平安鎌倉時代を思わせる貴族と武家の文化が入り混じる世界観の中、大人たちの思惑によって結婚することになった帰蝶と義高。
もともと他人同士、夫婦仲が上手くいかないどころか、帰蝶は義姉妹たちの妬みによって散々な目に遭うし、無理やり地元・宇治から引っ張り出された義高は慣れない政治に巻き込まれていきます。
ですが、物語が進むにつれ周りの人々の思惑が紐解かれ、いつしか二人も真の夫婦としての絆を育んでいきます。
純愛物語と思いきや、しっかり練られた舞台設定と人物関係図による歴史物語としての読み応えも本作の魅力の一つ。
登場人物はたくさん出てきますが、どの人物もキャラが立っていて生き生きとしています。特に好きだったのは義高の仲間である有王たちですね。巴姉さんかっこいいし。
……でも頼信はうざい!笑
タイトル、エピソードタイトルからも見て取れるように、世界観によくはまったリズムのいい詩的な文体が癖になります。
和ファンタジーがお好きな方や、歴史ものがお好きな方もぜひ、読んでみてください!
魑魅魍魎は、都の外だけにあらず、御殿の中にも渦巻くもの。
愛憎にて編まれた籠より飛び立てぬ蝶の、その羽に刺さりし針を抜くのは、木か岩かと言わんばかりに無骨な男の指先か。
政に翻弄され、望まぬ結婚を強いられ、寄り添えぬ気高さと実直さ。
しかして不器用ながらも、はらりはらりと互いの心の包み紙を解いていく二人の様は、いじらしく我々読者の胸を打つ。
権力に胡座をかき、雅にうつつを抜かす男の愚かさ。
時代に翻弄され、嫉妬にしがみつく女の浅ましさ。
ときに魔を生む蠱惑的な輝きの中にあって、大事なものを守る為に血汐を燃やすその姿の美しさは、作品の中にあって朱に映える。
舞う蝶の、羽を休める先は、いずこ——?
将軍のおわす花の御所。咲く花々、美しい衣裳や贅を尽くした器物。雅な宴や催し物。
ヒロインの帰蝶は御台所の養い子の一人。教養やたしなみ、芸事を一通り仕込まれ、富貴な生活の代償として、彼女を含めむすめたちは政略結婚の手駒となる身。
帰蝶はライバルたちの嫌がらせにも負けない、凛とした、でも意地っ張りな娘。
彼女の婚姻相手として選ばれたのは、先代将軍の落としだね、義高。互いに望まぬ結婚、初夜は過ごしたものの……。
花婿に対し、心を鎧で覆ったままの帰蝶。「脱ぎ男」義高との間はどうなるのか?
帰蝶への数かずの嫌がらせ、御所内の権力闘争、義高の故地を巡る謎、跳梁する魔物、そして華やかな御所の外を一歩出ればそこは……?
衣裳や調度に造詣の深い作者さんの腕に安心しつつ日本史の知識を動員してニヤリ、ニヤリし、そして帰蝶や義高、彼等の仲間をポンポンもって応援しながら読ませていただいております!
タイトルのつけ方も、いつもながらのお見事さ、おすすめの一編。