ひよこがやる DX3 のシナリオの書き方

この記事は TRPG なんでも Advent Calendar 2018 への寄稿記事です。


https://adventar.org/calendars/2901

--------------------------------------------------


  最近は DX3 専門の Discord コミュニティにちょこちょこお邪魔している。

  参加者、立卓数共に多く、雑談の通話も盛り上がっていることも多いので興味があれば是非参加してみてほしい。

https://discordapp.com/invite/DU72wBj


  その関係で、というわけではないが DX3 でシナリオを書くときに私がどうやっているのかをつらりつらりと書いていく。また、どうするのが一番簡単だと私が考えているのかも書いていく。始めてシナリオを書く上でそれ以外のことをしたい理由がないなら真似てみてくれると嬉しい。


  私個人としては DX3 のシナリオを書くのはかなり大変だと思っている。2日目に書いた SW2 に比較してはるかに難度が高い。色々と理由はあるが、ミドルフェイズにダンジョンという手が使いにくいのが最大の物だと考えている。また、PC のモチベーションコントロールも難しい。


0. シナリオの構造


  シナリオに必要な情報を確認する。


a. トレーラーとハンドアウト

  a.1. トレーラー

  a.2. ハンドアウト

b. オープニング

  b.1. 導入

c. ミドルフェイズ

  c.1. ミドルフェイズ導入シーン

  c.2. TODO リスト (情報収集項目)

  c.3. トリガーシーン

d. クライマックスフェイズ

  d.1. クライマックス導入

  d.2. ボスデータ

e. エンディングおよび経験点計算

  e.1. 共通エンディング

  e.2. 個別エンディング

  e.3. 経験点



1. PC がボスに挑む理由を決める


  職業冒険者が大半なソードワールドはモチベーションコントロールがそれほど難しくない。「仕事だから」で話が済む。しかし、ダブルクロスは PC が一般人なことがある。モチベーションコントロールが難しいこともしばしばある。


  だから、PC のモチベーションを最初に明確にする。ここでトチると全体が上手くいかなくなることもある。



1.1. ボスの目的を決める


  ボスが何をしたいのかを決める。1巻のサンプルシナリオなら「ヒロインを自分のものにする」。2巻のサンプルシナリオなら「全世界をオーヴァードに覚醒させる」「珍しい・未知の力を持つ NPC を拘束する」。



1.2. ボスの目的達成によって何が PC から奪われるのかを決める


  これが PC が事件に危険を冒して挑むモチベーションとなる。

1巻のサンプルシナリオなら「ヒロインがいる日常が奪われる」「仕事の完遂ができなくなる」「宿敵に後れをとる」「依頼主のリクエストにこたえられなくなる」等。



1.3. オープニングとハンドアウトを書く


  オ―プニングを書き、ハンドアウトを仕上げる。ハンドアウトはオープニングを数行に要約したものとなる。シナリオロイスは 1.2 で定めた奪われるものに深く関連する人物を選択する。「ヒロインがいる日常が奪われる」ならヒロインとなる。「宿敵に後れをとる」なら宿敵。「仕事の完遂ができなくなる」「依頼主のリクエストにこたえられなくなる」なら仕事なりリクエストなりのターゲットや依頼主となる。


  誰かのオープニングでボスが具体的に事を起こす必要がある。それまでの均衡が乱れることで各 PC が合流し戦いに挑むきっかけとする。この合流シーンを演出するのにボスが具体的に動くのは有益だ。



1.4. 例


  ボスの目的は「特別な力を持つ PC1 の確保」。

  イリーガルである PC1 はボスの目的達成で今までの生活を失う。シナリオロイスは家族やクラスメイトを指定する。オープニングは普段通りの生活を演出する。しかし、途中でボスが PC1 を迎えに来ることで今までの生活の危機を感じさせる。

  UGN チルドレンであるPC2 はボスの目的達成で宿敵であるボスに後れを取ることになる。シナリオロイスはボスを指定する。オープニングはボスとの因縁を演出する。過去にボスに挑んだが勝てなかったり取り逃がしてしまったり。ないしはかつて仲間が殺された話を入れるなど。

  UGN 支部長である PC3 はボスの目的達成で支部が危機を陥る。シナリオロイスは同じような危機に陥った結果死んだかつての仲間や真っ先にやられることになるであろう大切な部下を指定する。かつてボスにやられた仲間の回想をオープニングでは行う。ないしは部下があなたにボスの脅威を報告しにくるシーンとする。

  UGN エージェントである PC4 はボスの目的達成で今後の仕事に支障が出る。シナリオロイスは自分の上長 (霧谷雄吾をはじめとする公式 NPC が使いやすい) や PC3 を指定する。オープニングは PC3 を助けに行くように上長に指示されるシーンとする。

  レネゲイドビーイングである PC5 はボスの目的達成で興味深い観察対象である PC1 を失う。シナリオロイスは PC1 ないしは PC1 を奪おうと暗躍するボスを指定する。オープニングは PC1 と共同とするか、ゼノス幹部に PC1 を監視するように指示されるシーンとする。



2. ミドルフェイズを書く


2.1. ミドルフェイズでやることの概要を決める


  何らかの事情でボスを即座に倒しにいくことは PC 達にはできない。そうでなければクライマックスフェイズが終わるまでに侵蝕率が十分に上がらないからである。

  ボスを即座に倒せない理由を決め、それを解決するステップを挟むことでミドルフェイズとする。


   ボスの正体が不明である、が理由ならばボスの正体を探るのがミドルフェイズとなる。

   ボスはなぜか不死身なので倒せない、が理由ならば不死身の理由を突き止めて突破手段を用意するのがミドルフェイズとなる。

   ボスには強力な配下がいるので単独でいる所を狙って暗殺するしかない、が理由ならば秘匿されたボスのスケジュールを調べ上げるのがミドルフェイズとなる。ないしは配下の弱点を探るのかもしれない。


  これらの課題とボスの目的が密接に絡んでいればなおよい。


  ミドルフェイズは基本的には以下の2ステップを PC に踏ませる。

    ・必要な情報を確保する手段を獲得させる

    ・必要な情報を確保させる


  ないしは次のようにしてもよい。

    ・ボスを倒すのに必要な情報が確保される

    ・情報確保した時点でボスの目的がほぼ達成されてしまうのでそれをなんとかする

ボスを倒す手段が分かったがボスが世界を変えるための条件がそろってしまう。この条件を後半部分で PC が崩す、などである。



2.2. 合流シーンを書く


  PC1 が病院に運ばれたり、PC3 が事件をキャッチして支部員を招集したり、具体的にボスが動いた際にワーディングをはった結果PC達が現場に急行したりするシーンとする。いずれにしろ、ボスが動いたことへの対応となる。


  ボスと対面するシーンの場合、ボスは適当に撤退させること。瞬間退場等を利用する。ないしはボスがなぜか不死身だったりして PC 達は撤退を余儀なくされたりすること。情報収集しないとなんか無理そうだな、という印象をプレイヤーに与えられれば良い。


2.3. ボスをなんとかするための TODO リストを出す


  TODO リストと書いたがつまりは情報収集の項目である。項目と対応する技能を用意する。あなたが手練れの GM でない限りはロールではなく判定の達成値で項目の開示するか否かを決めること。ルール的な指標があることはむしろ適度な制約となりロールを促す。また、目標値も開示する前提で書いた方が良い。


  なお、どんな PC が来るのかが分かっているのならば TODO を PC の過去とか能力に関連付けるとエレガント。


  半分くらい進んだところ、つまり先の2ステップで最初のステップが終わった頃にボスの目的を大きく進展させる。ヒロインを誘拐させたり、世界が大きく変わるかもしれない前兆が発生したり、UGN の精鋭部隊が壊滅したりする。

  危機感を与えたり、PC を次の TODO へと導いたりする。


2.4. 例


  ボスはなぜか不死身なので倒せない -> 不死身の理由を突き止める のパターンなら次のような例がある。


a. ボスの不死性について

b. ボスと過去に交戦した記録

c. ボスがなぜ目的を達成しようとしているのか

d. ボスが目的としているものについて


  a, b の情報を獲得することでボスの不死性がどのような性質のものなのかを PC 達はつかみ、穴がありそうなことに気づく。これらを抜いたらトリガーシーンが発生する。ボスの部下が「なんか嗅ぎまわっているな?」と絡んでくるので殴り倒すことでボスの情報が得られる拠点や資料を入手できる。ただし、この時点ではパスワードがかかっていたりボスの拠点に入る手段がなかったりして情報が得られない。

  a, b で気づいたようにボスの不死性には穴があり、その穴を埋めるために目的を達成しようとしていることに c. で気付く。

  また、a, b の結果得られた情報は普通は開示できないが d. の情報でボスが目的としているものにはそれを開示するための力なり知識なりが存在することがわかる。ないしはこの目的は c. とは分けてしまってもよい


  a, b, d の情報が開示された段階でトリガーシーンで得られた情報を開示される。しかし、その理解はそう容易ではなく、それを解読するためのさらなる判定をへてようやくボスに挑むことができる。


3. クライマックスを書く


3.1. ボスの遺言を書く


  ボスは PC にえいやーってやられてしまう。やられる前にカッコいいシーンを用意してやろう。

  まずは「まさか〇〇の秘密をお前たちが知るとはな」とか「よもや〇〇という計画が止められてしまうとは」とかそういう PC をたたえる言葉を吐かせる。その上で「だが、ここでお前たちは死ぬのだから同じことだ」とか「お前たちを殺した後でゆっくりと計画を再開するとしよう」とか言わせる。

  後は主要 PC には何かコメントをしてあげるとよい。「これが最後の機会だ。オレとこい、いい思いをさせてやる」とかそういう発言である。目的に沿った発言だったり、PC の過去をほじくり返すような発言だとエレガントだ。


3.2. ボスデータを用意する


  これが一番難しいという人もいる。一番楽しいという人もいる。とにもかくもボスデータを用意する。しかし、この記事では面倒なので解説しない。以下の辺りに目を通しつつ頑張る。理由がなければサンプルシナリオのボスそのままで良い。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054883157618/episodes/1177354054884468905

https://gaia.wiki.fc2.com/wiki/%E8%87%AA%E4%BD%9C%E3%83%9C%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%EF%BC%9A%E3%83%80%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B93rd

http://kusotsuno.hatenablog.com/entry/2017/12/17/001340

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14127778799


4. 仕上げる


4.1. トレーラーを書く


  ついにトレーラーを書く。アニメの次回予告くらいのネタバレ感で書いてよい。

  上述の「PC1 を自分のものにしようとしている」「何故か不死身」ならば次のようなものが考えられるだろうか。


いつも通り登校し 友達と愚かな会話をする

あなたがオーヴァードになってもそれは同じこと

本当にそうだろうか?

均衡を破ったのは 不死身の男

その不死身の謎に絡むからには 平穏は許されない

平穏のために 自身の秘密に迫るのみ

「知らなきゃよかった」そんな言葉は許されない

ダブルクロス The 3rd Edition 『Who's the silver bullet?』

ダブルクロス、それは裏切りを意味する言葉


  歴史上の偉人の言葉や好きな歌の歌詞を引っ張ってくるとポエム感が向上するので使うとよい。


  後は問いかけたりボカかしたり許されなかったり戦いへ誘われたり導かれたりするとポエム性が少し上がる。



4.2. 経験点を計算する


  シナリオの目的を達成した際の経験点を計算する。達成段階ごとに評価すると良い。経験点を渡す以上に「PC 達が何を守ったのかの再確認」という意図もあるためである。

  後は大体のありそうなパターンについて経験点の合計値を計算しておくと実際にシナリオを回す際に混乱しにくい。



4.3. エンディングの演出を書きだす


  エンディングは合同エンディングと個別エンディングがある。


  合同エンディングはある程度流れが決まるだろうから書きだす。UGN 幹部への報告会とかヒロインの処遇とかそういった話になるだろう。ないしは倒したボスの遺体をUGNの研究部門に引き渡すかもしれない。


  個別エンディングは用意すること自体がナンセンスという話も聞く。PL がやりたいことを大体やるからだ。しかし、PL が提案してこなかった場合に備えてエンディング案を用意しておくと実際の場で悩まなくて済む。この際、オープニングに対応させるとよい。



4.4. 個別エンディング例


  ボスに連れていかれそうになった PC1 はオープニングでやっていた日常に戻る。しかし、身近な人に「なんか少し大きくなった?」等といった成長を感じられている演出を加えることで変化を加える。


  ボスと因縁があった PC2 はボスとの因縁の地に赴いて報告を行う。それがかつての仲間なのか墓前なのかは状況による。喜びを分かち合ったり、仲間の分まで生きて戦うことを誓ったりさせる。


  かつて仲間を失った PC3 は仲間の墓前で報告をする。ないしは、部下を失いかけた PC3 は部下といつも通り仕事をする。ただし事件の事後処理がたくさんあるため PC3 は忙殺されている。


  偉い人からの依頼を受けていた PC4 は仕事を終えてバカンスに行く。しかし、ハワイのビーチでソーダを飲んでいると携帯電話が鳴り、次の仕事を依頼される。あなたに休みはない。ないしはボスの動きで仕事に支障が出ていたのならば障害が除かれて仕事をスッと終わらせたところを演出する。


  観察対象である PC1 を失いかけていた PC5 は引き続き PC1 を観察する。日常を失いかけた後だというのに日常を楽しむ PC1 を見て何を不思議に思い、何を学ぶのか、といったことを軸に話をすすめて閉じる。






  筆者がシナリオを書くときはこれに丸々従っているわけではない。やりたいシーンがあってシナリオを書いていることがほとんどなので途中を書いた上で最初からやったりする。また、早期にシナリオの情報を出したい場合はトレーラーを最初に書いたりする。大筋だけ書いて後から肉付けしていることもある。


  だが、だいたいこんな感じ。後は細かく肉付けていったりするがそれは DX3 に限らないのでまた別に書くと思う。



  明日は時雨明さんの「DX3rd 変なエフェクト紹介」にチャージ・イン!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る