第2話 定番 学校の怪談ー序曲

 次の放課後、私にしては珍しく大勢の女子に囲まれていた。


「ねえ蒼井さん、お願い」

「音楽室の噂知っているでしょ」

「蒼井さん寮生だから夕方でも音楽室に行けるよね」

「だからピアノが鳴ってないか確かめて欲しいの」

 例の音楽室の怪、の話だ。


「それでさあ、誰がピアノ弾いているのか確かめてくれないかなあ」

「も、もしオッケーなら明日和栗堂のイチゴ大福買って来るから、えーと今週ずっと見張ってて欲しいの」

「一日に一個ずつ?」


  甘いものには目が無い私。


「えーと、ごめんあそこの和菓子高くて一個、んー二個でお願い」

「それじゃあ五日間で二個ね」

「あっあの土日もお願い、お願いします」

「土日は無理よ、新館カギ掛かってるから」

「えーそうなの」

「そりゃ職員室とか誰かに入られたらダメでしょ」


 なんだか妙な事になってしまった、イチゴ大福二個に釣られて、だって一個でも自分じゃ買えない、お小遣いが無い訳じゃないけど、無駄遣いが出来ない理由わけが有るのよ。


「蒼井さんごめんなさい、私も付き合いたいのですが五時は家に帰っていなければなりませんので」


 謝る事でもないのに、申し訳ない顔の美少女が傍に来て謝ってくる。


「良いの良いの気にしないで、お饅頭で釣られてしまったのは私なんだから、一度でいいから食べてみたかったんだ、和栗堂のイチゴ大福」


 でも私にとってはこんな事を調べるのは訳も無い事だし、私のが増えるのも楽しみだ。


 五時過ぎになってここ新館四階の音楽室出に向かう、そう言えばピアノの音を聞いたのは昨日が初めてなんだろうか、確かめておけばよかった。


 この時期は特にイベントが無い様でほとんどの文化部系クラブは五時に終わっていて、廊下に人影は無い、遠い部室からは数人の話し声が聞こえる。


 さて音楽室の前に来たけれど静かなものだ。

 ドアを開けて中に入るが特に異常はない。


 けれど何か違和感を覚える、部屋の隅から順番に眺めて(あれ?)と思う。

 どこの学校にも有ると思うけど、昔の有名な作曲家の肖像画が並んだ一番右端、教室の前の方に額縁の紐を引っ掛ける釘だけが見えた、そしてここにもう一枚掛かってましたと、おぼろげに壁の色が語っている。


 そう言えば有名な作曲家の中ではあまり手を掛けていないのが特徴的なあのフワフワピンピンの髪の毛の人が居ない、ベートーベンさん。


 でも紐が切れたとかの理由で外しているのかもしれない。

 とりあえず自分の中に居るもう一人、紫(私が取り込んでしまった妖しさん)に尋ねてみる。

(何かの気配はない)

(ぼくが感じ取っていたら十六夜いざよいに伝わっている、それにここは妖しが居る場所ではない、密閉され過ぎて息がつまりそう)

(なるほどね、たまには姿を見せてくれなきゃ寂しいよ)

(旧館に戻ったらね)


 一階に下りて入口に近い職員室に入る、音楽の原先生の所へ行って「先生ベートーベンさんどうしたんですか?」

「ベートーベン?」

「額が有りませんでしたけど」

 この原先生のお蔭で私は和太鼓を始めた、何故かいきなり「和太鼓やってみない」と聞かれたのがひと月ほど前、即「やりたいです」と答えた私。


 今では指導の人が来てくれる水曜日以外も体育館に置いてあるので一人で練習をしている、ただし太鼓はまだ仮の小さな物、大きな太鼓を安全に保管する場所が無くてここで預かれる状態ではないから。


 なので先生も気にかけてくれて、またボーカロイド同好会を作る時にも顧問をお願いして結構仲良くしてもらっている。


「おかしいわね、昨日有ったのは確認しているけど、悪いもう一度確認しに行こう」


 階段を上がりながら音姫先生(私が付けたあだ名)が「この頃妙な噂が立ってるでしょ、我が校にもやっと来たかって喜んでいたの」

「良かったの?」

 先生と二人になると馴れ馴れしい私。


「そりゃそう言う噂が立って一人前って感じじゃない」

「そんなものかなあ」

「あら嬉しそうじゃないわね、そう言う話好きじゃなかった?」

「好きだけどそんな気配は無いの、それなのにベートーベンさんが居なくなったのは誰かのイタズラじゃないかな」


 音楽室に到着して中へ入る。


 さすがに見慣れた原先生中へ入るなり、

「あらやっぱり無くなっているわね、昨日は体育館で跳び箱の一部が無くなったいたのよね何か関係有るのかしら」

「どうかなそれは、今日は誰かピアノ弾いて無かったの?」


 私はピアノの周りを先生は机の中を一つずつ確認している。


「私の所へ借りたいって来た子はいなかったけど、無断で弾く子もいるからねはっきりしないから余計に噂になってるんじゃないの」


 ピアノの中も気になるけど開け方が分からないので私も机を先生の逆から点検していく。


 私「ピアノの音を聞いた子は中を覗いたけど、でも誰も居なかったって」

「そもそも音を聞いた子が居たなんて誰が証明できるの」

「えーガセネタって事?」

「分からないわ、居たかも知れない居なかったかもしれない」

「まあね、でもベートーベンさんが居なくなったのは事実」

「噂に信憑性を持たせるためにわざと誘拐したのかもね」

 

 机の中の点検が終わり向かい合ったところでハグされた。


「いい子だわ私の子供になりなさいな」

「一応母いますけど」

「滅多に家に帰らないんでしょ、どうして」

「物理的に容量が一杯で寝る場所も無くて」


 先生が私の手を取ってピアノの方へ行く。


「私んち部屋いっぱい空いてるのよ、来れば?」

「そのうち新婚さんでしょお邪魔虫、姫ちゃんピアノが怪しい」

「ピアノが怪しい?」


 先生はピアノの椅子に座り鍵盤蓋を開いて一番低い音から高い音へ流れる様に弾いてく。


「そこ音が変」私が言うと、

「さすが地獄耳、私には分からないわ」


 先生は席を立ち屋根(一番上の音を広げる板)を持ち上げる、途中から私が替わり突き上げ棒で固定する。


「サンキュ、子供がだめなら番犬でどう?」

「いいかも、でも私が夜に外に居たら幽霊と間違われるて近所迷惑だよ、わー弦がびっしりピアノってこんなに、あっ有った」


 弦の上に無造作に置かれていたのを取り出し先生に渡す。


伊佐宵いさよ霊感でも有るの、初めから疑ってたでしょ」

「まあ無いこともない」

「そっちの方が怪談、あっゴメン」

「何言ってんの、自分で幽霊って名乗ったんだから気にする事ないのに、ってほんとに不気味でしょ」


「そんな事ないわよ、それならうちにおいで何て言わない、あっさっき新婚さんて何よそれ」

「井上君、べた惚れじゃない」

「、、、あっあれはただの後輩で忠犬、欲しかったらあげる」

「うん欲しい欲しい、わたし大好き、、、でも姫ちゃん以外興味ないんだよあの人」


 井上君て言ってるけど実は理科の先生、二十五、六、ここに居る姫ちゃんの三年後輩、って事は姫ちゃん見えないけど三十前なのだ。(主婦の貫禄十分です)


 先生は少し考えて、

「じゃあ伊佐宵を彼女にしなさいって言っておくわ」

「ダメです、そんなこと言ったら屋上から飛び落ちるか、、、無理心中、ご愁傷さまです」

「伊佐宵が言ったらシャレにならないわ、今度家に来たら、、、考えとくわ」


 音楽室を出て下へ向かう。


 私「だれがこんな事を、、、」

「噂を広げてやろうっていたずらっ子なんていくらでもいる、これくらい気にしても仕方ないわ、一応報告はしておくけど紙切れの誘拐事件だから余り気にしないでね」

「音楽室の噂は何処の学校でも同じ様なものなのかな」

「似たようなものでしょ」


 先生はそう言ったけど気にしないどころか吹き飛んでしまう様な事が起きる、のかな。


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