第10話 天井裏で呼び止めるもの
暗闇の中から出てきたのはボロボロのノート、息が詰まるほどの悲壮さを漂わせて。
このノートの表紙は表面が剥がれている様で、何か書いて有ったのか無かったのかも分からない。
ともかく暗くて読み難いので来た時とは別の場所、廊下の一番奥に出る隠し扉の所まで行って扉を押し開け、扉の存在が分からないように慎重に扉を閉める、閉めてしまえばただの壁。
ここは私だけの秘密の場所、誰にも見つけられたくない。
と言ってこのノートを部屋に持ち込むのも躊躇われる何かが憑いてきそうで。
仕方なく廊下の片隅でノートを開いてみる、ここには蛍光灯の光も弱まって怪談を読むには持って来いの雰囲気なのだ。
しかも私自称幽霊、人気のないこの場所に誰かがやってきたらほぼ間違いなく悲鳴を上げてくれるシチュエイションだ、自分で言うのもなんだけど。
そんな所でノートを開く。
「死にたくない!」
いきなりこんな言葉が目に飛び込んできた、文字だけではない訴える気持ちごと。
「死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。、、、」
延々と書き綴られている。五月というのに背中にひんやりとしたものが張り付く。
ここは行き止まりで窓もない、閉ざされた空間なのにひんやりとした空気の流れでゾクゾクっとした。
初めのページは「死にたくない」ばかりで終わっている。
ページをめくると二ページの左の上一行だけに、
「あと三か月」
とだけ書いて有った。
後は白紙のままだけど紙がデコボコしている医者から余命宣告を受けたのかもしれない、涙を流し何も書くことができなかったのだろう。
事情は分かった書いた本人はとうの昔に亡くなっているはず、残されたノートの無念が姿のない地縛霊になってしまったのだろう。
これは悪いものではない、とは言い切れない直接悪さをする訳ではないが霊感の鋭い者は悲しみが伝わり辛くなったり体調を崩す事もある、悪くすれば道連れなんてこともある、そしてノートを持つ手からじりじりと悲しみを伝えようと念を送ってくる。
私の場合は感化されない、使命というかこういう者たちを黄泉に送ることが私に課された使命、人の友達の代わりに命を持たないあやかし達に関わってきた私の宿命なんだと自覚する今日この頃。
「もう悲しまなくていいから新しくなって生まれ変わりなさい」
ノートを天に向かってブンッと放り投げる、ノートは天井にぶつかり落ちてくる、ただの古いノートになって。
霊は魂となり天井をすり抜け天に舞い上がっているはず、どういう経路か知らないが黄泉にたどり着く、それが私が持って生まれた力、何なの私。
ともかくノートをもとの場所に戻し屋根裏へ駆けあがる、梯子も腕に力を入れてジャンプすれば最上部まで一っ飛び、こんな人並外れた事は誰にも見せない。
窓に駆け寄り空を眺める、飛び立つところから見ていたら大抵目で追いかけられるけど窓枠から顔を出してももう見つかりそうにない。
「迷わず黄泉に行くのよ」
夜空に祈る、たどり着けなかったら生まれ変わることもできず消えてしまうから。
空を見ていたら望遠鏡を覗く気分じゃなくなった。
それに月がまぶしい、明後日は満月。
ドクンドクン鼓動が高ぶる、ゾワリ鳥肌が立った。
なぜか窓から飛び出したい衝動。
いやムリムリ、いくら私の体重が軽いからと言って空を飛べるわけがない。
私の身長は170センチ程度月に1センチほど伸びているから171超えているかも、その割に体重が増えない、いつも痩せすぎで「できるだけ残さず食べましょう」のコメントが毎回付く。
確かにご飯の時はお茶碗七分目くらいしか食べられないけど、その分すぐにお腹がすく、なので食べない分以上のご飯をおにぎりにしてもらって一時間置きに食べているから正味他の人よりたぶん多く食べているはず。
そして満月に近くなるほどガリガリになってくる特に足、アンパンマンに出てくるほらホラーって言ってる人(人なの?)みたいに骨が歩いている感じ(わたしリアルホラーウーマンなの?)
大きく息をして外に飛び出したい衝動を抑える。
(飛ぶつもりか)突然頭の中に声がした、これが紫。
(飛べるわけないでしょ、でも満月に近くなるとどうも引き寄せられるっていうか空を飛びたくなる、なんなのこれ)
(フクロウだな、生まれた頃から持っていて完全に一体化している、それが十六夜なのかもしれんな)
(えっ、ちょっと十六夜の正体はフクロウって事)
(いやそうではないおそらく十六夜が初めて憑りついたのがフクロウだった、そのあと人に憑りついたのが十六夜の先祖で代々引き継がれてきた、あくまで仮定の話だけどな、一番知っているのは十六夜だろう)
(あーそのうち思い出すかも、でもなんかすっきりしたよ私が軽すぎるのも飛びたいのも鳥のせい、このフクロウどうやって飛ばせるか、答えあるかなあ)
怪異。 十六夜姫(いざよいひめ)もののけ集めの章 一葉(いちよう) @Ichi-you
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