第6話 古代オリエント編(6)オリエントの神話
(1)シュメール神話
シュメール神話は、シュメール人の神話です。
シュメール地方の支配層がシュメール人→アッカド人→アムル人と移ろっていく中で、アッカド神話、バビロニア神話、さらにはアッシリア神話に影響を与えます。
【1】世界
シュメール人の世界は、ドーム状の空と、大地、そして大地を取り巻く原初の海でできています。さらに大地の下には地下世界と淡水の海があると考えられていました。
天空の神が『アン』(アッカド語でアヌ)、大地の神が『キ』です。そして、原初の海を『ナンム』(のちに『ティアマト』と呼ばれるになります)、地下にある淡水の海を『アスプー』といいます。シュメール神話の時代では『ティアマト』も『アスプ―』も海そのものを指していて、神格としては理解されていなかったようです。
【2】神々
アンとキは、『エンリル』を生み出します。彼がシュメールのパンテオンの主神となります。シュメールの神々は、「アヌンナ (Annuna) 」(五十柱の偉大なる神々。アンの子の意味)と「イギギ (Igigi) 」(小さな神々)に分けられます。エンリルらは、「アヌンナキ(運命を決する7柱の神)」(エンリル、ニンフルサグ、イナンナ)に属します。
シュメールのパンテオン
『エンリル』は、大気の神であり( EN = 主人、LIL = 風)、ニップルの都市神です。
『ニンリル』は、大気の女神でエンリルの妻です。エンリルとの間で、(説話によっては強姦されて)ナンナを生みます。
『エンキ』は、大地の神であり(EN=王、KI=小山)、知識・魔法・淡水を司る神。エリドゥの都市神です。。
『ニンフルサグ』は大地の女神です(NIN=女主人、Hursag=聖なる山)。エンキとの間に『ニンサル』という植物の女神を生みます。
『ナンナ』(シン)は、月の神で、ウルの都市神の一です。アッカド語でシン。
『ニンガル』は、アシの女神で、ナンナの妻です(NIN=女主人、GAL=偉大な)。ナンナとの間に、エレシュキガルやウトゥ・イナンナの双子を生みます。
『エレシュキガル』は冥府の女王です。夫は『グガルアンナ』。アッカド語でアルラトゥ
『ネルガル』は後代においてエレキシュガルの夫とされた冥府の神です。
『ウトゥ』(シャマシュ)は、太陽の神、シッパルの都市神です。アッカド語でシャマシュ。
『イナンナ』(イシュタル)は、戦い、金星、愛や美、豊穣の女神で、ウルクの都市神です(NIN=女主人、ANNA=天)。アッカド語でイシュタル。
『ニヌルタ』(ニンギルス)は豊穣(農業・狩猟)と戦闘の神で、ギルスの都市神です。またラガシュの都市神『ニンギルス』と同一視されます。
【3】冥界下り
【4】人の創造
【5】洪水神話
神々の王エンリルは、地上に繁殖した人類の騒がしく煩わしかったので彼らを滅ぼすことにした。1度目には旱魃を、2度目には飢饉を、3度目には疫病をもたらします。しかし、エンキは人間の賢者アトラハシスに灌漑農業・麦の栽培・医学の知識をもたらし、腹違いの兄弟であるエンリルの計画を阻止します。
エンリルは今度は、洪水を起こすこととし、人類を絶滅させる計画を人類にもらさないよう、神々に約束させます。エンキは、アトラハシスの住んでいる葦の小屋の壁を通して、彼ら人類に迫る危機を聞かせた。そして、アトラハシスと彼の家族の乗るための舟の作り方を教えました。そして大洪水が訪れ、7日7晩続いた。
アトラハシスは生き延びることができた。
この話がノアの箱舟の原型になったことは明らかです。
【6】ギルガメシュ叙事詩
① ギルガメシュはウルク王ルガルバンダを父に、女神リマト・ニンスンを母に持ち、シュメールの天空神アヌ、主神エンリル、水神エアから知恵を授かります。その体の2/3が神、1/3が人間という半神半人の存在でした。
ギルガメシュは英雄であると同時に暴君だったので、その横暴ぶりを嘆いた市民たちの訴えを聞いた神は、粘土からエンキドゥを生み出しました。
② ギルガメシュとエンキドゥは死力を尽くした大熱戦を繰り広げますが、決着がつかず、互いの力を認め合い無二の親友となりました。そして、ギルガメシュは民から愛される王になりました。
③④⑤ ギルガメシュとエンキドゥは、杉の木を手に入れるために怪物フンババを退治します。
⑥ 次に愛と美の女神イシュタルがギルガメシュに恋をしますが、ギルガメシュはイシュタルの恋人たちが悲惨な末路を遂げていることを理由に求婚を断ります。激怒したイシュタルは父アヌを脅し、聖牛グガランナをギルガメシュ殺害に差し向けさせますが、ギルガメシュはこれを撃退します。
⑦ こうして森番フンババと聖牛グガランナを倒したため、ギルガメシュとエンキドゥは神の怒りを買い「2人のうち1人が死なねばならない」ことになります。結局、エンキドゥが熱病のために息を引き取ります。
⑧⑨ ギルガメシュは友の死を嘆き悲しみます。そのうちに次第に死の恐怖に怯えるようになり、永遠の生命を求め旅立つ決意を固めます。そして「大洪水」を生き残り不死となった賢者ウトナピシュティムに、不死のことを聞き出すための旅にでるのでした。
ギルガメッシュは、地の果てマシュ山に辿り着きます。そこには門を守る二人のサソリ人間(ギルタブルル)がおり、ギルガメシュを引き留めます。
⑩それで諦めないギルガメシュはついに賢者ウトナピシュティムの元に辿り着きます。
⑪賢者はどうして自分が不死となったかを語り、最後に洪水があったのと同じ6日6晩の間を「眠らずにいてみよ」と告げますが、ギルガメシュは眠ってしまいます。失意のまま帰路につくギルガメシュの出立の際に、その労苦を哀れんだ妻の助言により、賢者は若返りの植物「シーブ・イッサヒル・アメル」が海の底にあることを告げます。
ギルガメッシュはこれを手に入れます。しかし、期間の途中、蛇がその植物を奪ってしまいます。こうして蛇は不死となったのでした。
ギルガメッシュはウルクへと戻ります。
おしまい
(2)アッカド神話
アッカド人はシュメールを征服すると、シュメールの神話をほぼそのまま受け入れました。
(3)バビロニア神話
バビロニア神話も基本的にはシュメール神話を基礎としましたが、バビロンの都市神『マルドゥク』の地位が著しく向上しています。
バビロニアの創世神話は『エヌマ・エリシュ』 (Enûma Eliš) という創世記叙事詩にまとめられています。
【1】エヌマ・エリシュ
真水を司るアプスーと塩水を司るティアマトから、霧を司るムンム等が生まれます。また、アプスーとティアマトは、ラハムとラフム(共に海の沈泥(シルト)の神格化)を生みます。そして、ラハムとラフムはアンシャル(天の神)とキシャル(大地の女神)を生みます。さらにアンシャルとキシャルがアヌを生みます。
そしてアヌはエア(メソポタミア神話のエンキ)とその兄弟となる神々を生み出します。生まれた神々が非常に騒がしかったため、アプスーとティアマトは不愉快に思い、アプスーは神々を滅ぼそうと企てます。まずティアマトに相談しますが反対されます。そこでアプスーはムンムの助言を受けて計画を企てますが、悟られてしまいエアは魔法でアプスーを眠らせて殺し、ムンムを監禁しました。
エアはアプスーの亡骸の上に自らの神殿を建設します。そして妻ダムキナとの間にマルドゥクをもうけます。マルドゥクの誕生を喜んだアヌにより贈られた4つの風で遊ぶマルドゥクにより、ティアマトの塩水の体はかき乱され、ティアマトの中に棲む神々は眠れなくなりました。配下の神々の訴えを聞き、ついにティアマトはアプスーの復讐を決意します。
ティアマトは、息子のキングーを第2の夫とし「天の石版」(トゥプシマティ)を与えます。ティアマトは11の怪物の軍団を作ります。
マルドゥクは自分を最高神とすることを条件に先頭に立ち、ついにはティアマトを滅ぼします。マルドゥクはティアマトを亡骸を使い、世界を構築し、キングーを処刑すると亡骸から人間を生み出しました。
こうしてマルドゥクは最高神となりましたとさ。
(4)アッシリア神話
アッシリアの王センナケリブ(前704~前681)の宗教改革によりアッシュールの都市神アッシュールがマルドゥクに置き換えました。
(5)ウガリット神話
ウガリット神話はウガリットを中心としたカナンの地で信仰された神話です。旧約聖書に多大な影響を与えました。
『イル』:最高神。
『アーシラト』:イルの妻。神々の母。
『バアル』:嵐と慈雨の神。
『アナト』:愛と戦いの女神。バアルの妹にして妻。
『アスタルト』:豊穣多産の女神。
『モート』:死と乾季の神。バアルの兄弟にして敵対者。
『ヤム』:海と川を神格化した神。バアルが最初に敵対する。
『シャヘル』:イルの子で曙(明けの明星)の神。ルシファーの原型とされる。
『シャラム』:イルの子で黄昏(宵の明星)の神。
『ラシャプ』:疫病の神。
『アッタル』:金星、すなわち曙(明けの明星)の神。バアルが死に瀕して冥界に降っている間、代わりに玉座を我がものとしようとする。ルシファーの原型とされる。
『シャプシュ』:太陽の女神。
(6)エジプト神話
古代エジプト編で紹介します。
みんなで世界史を勉強しよう~西洋史編~ まめたろう @mame-taro
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