第七話~お告げと神の使徒4~
ーーー王都ルディリア テラス
パーティー会場を抜け出した俺は、出てすぐの場所にあるテラスに身を潜めた。
口に手を当てて、走って乱れた息の音が漏れないようにする。
「使徒様、どちらにいらっしゃいますかっ!」
「奏太様、私も初めてですが精一杯お勤めさせていただきますので、これから夜の営みを致しましょうっ!」
などという声が聞こえてくる。身を潜めている俺には気が付いていない様子。
そのまま身を潜めていると、姉妹はどこか別の場所を探しに出かけた。
こんなことになるのなら、最初から逃げておけばよかった。
そっと、顔を出して辺りを確認する。姉妹がいる様子はない。どうやら俺は助かったようだ。
大きなため息を吐いて、その場に腰を下ろした。
姉妹は本当にきれいな女の子だ。あれが二次元なら真っ先に攻略すると思う。
だけどあの子たちは三次元、つまり屑だ。かかわりあったら命がいくつあっても足りないに決まっている。
下手に王城にいると、いつ襲撃してくるか分からないな。
よし、この城を抜け出そう。お姫様だとしたら、お城をそう簡単に抜け出すことはないだろう。
「こちらにいましたか、使徒様」
突然、後ろから声をかけられた。ドキッと強い鼓動がなり、心臓が飛び出るかと思った。
ビビりながらも後ろを振り向くと、二コラ大司教が笑顔を浮かべながら立っていた。
恐ろしい双子姫ではないことに安心して、俺は溜息を吐く。
安心しきったタイミングで、奴らが現れた。
「そこにいるのは、二コラ大司教ですか」
「そこの人、奏太様を、奏太様を見ませんでしたかっ!」
「これシリア。この方はイディア教の大司教様ですよ。無礼は私が許しません」
「レイラ姫、そこまでにしなさい。私は別に気にしていませんので」
「ありがとうございます」
声だけ聞いていると、レイラ姫がとてもまともな人間に思えてくる。
だけどあの双子姫は狂っているのだ。ここで捕まってしまえば、俺の未来は死以外にあり得ない。
俺は二コラ大司教に視線を送る。
お願いだ、わかってくれ……。
二コラ大司教は、ちらりと俺を見た後、微笑んだ。
「使徒様でしたら、あちらの方に行きましたよ」
「「情報提供ありがとうございますっ!」」
「さぁ、使徒様に使ってもらうために、急ぎますわよ、シリア」
「わかっていますわよ、お姉さま。これから生まれる22人の子供のために、奏太様には頑張っていただかなければ」
「「待っててくださいね、奏太(使徒)様~~~~」」
そう叫びながら、二人の足音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
二コラ大司教が「もう大丈夫ですよ」と声をかけてくれたので、俺はその場にそっと立ち上がる。
「その、ありがとうございます」
「なんのことはありません。使徒様が困っているようでしたので。ご迷惑だったでしょうか」
「そんなことありませんよ。とても助かりました」
「それはよかった。双子姫が戻ってくる可能性もありますし、場所を移動しましょう」
「そうですね。いろいろとありがとうございます」
二コラ大司教はにこりと笑って、俺を先導するように歩き始めた。
男の人と一緒にいるだけでとても安心するのだが、こんなことを思っていると時折自分がホモなんじゃないかと思ってくる。
知らない自分がいるようで、なんだか怖い。
俺はホモじゃないと心の中で呟きながら、二コラ大司教の後を追った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ーーー王都ルディリア 客室
「こちらの部屋でしたら、襲撃してくることはないでしょう」
俺は客間のような場所に案内された。二コラ大司教が言うには、来客と個別に話し合うための部屋らしい。
小会議室のようなものなのかなと思いながら、中に入って椅子に座る。
二コラ大司教は俺の目の前にある椅子に座り、まるで二者面談でもやっているような構図が生まれる。
「さて、使徒様。単刀直入に言わせてもらいます。あなたは女性が苦手ですね」
「うぐ……。まあ見たらわかりますよね」
「やはり。申し訳ありません。我々がそこまで配慮できず、双子姫の暴走を許してしまって」
「それは仕方がないですよ。彼女らはこの国の王女様ですから。誰も逆らえなかったんでしょう」
「そういっていただけると助かります」
まさか二コラ大司教と客室で二人っきりになれるとは思っていなかったが、これはチャンスなんじゃないだろうか。
そもそも、この世界にどんなお告げがあったのかすら知らないんだ。
話を聞いて、これからの方針を考えよう。
「二コラ大司教、少し聞きたいことがあるのですが」
「使徒様の頼みであれば何でも答えましょう。ただ、知っていることしか答えられませんが」
なんだろう、機密情報とかもペラペラしゃべってしまいそうな雰囲気は。
これはお偉いさんとしてはまずい感じがする。
俺がイディア教の中で高い地位にいるんだから、こんな反応されるのは当たり前ということも考えられるが、なんか心配だ。
「俺が召喚される前にお告げがあったと聞きましたが、その詳細を教えていただけませんか」
「分かりました。あれは今から12日と17時間25分42秒前のことでした」
……時間が細かい。
「神イディア様より『この世界に不浄なるものが舞い降りた。それに対応するべく我が使徒を遣わす。丁重に扱い、協力せよ』というお告げが来たのです」
おいおいおい、ちょっと待て。不浄なるものの対処? あいつはそんなことを一言も言っていなかったぞ。
俺がやれと言われたのは信仰を集めることだ。
それがどうしたら不浄なるものとやらを取り除くことになるんだよ。
「な、なるほど。私はあまり詳しいことを訊いていませんので、初めて知りました」
「神イディア様から伺っていなかったのですか? ということは、不浄なるものがどちらにいるのかすら分からないということですか」
俺は静かに首を縦に振った。わかるわけがない。だけど、俺は別の世界を知っている人間だ。もしかしたら俺にだけわかる何かがあるのかもしれない。
「ということは、俺がまずやるべきことは情報収集ってところですかね。その不浄なるものがこの世界に舞い降りたのなら、何かしらの異変が起こっているはずです。まずはそこからですかね」
「きっとそうおっしゃると思い、準備しております」
二コラ大司教は、何か書かれた用紙を俺にそっと渡してきた。
その用紙を読むと、地図が描かれており、とある場所に赤く丸が付いていた。
「……これは?」
「その赤丸の場所は、イディア教で運営している宿です。まずはそこを拠点に活動してはいかがでしょうか。あと、使徒様が使うであろう装備品や日常用品などなど、すべてこの宿に準備しております」
「まさか、ここまでやってもらえるとは思っていませんでした」
「いえいえ、神イディア様のお告げの通り、できる限りのサポートを指していただきます。それに……」
二コラ大司教は机を乗り出して、俺に顔を近づけてきた。
「女性嫌いの使徒様がお城に住まうのはいろいろと大変でしょう? 私がうまくごまかしますから、お城のことはお任せください」
小さな声で言いたいことを言い切った二コラ大司教は、にこりと笑みを浮かべた。
これが若く無邪気そうな人なら、可愛らしいと思えるのかもしれないが、40超えてそうな大司教にやられても、一体何を企んでいるのだろうぐらいにしか感じられない。
だけど、ここまで準備をしてもらったんだ。ありがたく受け取ろう。
二コラ大司教は、席を立って壁に手を当てた。その壁を押すと、ぐるりと周り、奥につながる道が見えた。
「この客室には外に行くための抜け道がございます。こちらを使って逃げてください」
「いろいろとありがとうございます」
「こちらこそ、こんなことしかできなくてすいません。ご健闘を祈ります」
俺は二コラ大司教に挨拶をした後、そのまま通路に入り込んだ。
入った後は音を立てて扉が閉じた。バレないようにと二コラ大司教が閉めてくれたんだろう。
「よし、行くかっ」
俺は地図を広げ、赤い丸を目指して走りはじめ……あることに気が付いた。
あ、この地図外の奴じゃん。この隠し通路についてないも書いてないし……。
どうしよう、初っ端から積んでるじゃん。
誰か、助けてっーー。
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