第十六話~カルディナ村2~
ーーールーディア王国 安らぎの里
一通りの買い物が終わった後、明日の待ち合わせの約束をして、宿に戻った。
シスターに挨拶をして部屋に戻る。買ってきた荷物を整理して、準備を終えたところにマルスとニトがやってきた。
俺が帰ってきたことを知って遊びに来たようだ。
明日、俺がこの宿を出ていくことを伝えると、マルスとニトは驚いたような顔をした。
「えぇ、にーちゃん、もう出ていくのかよー」
「もーちょーっと、遊びたかったー」
「ゴメンな、俺もやることがあるんだ。また帰ってきたら遊んでやるからな」
「約束だぞ、絶対だからなっ!」
「やくそくー、ぜったいー」
ゆびきりして、ニトとマルスの頭を撫でてやったところで、セリカとちょこらんたが現れる。どうやらニトとマルスは仕事をサボって俺のところに来たようだった。
「マルス、ニトっ! まだ仕事が残っているのですから、サボっちゃダメですわ」
「でも、にーちゃんが帰って来たんだぜ」
「そ、それはそうですけども」
「セリカも遊びたいんだろー」
「みんなでー、遊べばーいいんだよー。赤信号ーみんなでー渡ればーこわくない?」
「馬鹿なこと言わないで!」
「ぷーっクスクス、セリカったら図星食らって顔を真っ赤にしてやんの」
「もーちょこも馬鹿にしないでよー」
子供たちは笑いながら部屋を走り回った。どうせ俺以外のお客もいないし、俺自身も特に注意をしていなかったから気が緩んでいたのだろう。
シスターが俺の部屋に子供たちを呼びに来て、それぞれげんこつを食らっていた。
これがお客の前だったら大失態だったな。
あ、俺も一応客なのか。しかもイディア教の使徒様。今のは粗相だな。
俺もそこまで気にしていないし、子供たちが笑っているほうが嬉しいので、特に気にしないとシスターに告げた。
シスターは申し訳なさそうに謝って、子供たちを連れていく。
俺は明日この宿を去る。子供たちにとってもシスターにとっても、緩い仕事が終わり、明日から忙しくなるのだろう。
今日ぐらいはいいだろうと思って、子供たちをいっぱい甘やかした。
ただし、セリカとちょこには一切触れなかったがなっ!
こうして俺は、安らぎの里の最後の一日を過ごした。その日の夜は、なぜかぐっすりと眠ることが出来た。
ーーールーディア王国 商業区
朝早くに目を覚ました俺は、子供たちとシスターに「ありがとう、また来るよ」と言って宿を出た。
ミーナと待ち合わせしている商業区に向かい、ミーナと合流する。
ミーナはなんだか眠たそうにあくびをしていた。
「凄く眠そうだけど、大丈夫か?」
「ふわぁ、あ、奏太。おはよ~。もうすぐ妹に会えると思うとなんだか眠れなくて」
「遠足の前日に楽しみで眠れない小学生かっ」
俺にしかわからないツッコミだったので、ミーナは首を傾げる。
出稼ぎに出ているミーナにとって、妹と会うことは眠れなくなるほど楽しみなことなのだろう。
俺たちは、待合所に向かい、馬車の手配をした。出発まで少しだけ時間があったので、屋台で適当な食べ物を買って、朝食を食べる。
ミーナは遠慮してたけど、俺にはイディア教から支給されたお金がたんまりとある。
だからミーナにもおごってやった。
ミーナは貴重な情報をくれたし、これから一緒に向かうカルディナ村は、きっとお告げと何かしらの関係があるだろう。
使徒としての役割を果たすための必要経費として、ミーナにおごることぐらい許してくれるだろうと、心の中で言い訳した。
まあ、誰かに何を買ったか知らせているわけじゃないから、ばれようがないんだけどな。
軽く朝食を食べた後、再び馬車の待合所に戻り、出発した。
流れる景色を見ながら、俺は再度異世界にいることを実感した。
ーーールーディア王国 カルディナ村
気が付けば、もう4日が立っていた。旅はあっという間に終わってしまうと誰かが言っていたような気がするのだが、その言葉は本当だった。
揺れる馬車でぼーっと過ごし、ほのぼのとした景色を眺める。たまに獣が襲ってきたのを追っ払い、馬車でまた進む毎日。正直言ってかなり退屈だったけど、ゆっくりはできたと思う。
そんな馬車旅も今日でおしまい。俺たちはカルディナ村に着いたのだ。
俺とミーナは御者にお礼を言って馬車を下りた。
馬車が止まったのはカルディナ村の待合所。つまり、俺が降り立つこの場所がカルディア村であるのだが、何かがおかしい。
俺の目の前には、いたって普通の村の光景が広がっていた。
あれ、カルディナ村ってオレンジが名産で、現在音信不通じゃなかったっけ。ん?
「ミーナ、何かおかしな点はあったか? 俺には普通の村にしか見えないのだが」
「あら奇遇ね。私も普通の村にしか見えないわ」
ちょっとふざけた感じの言葉だったが、声色はとても穏やかて、なんだか安心したような表情をしていた。
妹が暮している村で、音信不通となったと聞いたならば、誰だって不安に思うだろう。
というか、馬車が普通に来ているのになんで音信不通になるんだろう。不思議だ。
俺はなんとなく振り返り、馬車の去り際を見たのだが、俺たちが乗っていた馬車がどこにもなかった。
「あれ、馬車はどこ行った?」
「もう引き返したんじゃない?」
「それにしてもいなくなるの早すぎだろう。もう見えないぞ」
「うーん、どうしてなんだろう」
そういえば、商業区でカルディナ行きの馬車を探したとき、なかなか見つからなかった。
唯一見つけたのが、俺たちが乗ってきた馬車だったのだが、客は俺たち以外にはいなかった。
もしかして、得体のしれない何かの力が働いているとか。
ここに不浄なるものがいたとして、王都からは距離がある。問題が起こるにしても、俺が駆け付けるまでに少し時間がかかっただろう。
そのことを考慮して、あいつが何かをしたというならば、納得ができるのだが、今は情報が足りないからそうだとは言い切れない。
何せ、音信不通と言われているカルディナ村が、特に問題なさそうだったからな。
村の様子は、平和そうにオレンジを手入れしているおっちゃんがいたり、若い女性が畑仕事をしているおじさんに声をかけていたり、子供たちが楽し気に走りまわっている。
いたって普通の村だった。日本にいたころの田舎の農家だとこんな感じなんだろうかと思わせる。
たくさん実っているオレンジは遠目で見てもわかる艶があり、どれもおいしそうだった。
商業区で見かけた、痛んだようなオレンジとは大違いだ。
俺とミーナは村の奥に進んでいく。ミーナの顔を知っている人がいたのか、時々こちらに向かって会釈をする村人がいた。
俺とミーナは一緒に会釈をすると、ほほえましそうに見られた。なんか勘違いされている気がする。
訂正しようにも、雰囲気で俺が勘違いされていると思っただけで、本当にそう思われているかは分からない。
俺は何も気にしないことにした。
歩いて数分立ったころだろうか。ミーナのもとに一人の女の子が走ってくるのが見えた。
女の子はミーナのおなか辺りにダッシュで突っ込んできて、それを受け止めたミーナは少し苦しそうな顔をしながらも女の子を真っすぐと見つめた。
「ただいま、ティーナ。元気してた」
「お帰りお姉ちゃん。私はいつも元気いっぱいだよっ」
そう言いながら、ティーナと呼ばれた女の子は腕をめくった。そして力こぶを作るようなしぐさをとる。なんだかほほえましい光景だ。
白っぽい肌、細い腕、どっからどう見ても元気そうには見えない体つきをしていた。
表情はその逆で、とても明るくて可愛らしい表情をしていた。それを直視してしまった俺は、突然起きた発作に対処する。蕁麻疹が出てき始めたところに薬を塗った。
あれは俺には関係ないと自分の心に言い聞かせ、再びミーナとティーナに向き合った。
「あ、ごめん、紹介していなかったね。この子はティーナ。私の妹よ」
「初めまして、ティーナと言います。姉がいつもお世話になっています」
ティーナは礼儀正しくお辞儀をした。
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