第3話持ち物検査にひっかかる愚か者は誰でしょう?

 始業のチャイムが鳴ったのに気づいた僕は、ひとまず落ちていたねんどろいど『魔法少女アミたん』をバッグの中に押し込む。そして、校門をくぐると、自分のクラスを確認してから、猛ダッシュ。


 教室の扉の前に着くと、少しだけ扉を開けて中の様子を伺う。当然っちゃ当然なんだが、みんな席に座ってる。こうゆう時ってめっちゃ入りづらいな~とか思う。まぁ、遅刻した僕が悪いわけですが。抜き足差し足で窓側の一つだけ空いた席(恐らく僕の席)に向かう。


 自分の席に自然に座ることができた僕は、安堵のため息をつく。ちょうど、クール系美人の女教師と目があったような気がしたが素知らぬふりをする。


 でも、バレた。オーマイガー。カツカツとハイヒールの音を鳴らして、近づいてきた女教師は、出席簿で軽く僕の頭をはたく。うん幸せ。美人女教師に攻められるとかご褒美ですか?じゃなくて。


 ため息まじりに、女教師は僕に問いかけてくる。腕を組むもんだから、スーツの上からも分かる膨らみがより強調されてしまう。目のやり場に困るので止めて頂きたい。


「一応聞いておくが君は女の子か?」


おっと、まさかの『女の子と僕の身体が入れ替わっちゃった的な展開』をご所望ですか?でも、残念!男でした。


「先生、僕が女の子に見えますか?」


「その小生意気な発言、青島卓だな。君の席はそこじゃなくて、廊下側の一番前だ」


 小生意気と言ったら、青島♪みたいな連想ゲーム止めようか。まぁ、先生に抗議するなんてできないけどさ。


 何はともあれ、さっき扉の隙間から見たときは死角になっていたけど、もう一席空席になっている部分があったようだ。すいません、と言いながら、自分の席に歩いていく。周りからはクスクスと笑い声が聞こえる。穴があったら入りたい。


 でも、その笑い声もすぐに止まった。教室のドアがガラッと大きな音を立てて開いたからだ。それに加えて、中に入ってきたのがストレートボブの美少女だったものだから、皆言葉を失って見とれてしまう。


 華奢な体つきながらも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。高校男子をして妄想たらしめるには十分な体つきだ。黒髪の間からは整った顔が覗いている。長い睫毛の下で輝く、ぱっちりとした丸い瞳が特徴的だ。多分笑顔になったらさぞ可愛いのだろう。


 何で多分かって?彼女の周りには、今とてつもない負のオーラが漂っていて、笑顔が覗く隙間すらないからさ。


 少女からにじみ出るどす黒いオーラを察知した女教師は、とりあえず席につけー、とだけ言って教壇に戻る。触らぬ神に祟りなし。


 それにしても、何であんなに黒いオーラまとってんだ?とか思ってると、女教師がしゃべりはじめた。


「初日から遅刻が二人もいるとは、問題児が多そうなクラスだな。まぁいい、私もそちらの方が楽しみがいがあるってもんだ。さて、改めて自己紹介をしておこうか。私は、佐藤千種。君たちのクラスを受け持つ身だ。君たちが青春を謳歌できるように、私も全力で臨むから覚悟しておけよ」


 ぱちぱちと拍手が起こる。少し体育会系な感じもするけど、佐藤先生は生徒思いのいい先生みたい。良かったー。


「ただし、私に結婚についてのネタを振ってきた輩には、全身全霊をもって武力を行使する。そのような不届きものはいないとは思うが、一応な」


 この人笑顔で恐ろしいこと言ってきたよ。佐藤先生には結婚ネタダメ!絶対!心に誓う僕。


「あと、高校生活初日ということで今から持ち物検査をやるぞ。みんな荷物を机の上に出せー学校にふさわしくないものは没収する」


 突如佐藤先生の口から飛び出た宣告に、クラスメイトたちは口々に不平を漏らす。


「やっべー。俺ゲーム持ってきちゃったよ」


「化粧品ってセーフだよね?」


「先生バナナはふさわしくないものに含まれますか?」


エトセトラエトセトラ。


 彼らの不平を聞きながら、僕は内心こう思った。『フッバカな奴らめ』と。高校生初日に持ち物検査があるのは定番中の定番。だからこそ、オタグッズを普段持ち歩く僕だが、今日だけは家にお留守番してもらっている。さぁ、みんな自分の無知を思い知るがいい。


 僕はバッグを机の上にのっける。すると、何かの箱の角みたいなものがチャックの隙間から見える。


 何だろ?これ?とか思ってると、佐藤先生が目の前に来て、青島ー持ち物検査するぞーって言ってくる。


 先生に荷物の中を見てもらおうと、チャックを開けた瞬間、僕の額には大粒の汗が浮かんだ。



『魔法少女アミたん』ねんどろいど入れてたの忘れてたぁぁぁぁ。


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