第8話 息ピッタリ!
私と姫ちゃんは先に裏山へ行く、井上君はスコップを借りに行ってくれた、姫ちゃんのご命令で。
体育館の横が直ぐに裏山なんだけど直接つながっているのは新館の二階のベランダと運動場の一番端に急な坂道が有る、けれどここからは新館に回る方が近い。
新館の二階のベランダには外から上がれる階段で二階に上がりそのベランダから短い橋が架かっていてそれを渡ればすぐに裏山に続く林になっている。
林に入った途端運動場が有る南側に引き寄せる引力ではないけど自分で「こっち」と感じる何かに引かれサクサク進む。
姫ちゃんが、
「何処行くの?」
「んーこっち」
「分かりやすいわー」
ちょっとあきれて言った。
引っ張っているのはこの狸君、家族そろってやって来た思い出が有るのかもしれない。
ここから斜面になる境界の所で「キュン」と声が聞こえた気がした。
フッと二本足で立つ狸の置物の様なシルエットが三つ四つ見えた気がした。
狸の家族の様な気がして悲しくなった。
涙がさらさら流れて落ちた。
気が付けば姫ちゃんと井上君が私の少し後ろでそっと待っていてくれた。
私は涙声で「ここ掘れる?」と井上君に尋ねる。
無言で土を掘り始めた井上君が土を一すくいすると、
「やわらかい土だから掘れそうだ」と、
「深くなくていい、少し土がもっこりする位が良いの」
「野生の何かに掘り返されないか」
「それでいいのこの場所なら何に掘り返されようと家族と出会える、これが私がしてあげられる儀式」
井上君が20センチくらいの深さに掘ってくれた穴にカーテンから出すようにして狸君だけを横たえる。
姫ちゃんが言う、
「包んだままの方が良くないの」
「狸にとって寒さを凌いでくれた物であるけど動けなくなった重圧の苦しみが残っているから取り去ってあげないと成仏できない、掘り返さえても開放されないんだ」
「良く分かるのね」
「そうだね、自分でも不思議だけどこれが私の出来る事かな」
今まで黙っていた井上君が、
「生は太陽の神、死は月の神が司るとか言うな、それが十六夜の役目って事か」
「あっそれそれだわ、わたしぼんやりとしか意識してなくて、そういう事だわ、、、あっそれなら、、、」
「それならどうした?」
「太陽の子供、
「太陽の子、日輪光、確かにお日様みたいな子だ」
「見たいだけじゃないの、説明できないけど」
姫ちゃんが一人でぶつぶつ言っている。
「いつも二人で話してるわね、生まれるところ死に逝くところ、産科とか火葬場とか行ってみるとか」
「えっ産科、火葬場、、、ちょっと違うような気がする、生まれて来ると言っても命はもっと前に誕生してるし、火葬場だってもう命が途絶えてしまっているから、ご臨終の場面なんて他人が入って行けないし」
続けて姫ちゃん、「命の誕生の瞬間なんて、、、」
「先輩それは、、、」
「無理だわね」
「「あらら」」
私と井上君の声が重なると、
「仲のいい事で」
私は喜んで「はい」
井上君は「いえいえいえ、先輩一筋、、、」
「それはキモイのユーマが捕まらない様にフォローよろしく」
「「オーマイガー」」
「息ピッタリね」
「へへっ」
「はあー」
こうして私は図らずも迷える魂を黄泉の国へ初めて送る体験を行った、狸君の声が聞こえなくなったので上手く行ったと思っておこう、今の私には確認するすべがない。
太陽の子と月の子、この事をどうやって確かめれば良いのか答えが出ないうちに大きな騒動が巻き起こって私たちは何故かその渦中のど真ん中に放り込まれることになる。
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