描かれた風景から、彼らの心が響いてくる

 勝戦国の王太子アッシュと、亡国の王女フェン。
 決して相容れないふたりですが、フェンが報奨金に目がくらんだことによって、とある事件を共に解決することになります。

 ぶつかり合い、認めあっていくふたり――。
 けれど、彼らは敵対する者同士のはずで……。

 ふたりの恋愛が魅力的であることは勿論ですが、「事件」に関して張り巡らされた伏線が実に素晴らしいです。
 あ、あそこで出てきた少女の背景はこういうことだったのか。あの村での出来事は、こう繋がっていたのか。――などと、謎が解けていくさまは、とても興奮します。

 そして、この素晴らしい物語をそっと密やかに、けれど美しく彩っているのが、彼らの後ろに広がる風景です。
 フェンが悲しいときには、空も泣きます。
 身を切るような雪も吹き付けます。
 淋しげに置かれた遊技盤が、無言で語ってきます。
 何ひとつ無駄なことなく、すべての言葉が、この物語世界を息づかせています。

 しっかりと組み上げられた世界で繰り広げられる、切ないラブストーリー。
 現在、クライマックスです。
 この先どうなるのか。手に汗握る展開です!

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