第4話2回目のコイン投入?美少女からのお言葉はいかに?

 僕が自分のバックにあるねんどろいどの存在に気づいて停止していると、佐藤先生から声がかかる。

「どうした?青島ー。何かいけないものでも持ってきたか?もしかしてエロ本とかかー?」

 ニマニマと口の端を上げる佐藤先生。そんな彼女の言葉に再稼働した僕は、即座に否定する。

「エ、エロ本とか持ってきたりしません!」

 高校生初日から、エロ本持ってくるキャラとかに思われるのは御免だ!

「まぁそうか。最近の高校生は本より動画派かー」

「そういう話じゃありませんって」

 この先生どんだけこのネタ引っ張るんだよ。初対面の人に対して、エロネタ振ってくるところが、先生が結婚できないりゆ…

「青島ぁ?私のさっきの話覚えているよな?」

 はい。覚えています。佐藤先生には結婚ネタ駄目!絶対!笑顔なのに目が笑っていない。佐藤先生の前では、結婚ネタを考えるのも禁止だと心に刻んだ。

「さて冗談はこれくらいして、早くしろー。ぱっぱとしないと授業が始まってしまう」

もう逃げられない。覚悟を決めろ、青島卓。そして、僕はねんどろいどの入ったバックの中を先生に見せる。

 佐藤先生は案の定バックの中にあるねんどろいどに興味を持って問うてくる。

「これは何だか説明願おうか青島?」

「それは、魔法少女アミたんのねんどろいどです」

 どうやら僕の言葉を完全に理解でなかった様子で、頭にクエスチョンマークを浮かべる先生。それに対して、リアクションに困る僕。

 暫し静寂が流れる。その後、口火をきったのは先生だった。

「青島、アニメ関連のものは学校持ってきてよいものかな?」

「すいません、持って来てはいけないものです」

「わかっているなら宜しい。だがな、悪いが、この魔法少女なんたらの人形は放課後まで預かっておくぞ。校則だからな」

 先生はそう言って、ねんどろいどに手を伸ばそうとする。だが、その手はねんどろいどを掴むことは叶わなかった。なぜなら、僕の手が彼女の手首を掴んでいたからだ。先生は驚いた様子で僕の表情を伺ってくる。僕は凛とした表情で彼女を真正面から見据える。

「先生、今の発言を撤回して頂きましょうか。魔法少女なんたらではありません。魔性少女ア・ミ・た・んです。魔法少女アミたんは、5年前のアニメ全盛期に大ヒット作をたたき出したものですよ?まさか知らないのですか?」

「あ、青島?」

「え、知らない?馬鹿な…。そんな人間がこの世の中にいるなんて…。わかりました。僕が教えて差し上げます。一般には魔法少女ものにカテゴライズされますが、他の魔法少女作品とは一線を画すものになります」

「おーい、青島君?」

「え?どこが違うのかって?まず、キャラの可愛さでしょう?イラストもさることながら、数あるデレ属性を対立させることなく、絶妙にマッチさせている。次に、ストーリー。彼女たちの背負う等身大の過去が、小さい子どもたちだけではなく、大きなお友達に至るまで、今なお色褪せることなく魅了し続けているのです」

「青島、ストップ」

 先生は、自身のこめかみをおさえるようにしてつらそうにしている。どうしたんだろう?魔法少女アミたんの説明はまだ始まってすらいないのに…。

「私が悪かった。これは魔法少女なんたらではなく、魔法少女アミたんというのだな」

「ご理解頂けて何よりです」

 ひとまず、魔法少女アミたんの尊厳を守ることに成功した僕は溜飲を下げる。

「だがなこれは没収だ。そして、魔法少女アミたんについては是非同好の士と語ってもらいたいな」

 先生の発言に、自分がやらしたことに気付いた僕は赤面する。熱くなりすぎてしまった。そんな僕の様子をクスクス笑うクラスメイト。今日は恥をかいてばかりだ…。

 先生が僕からねんどろいどを受け取ろうとした時、後ろ側の席から大きな声が上がる。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 教室のにいる人たちの視線を集めた生徒こそ、僕の後から遅刻してきた、どす黒いオーラを纏った美少女だった。確か夢川さん?って言ったっけ?

 加えて、その美少女は僕の方にズンズン歩みよってくる。自然と僕の方にも視線が集まる。勘弁してくれ。これ以上悪目立ちしたくないぞ。

 夢川さんは僕の前まで来ると、開口一番すごい剣幕で尋ねてきた。

「そのねんどろいどは君のものなのかしら?」

 女の子にはやっぱり笑顔が一番だよ?なんて冗談めかして言ったら、刺されかねない表情だったので、ちゃんと答えようとする。ただ、どう説明すべきか?勿論、落とし物を拾っただけだと説明するのは簡単だ。でも、そんなこと言ったら、今朝の僕のヒロインとの出会いフラグが折れてしまう可能性がある。だから、僕は咄嗟に嘘をついた。

「うん、この前、ゲーセンで取ったんだ」

 しどろもどろになりながらも、答えて彼女の様子を伺う。すると、夢川さんは、

「・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・」

と盛大なため息をついて、トボトボと自分の席に戻っていた。

 どうやらオタク男子の趣味は、夢川さんのような美少女には受け入れられなかったようだ…。そんな彼女を最後まで見送ることもできず、僕は真っ白に燃え尽きた。


 こうして僕の輝かしいはずの青春ライフは高校生初日に終わったとさ、めでたし、めでたし。

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