第8話オタクはオタクのふり見て我がふり直せ
登校4日目。教室にて。
「部活見学一緒に回りましょう!、えーと君島君」
帰宅前のLHRが終わると同時に、夢川さんが僕の机の前にやってきて満面の笑顔を浮かべる。相変わらずクラスメイトに溶け込めていない僕にとっては、女神さまのように見えたよ。
でもね、夢川さん…。僕の名前は青島なんだ…。僕ら3日連続でゲーセンで遊んでいる仲なんですけど…。そろそろちゃんと名前を覚えてほしい。
「勿論です!あと、僕の名前は青島です」
「それは失礼。青島君。じゃあ、荷物まとめてさっさと行くわよっ」
夢川さんは僕のバックを机の取っ手から外し、机の上に乗っける。それから両手を僕の前に差し出す。『荷物を早く入れて』ってサインなのは分かるんだけど、少し期待しちゃう部分はあるよね。そんなに無邪気な笑顔を向けられたら、その胸の中にダイブしたくなっちゃうじゃないか。ああ、行動に移すほどの積極性が欲しい。
必要なものをバックの中に入れていくと、小さな箱が埋まっていることに気付く。そういや、登校日初日に拾ったねんどろいどを入れっぱなしにしていたのを忘れていた。
テキストに押しつぶされないようにするために、バックの中から取り出して机の上に置く。すると、やけに目の前の少女からの熱い視線を感じる。
「青島君、そのねんどろいどって初日に取ったって言ってたものだよね?」
僕はバックの中をごそごそしながら、適当に相槌を打つ。
「ということは、青島君もクレーンゲーム全国大会の出場者だったということね?」
ん?何か夢川さんが熱い口調で話し始めたぞ。一度手を止めて、夢川さんに向き直る。
「……っと、どゆこと?」
「そのねんどろいどは、クレーンゲーム全国大会、通称CNT(cranegame national tournament)の限定景品なのよっ」
目を輝かせて、ぐいと顔を寄せてくる少女。相変わらずこの手の話題にはすごい食いつきようだ。
「へ、へーそうなんだ」
「あれ?そのねんどろいど持っているのに、CNT知らなかったの?」
「あ、うん。あの時は勢いで自分で取ったなんて言っちゃったけど、これ初日に拾った落し物なんだ」
僕の言葉を聞くと同時に、夢川さんの両手が僕の両肩にかかる。
「青島君、それ、それは、どこで拾ったのかしら?!青島君?!」
「校門…う。の…近くの…角で…。夢、川、さん…。うっぷ。」
ゆ、夢川…さん…。落ち…ついて…。ブクブク……。
「ごめん興奮しちゃって。揺らしすぎたわ。大丈夫?」
激しい前後運動でグロッキー状態の僕を優しく介抱してくれる夢川さん。ふんわりと良い石鹸の香りが鼻をくすぐる。
意識をはっきりと取り戻すと、至近距離に心配そうな表情を浮かべた夢川さんがいた。ドクッドクッと心臓の音が高まっていくと同時に、顔がほのかに熱くなっていくのを感じる。
それを悟られないようにするため、すぐに会話を戻す。
「えっと、な、何の話だっけ?あ、そうだ。校門の前で夢川さんとぶつかった時に拾ったから、もしかして夢川さんの落し物?」
「後ろのシリアルナンバーがE1438になってる?!」
興奮気味に問いかける夢川さんを横目に、シリアルナンバーを確認すると夢川さんの言う通りの番号があった。
「なってますよ。じゃあ、これ夢川さんのものだったんですね。お返しします」
ねんどろいどを彼女に手渡すと、夢川さんは満開の笑顔を咲かせる。
「ありがとう!青島君、君は命の恩人よっ」
照れくさくなった僕だったが、来る夢川さんの行動に思考停止してしまった。
こういう書き方をすると、夢川さんからお礼のハグとかキスとかしてもらえたんじゃないかって思う人もいるかもだけど、彼女にはそういうお約束が当てはまらない。なんでなんだ?!
夢川さんは、うっとりした表情で『魔法少女アミたん』のねんどろいどに頬ずり開始。
「アミたん、会いたかったよぉ。じゅるり。もう、可愛いんだからっ♪イザベル嬢が待ってるから、早く家に帰りましょうか」
ぶつぶつ呟きながら、教室の扉を開けて昇降口に向かってしまう。
教室に一人残された僕。チャックを優しく閉め、バックを背負いながら彼女を追う。
『部活見学の話はどこ行ったんですか?!夢川さん?!』
『人のふり見て我がふり直せ』って言葉をしみじみと考えさせられました今日この頃です。
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