避難用シェルター

リエミ

避難用シェルター


 お金持ちのゴールドさんは、いざという時のために、避難用シェルターを購入しておこうと思いました。


 どんな災害が起こっても、命を守れる、性能のよいものです。


 そこで、シェルターや地下室など開発している会社へ直々に向かいました。




 若い営業マンがスーツを着て、商品の展示室へ案内してくれました。


 そこには数々の長方形のハコが置いてありました。


 研究員らしき白衣の男がゴールドさんに近づいて、ハコについて教えます。


「こちらが最も最新の避難用シェルターです。中に乗り込めば、いかなる火災でも燃えたり溶けたりいたしません。また、強盗が押し入って、たとえチェーンソーで切りつけたとしても、ご安心くださいませ。外部の損傷はまったくありません。傷ひとつつかないのです。さらには、突然の地震で地盤沈下し、救助の届かない地中深く埋もれてしまうケースもありますよね。そんな時のために、これは大活躍いたします」


 そう言って、研究員は薄い説明書をゴールドさんに見せました。


「ほぅ! これは素晴らしい! ハコ外部側面に付けられたジェット噴射のおかげで、ハコごと浮かび上がるという機能なのだな」


 ゴールドさんは気に入って、実際にハコの中へ入りました。




「中にボタンがあるでしょう? それを押している間は、ジェットで上へ行き続けます。ハコが硬いのを利用して、積もった泥も押し上げられるというのです」


 研究員は、そこでふと、沈んだふうに言いました。


「ただこれは、まだ開発途中でして、誰も使った試しがないのです。もちろん、開発実験はいたしました。火の海へ入れたり、金づちで叩きまくったり、もう何回もテスト済みです。しかしゴールドさんが実際ご使用された時は、我が社に改良のポイントなどを教えてくださいね」


「ああ、それはそうするよ。ではちょっと、説明書を見させてくれ」


「はい、喜んで」


 研究員は薄い説明書をゴールドさんに渡しました。


 すると、その時です。


 これまで経験したどんな地震よりも、物凄く大きな揺れがきたのです。


 慌てたスーツの営業マンが、研究員にぶつかりました。


 その衝撃で、研究員はハコのドアに激突しました。


 ドアは、ドア付近にいたゴールドさんを押し倒して閉まりました。


 押し倒されたゴールドさんは、ハコの中で倒れ込み、壁についていたボタンに頭を打ちつけ、意識を失いました。




 スーツの営業マンは、地震がすぐにおさまったので、


「すみませんでした」


 と言って、研究員に謝りました。


「ああ、大丈夫……」


 研究員は言いましたが、はっと振り返り、そこにハコがないことに気がつきました。


 上を見ると、天井に大きな穴があいていました。


 遠い青空の中で、小さな影のような粒が上へ上へ、子供の手から離れた風船のように昇っているのが見えました。


 ハコでした。




 ゴールドさんは大気圏を離脱しました。


 ぶつけた頭がボタンを押しっ放しにしていたのです。


 大気圏外を漂うゴミや、破片の衝撃にも耐え抜けたのは、それが避難用シェルターだったからです。


 ゴールドさんは意識を取り戻し、パニックに陥りました。


 ボタンから離れたため、ハコは宇宙空間に浮遊しました。


 しかし、そうとは気づかないゴールドさんは、


「止まったぞ。おお、地上に出たのか」


 と言って、ほっとしました。


 そして説明書をめくり、ドアの開き方を見て、その通りにいたしました。


 外は真っ暗闇でした。




 研究員は、営業マンに言いました。


「内緒だぞ。金持ちの男が一人消えたんだ。金目当てで付け狙うやつなんていくらでもいる。消えても不思議ではない」


「はい……」


 営業マンも頷きました。


 また研究員はこうも言いました。


「しかしこれでようやく、改良のポイントが分かったというわけだ。私にとっては、いい出来事だったな」




◆ E N D

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