脱獄

リエミ

脱獄


 目が覚めると、いつの間にか新人がやってきていた。


「やぁ、おはよう。初めまして」


「初めまして。ところで……ここはどこだい?」


「ここは監獄だよ。入れられた者は、二度と外には出られない」


「そんなぁ……」


「ほら、あそこに机と椅子が見えるだろう? 看守がいてね、そいつが夜になると、決まってそこに座るんだ。そして僕らを、オリごしに眺める。何か、晩ご飯を持参してくるよ」


「僕たちのご飯はいつだい?」


「何のん気なこと言ってるんだ。そりゃ、しばらくはマズいメシを与えられるだろうが、僕らこそ、いつかは看守のメシになるんだ」


「えっ!?」


「僕の前にいた、古株の子の話だが、そいつは看守がこの牢から連れ去ってしまったきり、もう戻ってこない。その古株が言ってたが、昔からずっと、入れ代わり立ち代り、一人ずつこの牢に入れられ、二人目を補充すると、決まって一人連れ出されるんだ。そして僕が見た限りでは、おそらく古株は、看守の晩ご飯になったんだ。古株がいなくなったすぐ後、看守はそいつによく似た肉を、あそこの机で食べていたよ」


「それじゃあ、もうすぐ、きみは……」


「そう、看守の晩ご飯さ。だが僕は諦めない! 看守がオリを開けた時、すきをついて脱獄してやるよ!」


「うん、がんばって! 僕もきっとそうするよ!」


 そして、ついにその時が来た。




 夜になり、おじさんはいつものように、コンビニで買ってきたビールとツマミを机に置き、椅子に座って、彼らを眺めた。


 彼らはいつになくバタバタしていた。


「おい、うるさいぞ」


 おじさんは様子を見に、彼らのオリに近づいた。


 そしてついに、オリの扉を引き開け、彼らの一人を手でつまみ出した。


 その時だった。


 手の中の彼が大暴れして、宙を舞った。


 驚いたおじさんは、もう一人が逃げ出さないよう、急いでオリの戸を閉めた。


「さようなら、きみ!」


 と、飛び出した彼は、オリの中の新人に言った。


「元気でな!」


 そして開いていた窓から、外へ飛び去って行ってしまった。


「あぁ、ちくしょう!」


 おじさんは仕方なく、また席に着き、ビールを飲んだ。


「あぁ、ちくしょう。また逃がしちまった。そういえば前も、逃がしたことがあったっけ。ちょっと撫でようとしただけなのに、あぁ、オレ、鳥に嫌われてるのかな……」


 そして、おじさんはツマミに買ってきていた、焼き鳥を食べ始めた。


 それを見ていた、鳥カゴの中の一羽の鳥は、ますます騒がしい声を上げた。


「ピギャー、ピギャー!」


「ああ、分かったよ。一羽じゃ寂しいもんな。もう一羽、お前に友達を連れてくるよ。それでいいだろ?」




◆ E N D

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脱獄 リエミ @riemi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画