第9話 謎の数字事件と私の正体

 次の日の朝は大騒ぎだった。


 寮の有る旧校舎から出るなり、

「教室にカバンを置いてすぐに体育館に集合する事、何処にいても一人にならないように」


 下駄箱の所で教頭先生がハンドマイクで話している。

 ただまだ時間が早いのでぽつりぽつりとやって来る生徒に先生が取り囲んでいる状態だ。

 傍に来た先生に聞いてみた。

「何が有ったんですか」

「いやまだ詳しいことは、、、とにかくカバンを教室に置いて体育館にすぐに来るように、決して一人にならない様に」

 

 訳が分からない。

(それならカバンを持って体育館直行の方が良いのでは)


 教室には誰も居なかった、ヒカルは来ている筈だからもう体育館に行っているのだろう。


 体育館はまだ人が少なく直ぐにヒカルを発見、と言うか私が体育館に入るとヒカルがこっちに走ってきて、

「伊佐宵ー」

 名前を呼んで抱き付いてきた熱烈に。

「落ち着いて何が有ったの?」

「いえまだ何も、よからぬ事でないことを祈ります」



 しばらく光るとベタベタしていると教頭先生が教壇に立った。

「悪戯が有りました、学校の中を点検するので自宅で自習にします、皆さんはこの後直ぐに下校してください」


 皆がざわざわする。

「いいですか校舎に残らずに直ぐに下校してください、寮生は寮に戻り寮長さんの指示に従って下さい」


 担任の先生にみんなが詰め寄る。

「先生何が有ったの」

「いたずらってなに?」

「えっと具体的な事は書いてないけど物騒な脅迫状が届いたの、学校の中を点検するのでみんなは早く帰ってお願い」


 こんなに早く部屋に戻っても何もすることがない、いや自習しろって言われてたか。(他人事)


 ノートなんてものでなく百科事典サイズパソコンを開く。

 英語メールがズラズラというか英語メールだけ、何故ならこれは海外(ハワイ)の天文台から貸し与えられたもので、その天文台関係の連絡専用パソコン、チャットも週に一回二回している勿論英語オンリー。


 入部当初(当時小学三年生)は悩みの種だった小学校の時の天文クラブ、ほとんどの子が私を嫌って多数の子がクラブを辞めるって話が突然出てきた、なので先手を打ってクラブの無い日に部室を使わせてくださいと言行ってみると直ぐに先生の許可が出た、先生だって私を恐れていたいや一番恐れていたのはこの顧問の先生、いつだって私の方を向かずに距離を取って話ししていた、夜になると赤く光る私の目を見てから。


 私はその小学三年の時から隣の市から引っ越してきいて、帰るところは学校の中に有る寮、夕食を食べそれ以降は私の顔を見たくない為に先生が貸してくれた非常口の鍵と部室の鍵で出入り自由、ただしクラブない日。


だからクラブの有る水金以外はほとんど部室に籠っていた、同室の子も私が居ない方がせいせいする様でほとんど部屋に戻ってこない私を知らんふりしてたし、先生に密告されることも無かった。


 なので夜九時でも遠慮なしにチャットや天文ミーティングなどほぼデタラメの英語で好きなように話せた、やればできるものだ初めのうちは手ぶり身振り半分以上日本語英語で二回三回とやってるうちに結構話せるようになった適当だけど。


 中学に入って3人部屋、娯楽室は10時まで使えるけどデタラメ英語を聞かれたくない。

 心配してたらなんと寮に入った途端その二人が問題を起こして私と別室て事になった、本来なら出ていくのはその二人なんだけど部屋がなく、私は渋々の演技で晴ればれと物置小屋で一人生活を始める事になったのだ。


 それでその部屋は中々楽しい仕掛けが有ったりして。


 入口に近い名ばかりの年代物のクローゼットの扉を開いて狭い中へ入り腕を上に延ばせば天井板に手が届きそれを押したり引いたりすればなんと段々になった板が下りてくる、つまり上に上がるための階段が現れる。


 それをトントントンと上がれば真っ暗闇、だけど私は夜目が利くはっきりではないけどぼんやりと遠くまで見渡す事ができる。


 天井が低い廊下のような通路を突き当りまでしゃがんで歩いて階段の裏の梯子を上がれば三階の天井裏に出る、そこはなんと屋根裏部屋で屋根から突き出た窓から夜の天空を眺めることができるし、望遠鏡を設置できる棚まで用意されていた。


 この設備のおかげでつまらない座学ばかりの天文部に入らなくても望遠鏡が覗ける事が判明しヒカルの涙ながらの入部勧誘に負けて音楽部入りとなった、他に目途は無かったし(天文クラブは初歩過ぎるしせっかくの屋上望遠鏡も月に一度きりで一人5分の制限時間宝の持ち腐れだ)


 (昼間寝ておいて夜に天体観測久しぶりにやろうっと)

 夕食の後私は真っ暗な三階の天井裏に向かっていた。


 やはり夜はまずかったかな、気が付けば普段なら避けていた古い古い机と椅子が積み重ねられた辺りに来てしまっていた。


 一組の机と椅子がぽつんと少し離れたところで私を呼んでいる。

(あーやっぱり呼ばれてた)


 此処で引き返してももはや手遅れ夜中においでおいでと夢に出てきたり、起きていてもそれを感じさせる机や椅子を引きずる音を聞かせたりしてくる、それならこのまま望みをかなえて静まってくれた方が助かる。


 かなり古そうな机の横に立つ、特に悪寒とか鳥肌が立つこともない、しかし気分は沈む。


 机の天板がずれていた、固定していた所が弱っているのかもしれない。

 ともかく私を呼んだ手掛かりを探さなくては話にならない。


 ずれた天板を横にずらそうとしたら不自然に手前だけ持ち上がった、まるでこうやって開けると教えるように。

 私は天板が前後に割れているのかと思ったがどうも初めからこんな構造らしい、手前の板の手前を持ち上げるとその下に収納部があった、今の机なら座った側から本やノートを入れるところ。


 この辺りは真っ暗といっても私の眼には机の輪郭ははっきり見える、だけど天板を開いた中は真の闇、手を入れると入った部分が全く見えなくなる闇だった。


 指先にノートらしき物が触れる。

(掴んでいいの、引き込まれたら戻れないかもしれない)

 指先に感じるのは悲しみ、若い女性のすすり泣きが聞こえそうな気分になる。


 私の中にいる妖しの紫は無反応、て事は危険はないって事。


 紫は私が物置部屋に入った夜に出会った、というか怪しげな飲み物をもって私の前に現れた大妖怪のぬえ、マタタビ茶を飲みたい気分にさせられてこれを飲めば私は鵺の餌になる筈だったらしいのだが、飲まれる筈の私が鵺を飲み込んでいた、妖怪用語ではこれを「喰らう」を言うらしいのだけど私は鵺を喰らったらしい。

 そうやって取り込んだ妖怪を私は使役することができる妖し(人に害を与えない座敷童などは妖し《あやかし》と呼ばれる)に近いモノとなったみたい。

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