウジュ?』


 マルゲリットは「色豪騎士」の話で既に剣を振り回したり活発なことは述べていました。彼女には想う人がいるということもローズは察していました。そしてアントワーヌ君がマルゲリットは将来遠くに行ってしまうとほのめかしていたこともローズは何となく気付いていました。


 さらに「溺愛」ではティエリーさんがマルゲリットについてこう思っています。『姉のローズよりもずっと人目を引く容貌なのに何となく気配がないというか、存在感がないというか、そんな感じだ』そして『まあそんなことはどうでもいいのだ』とも。彼は溺愛する彼女一筋ですものね……


 この物語、作者泣かせだったのが、ダンジュ君です。主人公なのに名前がないのですから! 本名を明かすまでは彼、サスケ、マルゴの守護戦士などと書くしかなく、苦労させられました。それに主要登場人物紹介がなかなか出来ませんでした。第十一話の後にやっとです。シリーズ作最遅でした。


 この王国シリーズの中では「細腕領地復興記」のステファンさんが一番お行儀の良い男性主人公という不動の地位にいるのは今でも変わりません。ダンジュ君もこの話では悪い子マルゲリットの方から猛烈なアタックを受けながらも、最後まで理性を保っておりました。ということで今のところステファンさんに次いで二位をダンジュ君には授けたいと思います。そう言えば「この世界の何処かに」のクロードも結婚まではしっかり我慢していましたから彼と二人同点二位でしょうか。


 アントワーヌ君は二人の娘をローズ姫、マルゴ姫と呼んでいます。ですからこの作品の題名には『姫』という言葉をどうしても入れたかったのですね。考えに考えた末、ある古典の作品の題名をもじり「忍び愛づる姫君」とさせていただきました。


 そして各話の題名は「蕾」と同様、話の内容に合ったことわざ慣用句を使いました。「蕾」で使った言葉と重ならないようにしたのですが、巻ノ二の「壁に耳あり障子に目あり」だけは「蕾」の第十五話と同じになってしまいました。気付いた時にどちらかを変えようとしたのですが、しっくりくる言葉が見つからず、諦めました。


 そして最終話は二つの物語とも江戸いろはガルタの「京の夢大阪の夢」をもじった「王都の夢、領地の夢、里の夢」で全く同じ題名にしました。この題名は私自身とても気に入っていて、再使用できる機会が今回あって感慨深いです。


 アントワーヌとフロレンスが「蕾」で言った私の好きな台詞をダンジュとマルゲリットにも言わせてみました。


「一生、全身全霊をかけてマルゲリット様を慈しみ大事に致します」


「ダン、貴方に愛され慈しまれたゆえに私は咲けるのよ」




 長々とこの作品を執筆する上での逸話を書いてしまいました。とにかく「蕾」の次に書くのに気力を削られたこの物語も最後はめでたしめでたしで完結、ほっとしております。


 さて、ソンルグレ家の長女と次女が落ち着いたところで、もう皆さん次は誰の話かお分かりの方もいらっしゃると思います。この作品中でもさらっと述べておりました。次作も続けて読んで下さると嬉しいです。




           合間 妹子

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忍び愛づる姫君 王国蕾外伝 花の名前2 合間 妹子 @oyoyo45

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