第7話ゲーセンでデートってそういうものですよ夢川さん
翌日。学校の教室にて。
「うちのクラスの夢川さんって美人だよな」
「それな。あの人が彼女だったら学園生活バラ色間違いなし」
「あ、夢川さんがこっち来るぜ!」
「マジで?!ついにオレの青春が始まる」
とかなんとか話していたクラスメイトの脇を通りすぎた夢川さん。
さて、彼女の目的地はどこでしょう?
不意に、机に突っ伏していた僕の肩がポンポンと軽く叩かれる。顔を上げると、
「昨日の夜は楽しかったわねっ。今日の放課後も一緒にどう?」
正解は僕の座席の目の前でした。え?えぇぇぇぇぇぇ?僕を含めてクラスメイトたちが驚いていた。
それもそのはず、彼女はまだ3日しか経っていないのにも関わらず、この学園の生徒で知る人はいないレベルの有名人になってしまった人なのである。そんな有名人が僕みたいな平凡男子にお誘いの言葉をかけたら、そりゃびっくりするって。それに…
「きゃ~、昨日の夜ってどういうこと?夢川さん問題発言~」
「若い男と女が夜やることは一つ…」
「あいつ草食系の顔して肉食系なのかよ、ザ〇」
何やらあらぬ疑いをかけられている気がする。額から一筋の汗が流れる僕。そんな僕の心中を知るわけもない当の本人は、クラスメイトの会話などどこ吹く風。
「ねぇ君、私の話聞いてる?」
不満げな表情で、急に整った顔を僕の方に近づけてくる夢川さん。ち、近い。一瞬今自分が置かれている状況を忘れてしまうほどの破壊力。口を尖らせている様子もまたキュート。彼女の新たな一面を見れて嬉しくなった一方で、吐息さえ伝わってしまうのではないかという距離感に緊張してしまう。顔を逸らしつつ、どうにか返事をする。
「は、はい、聞いています」
「ほんとに~?」
顔を逸らした方向から再度ひょこっと夢川さんの顔が覗く。心臓に悪いです夢川さん。美少女は安易に高校生男子に近づかないで頂きたい。勘違いしちゃうからね。
「ほんとですって。ゲームの話ですよね?ご一緒したいです」
その瞬間、クラスメイトの安堵と残念という意のため息が零れる。どうにか誤解は解けたようだ。
周りのことなどお構いなしの夢川さんは満足げに頷いて、僕から少し距離を取る。なんかほっとしたような残念なような複雑な気分。
彼女は小悪魔的な笑みを浮かべつつ挑発してくる。
「それでね、今日はハードなプレイになると思うのだけれど、私について来れるかしら?」
少し意地悪そうな表情の夢川さんも可愛ぇぇぇぇぇ。じゃなくて。あかん。この少女、危険なワードをバンバン放り込んでくる。早くなんとかしないと。
当然、クラスメイトの反応は、
「ゲームってやらしい方の?」
「ハードなプレイって何するのさ?!」
「俺はこの手を赤く染めなければいけないかもしれない…」
「リア充に相応の報いを、ザ〇キ」
即死魔法も随分かけれられて身の危険を感じる。早急に場所を変えた方が良さそうだ。
「夢川さん、ちょっとここだと色々あれなんで、場所を移しませんか?」
「いいけど…何で?」
鈍感系の夢川さんの承諾が得られたところで、教室から二人して教室を出る。流石にこれ以上教室で変な噂を立てられるのはごめんだ。
教室内から僕らの関係を疑う視線や嫉妬の言葉がいまだ僕に突き刺さっていたが、素直に喜べなかった。だって…。
人気の少ない階段にて。
「そういえば、君って名前なんて言うんだっけ?」
「青島卓です…」
夢川さんの僕に対する認識ってこんな感じなんですもん。そもそも名前すら覚えられていない状況ってどうなの?いや自分でもわかってはいますよ。『彼女の中でUFOキャッチャー>>>>>>僕』みたいな感じなんだってことを…。あれ視界がぼやけてくるよ。ははは。
一人嘆く僕。一方、夢川さんは、
「青島君ね。覚えたわ。改めまして宜しく」
と言って、笑顔で繊手を僕の前に差し出してくる彼女。それに対して、どぎまぎしながらも差し出した手を一回引っ込めてゴシゴシ拭いた後に握る。
「宜しくお願いします!」
「じゃあ、友好の印に今日も行くわよっ」
どこに?なんて聞くまでもない。彼女が行くところと言ったら一つしかない。
ってなわけで、着ましたゲーセン。お馴染み『アニバース』。ちょうどUFOキャッチャーの台の前には、二組の男女がいた。片やラブラブのカップル、片や僕と夢川さんである。立ち位置的には、現在進行形でプレイしているのがカップルで、僕らはそのプレイが終わるのを待っている状況だ。
「だぁーりん、このぬいぐるみめっちゃ可愛くない?!」
「本当だぁ。ハニーの言う通りだよ。でも、一番かわいいのはハ・ニ・イ♪」
「もう嬉しぃぃ。あたしだってだぁーりんが一番だよ♪」
(*´ε`*)チュッチュみたいなことをしている。
うわぁ…。直視できないほどのバカップルぶり。だが、やはり憧れる部分はある。ゲーセンでデートって言ったら、こういう感じだよね。イチャイチャしながら景品をとる。一度は高校生のうちに経験したいものだ。
え?お前の隣には学園一の美少女の夢川さんがいるだろって?うん、可愛いピンク色の手帳を持って、熱い視線を目の前に送っているよ。でもさ…
「今日のアームの力は右3、左7って感じかしら?おかしいわね。昨日やった時には、右5、左9だったのに…。さては、調整したわねっ美奈子。やられたわ…。あ、でも落下時の回転が昨日より緩やかになってる。…じゃあ、今日のプランは…」
僕の存在をすっかり忘れて、ぶつぶつとこれからのプランを練っていた。手帳の中には、可愛い表紙からは想像できないぐらいびっちりとUFOキャッチャーの戦略が書き記されている。
「夢川さん」
「…」
「夢川さん」
「…」
泣きたい。無視ではなく、完全に僕の声が夢川さんに届いていない様子。ああそうか。第七話『届かぬ想い』で『親友イザベル嬢ver.悪魔に語りかけるアミたん』はこんな気持ちだったんだね。
前にいるカップルと自分たちという切ない対比に目を背けながら、待つこと10分ぐらい。
唐突に疑問を口にする少女。
「どうして彼らは二人で一つのボタンを押しているのかしら?」
悟りを開きかけていた僕ははっとなって、我に返る。夢川さんは前にいるカップルのプレイスタイルを見ながら首を傾げている。
夢川さんが帰ってきた。このチャンスを逃すわけにはいかない。僕は夢川さんが食いつきそうな返事を数十パターン考える。その間1秒。そして選んだ選択肢を口にする。
「えーとですね、多分二人で押すとUFOキャッチャーへの想いが倍になるわけです。そうすると、より景品が取りやすくなるってことかと」
その返答はいかに?
「…」
考え込んでしまった夢川さん。どうやら返事をミスったらしい。ガーン。そんなやり取り(?)をしているうちに、前のバカップルは景品が取れたようでどこかに行ってしまった。
虚しい気持ちを感じたまま、投入口にコインを入れて、『⇒』ボタンに手を乗っける。すると、僕の手に温かいものが触れる。手元を見やると、夢川さんの手が僕の手に添えられていた。
「青島君と私のUFOキャッチャーへの想いが重なれば怖いものなしよっ!さあ、始めましょう」
やる気に満ちた少女は、にかっと口の端を上げる。
ほんとずるいなぁ。夢川さんわ。
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