異世界チートハーレムというテンプレ展開に巻き込まれた男がハーレムだけは嫌だと逃げるような物語
日向 葵
第一話~プロローグ~
ーーー名もなき場所
どこにでもあって、どこにでもない、誰もがいて誰もいない不思議な場所。
『私』はそんな場所で生まれました。
でも、その時の『私』はただ漂うだけの存在。
意識は霧がかかったようにぼやけていて『私』が『私』であることすら分からなかったのです。
でも、ある少女との出会いが『私』を変えました。
その少女はとても重い病気を抱えており、友達もいない、そんな状況のせいか、孤独に苦しんでいました。
その少女の願いが、『私』に『私』としての理由を与えてくれたのです。
全てを感じて何も感じない、楽しんでいるようで苦しんでいる、生きていて死んでいて、意味があって無意味な存在であった『私』は、この時、本当の意味で世界に誕生した、そんな気さえしました。
今まで霧がかかったようにぼやけていた意識が明白になり、自我まで手に入れられて、『私』は『私』として存在が許されたのですから。
ですが、いったいなんのために『私』は自我を手に入れられたのでしょうか。
たった一人、孤独に苦しむ少女。
もし彼女のために『私』が生まれたのなら、『私』が『私』としての自我を手に入れられたことに何か意味があるはずです。
ですが、『私』の存在は結局、そこにいてそこにいない、生きていて死んでいる、誰でもあって誰でもない存在。少女には触れることもできず、話すこともできない、笑いかけてあげることもできず、病気を治してあげることさえできませんでした。
今のままでは『私』はあの少女のために何もできない。
『私』は欲しい。『私』が『私』としていられる姿を、形を、そのすべてを。
あの少女はもう長くない。だから『私』は……。
そして『私』は見つけました。『私』が『私』になるための方法を、そのための手段を……。
そのためのピースとなるのは一人の男。
容姿端麗で頭脳明晰、そのために人に疎まれ恨まれて、周りを不幸にしていくそんな男。
その男が『私』の計画に加われば、願いが成就できるはず。
さぁ、『私』のために働いてください。
すべてはあの少女と『私』のために。
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