プロキャッチャーを目指す僕、君の心もキャッチしていいですか?
桜井 空
第1話開幕
暗い室内。淡い光に照らされて、僕青島卓とクラスメイトの女子夢川南は緊張した表情で見つめていた。
奥の見えない穴の中に、僕は指を近づけていく。
「~~~~っ早く・・・・しなさいよっ」
僕が穴の中に入れた瞬間、夢川さんのゴクリと息を飲む音が室内に響く。
「夢川さん、緊張してるの?」
「そんなわけ・・・・・ないじゃないっ」
二つの膨らみの一つをソフトに触れる。
「・・んっ・・・・もっと左よ・・・・」
「こう?」
「ち、ちがうっ・・・いきすぎっ」
そこで、僕は、もう一つの膨らみに手を移動させる。
「もう、気付くの遅いわよ」
夢川さんからの悪態は一先ず置いておいて、僕は膨らみを優しく触れ続ける。
「・・・いい、、、、すごくいい感じ・・・・」
僕は触れている指を離して、ターゲットに狙いを定めた。そして、ターゲットに掴みかかる。
スカッ
だが、僕の放った二つのアームはターゲットではなく、虚空を掴む。そして、クレーンは何も掴まないまま上昇していく。
「うがぁぁぁぁぁ。これで今月のお小遣い全部使い切っちゃったよぉぉぉぉ」
嘆く僕に対して、ため息まじりに呟く夢川さん。
「だから言ったじゃないっ、青島君は左右のボタンを押しすぎの癖があるのよ」
「そうは言ってもさ、割といいタイミングで離してると思うんだけど」
「確かにあなたが景品の真ん中を狙ってるなら及第点だとは思うわ」
「じゃあ、何でアームに引っかかりもしないんだよぉ」
へなへなと崩れ落ちる僕。そんな僕に対して、容赦ない一言を投げかける夢川さん。
「それは青島君が下手だからよ」
グサッ。彼女の言葉の刃が僕の心に突き刺さる。夢川さんはほんとズバズバ言ってくる。
そんな僕の心境を知るはずもなく、夢川さんは言葉を続ける。
「交代よ。私に代わって」
そう言って、僕の真横に移動してくる彼女。ふんわりと石鹸の良い香りが鼻をくすぐる。どぎまぎしながら、隣でクレーンゲームに興じる夢川南に目を向ける。学園一の美女と名高い彼女。
華奢な体つきながらも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。高校男子をして妄想たらしめるには十分な体つきだ。髪型はストレートボブで、黒髪の間からは整った顔が覗いている。長い睫毛の下で輝く、ぱっちりとした丸い瞳が特徴的だ。
纏う空気は一見さんお断りみたいなオーラだけど、意外と話してみると可愛いところも見えたりする。そんでもって、薔薇色の唇から零れる言葉は毒を持っていることが大半だけど、困っている時にはほっとけないみたいな世話好きの一面もあったりする。
こんな彼女の細かい特徴を1週間前の僕だったら知る由もなかっただろう。1週間前の放課後、ゲームセンターでばったり遭遇するまではね。
こんなふうに彼女との出会いを思い出していた僕だったが、彼女が急に振り向いてきたためドキッとしてしまう。
「青島君見てよ。ほら、今期の魔法少女タクティクスの『アミさん』フィギアゲット♪」
夢川さんは満面の笑みを浮かべて、たった今手にしたばかりの戦利品を僕の前に見せつけてくる。学校では大人びた雰囲気の夢川さんだけど、景品をゲットした時に僕に向けてくれる無邪気な笑顔からは年相応の女の子って感じで、ギャップがあるっていうのもつい最近の発見だ。
「おめで・・・。ってあれ夢川さん、今度はどこに行くの?」
僕がお祝いの言葉を言い終わる前に、彼女は僕の袖をちょこんと白雪のような指で掴んで別の所に連れて行こうとする。
「決まっているじゃないっ。次の景品をゲットするのよ!ほら早くっ」
僕は夢川さんに引きずられるようして、彼女の後を追いかけていく。
実のところ、今のこの状況に嬉しさ半分・もやもや半分ってのが僕の心境。夢川さんと放課後一緒に遊べるのは嬉しいんだけど、なんか男として見られていないような感じがするんだよね。
だからこそ、僕は誓ったんだ。夢川さんが大好きなUFOキャッチャーを上手くなって、彼女のハートもわしづかみしてやろうってね。
そんなわけで、まずは夢川さんとの出会いの時から物語を始めるとしようか。
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