第6話 不吉な舞台裏

 体育館のステージの裏通路に演劇部の物置と控室二つの部屋が有る。

「先生このスペースならもう一部屋あると思うんだ、まあ中を見てみないと何ともだけど」

「じゃあ中を見せてもらいますか」


 そう言うと原先生はどこからともなくスイっとケータイを取り出し何処かに電話する。

「演劇部の控室見たいの、、、うんお願い」


「演劇の顧問が来るからちょっと待ってね」

 そう言ってケータイを折りたたみマジックの様に腕を一振りでケータイを消した。


「先生マジシャン?」

「スマホを持ってない言い訳」

 そう言ってブレザーのポケットから今度はごそごそとケータイを取り出した。


「スマホに替えたらこんな事出来ないから、なんてあんな重いの持ち歩きたくないからね」

「あー姫ちゃんのそういうとこ理解できない、わたし図鑑サイズパソコン持ち歩いたりするし」

「私こそ理解できないわ」


 そんな事話していたら若い男の先生がやって来た、息を切らして。

(やカッコいい)


「先輩お待たせ、あっもしかして部屋を明け渡せ何て言わないでしょうね」

「さすが井上分かってるわね、話が早い」

「ダメですよ、ボクはまだ見習いみたいなものですから、そんなことしたら生徒から吊るし上げられます」

「あの良かったら私を用心棒に雇って下さい、私を倒せるものはいません!」

 腰に手を当てない胸を張って言う。


「えっ、あっこれが噂のユーマ?」

「こら生徒をバケモノにするんじゃないの、気持ちは分からなくもないけど」

「一年二組の蒼井伊佐宵あおいいさよでございます、自称幽霊だったけどユーマの方が良いかな、先生ユーマと幽霊どっちがいい?」

 井上先生とやらに聞いてみる。


「あっしゃべった日本語、日本人に見えないなやっぱりユーマだよユーマ、ボクは井上、原先輩の2コ下」

「ああ変な所で気が合いそうね男子の体育の先生よ」

「えーそれじゃあ接点ないじゃないですか女子の体育も見てくださいよ」

「それ良いな、男子より女子でしょ」


 コンと原先生に小突かれる。

「セクハラ教師はクビよ」

「何言ってるんですか、ボクは先輩一筋二十年ですよ」

「それがキモいの、いい加減諦めなさい、この子なんてお勧めよ」

「だ、ダメですよ、今セクハラはダメって言ったとこじゃないですか」

「セクハラはダメ、本気の恋愛なら卒業してから付き合えばいいのよ」

「あの姫ちゃん一筋なんですか」

「姫ちゃん?」

「あ音楽の音姫様だから姫ちゃん、原先生の事」

「音姫様、うまい座布団十枚」


「いい加減にして、部屋を見せて」

「ハイハイ」


(カッコいいけどちょっと軽いなあ)


 手前の部屋のカギを開けてもらって井上先生の後をピタッと張り付く私。


「ここは控室、着替えたり化粧も」

「男子は別室なの」

「いえ基本体制服か体操服の上から着るので必要ないって事です、向こうは物置で場所も無いので」

「じゃあ向こうへ行きましょ」

 と井上先生の袖を引っ張る。


「まあまあ蒼井さんずいぶんお気に入りの様ね」

 姫ちゃんに茶々を入れられるが気にしない、どうせ姫ちゃん一筋の堅物らしいし。


 奥側の部屋のカギを開けるときはさすがに手を離した。

「ここは物置、実はそこが(ステージ側を指さして)扉になっていて直接舞台に出せる、通路ぐるっと回っていたら舞台替えの時大変だから」


 ステージ側の裏の扉をスライドさせながら説明してくれる。

 そして部屋の中へ。


 入った途端嫌な臭い。

「わっくっさーい、何か腐ってる」

「確かに臭うんだ、だけどそれらしき物が見当たらなくて」

「ほんと嫌な臭い、だれか汗まみれのシャツ忘れてるんじゃない」

「違う、どこかで動物が死んでる、腐敗臭だよこれ」

「動物?」


 原先生が、

「ネズミが居るらしいけど、ネズミでも臭うの?」

「臭うかも、それに放っておくのは良くない」

「確かに不衛生だけどどこで死んでるやら、あっ下かも」

「下って?」


「こっち来て」

 呼んだ後井上先生は奥の壁のスイッチを入れた、さらに奥に蛍光灯が灯る。


「この下は機械室で籠を上下させる装置が置いてある」

 部屋の奥は下につながる鉄の階段が有った。


「ここから舞台に出る事もできる、よくこんな凝った舞台作ったものだ、この町昔は景気が良かったのか」

「どうだか私が来たころには今と変わらなかったと思うけど」

「地元産ユーマじゃないのか、まあユーマといや宇宙人だな」

「そう私宇宙人だと思うかぐや姫的な」

「おやおやどっから幽霊になったんだ」

「やめなさい」

 原先生は言うけど。


「聞いて欲しいんだけど、小学校の時の天体観測でみんな逃げて帰ったの、私が居たらクラブ辞めるって子が続出、先生まで怖がられた」

「いくらなんでもそれは無いだろ」

「暗い時にデートしようか、たぶん逃げて帰る」

「いやいや二人だけでデートは無理、教師になった途端にクビって人生終わり」

「そう残念、それでね皆と違う日に天体観測する事になって、暗闇の窓に映った自分を見て悲鳴あげそうになったわ、白くぼんやりと映った幽霊顔の目が赤くギラギラと光ってたのよ、息が詰まって歓喜の声が出なくて助かった」


 井上君私から一歩離れて、

「喜んだのか、やっぱりユーマだな幽霊タイプは珍しいな」


 後ろで幽霊の振りをしている原先生。(かわいい)

「それじゃあ三人で肝試しやりましょ」なんて。


「いいですねー僕原先生から離れませんから」

「えーじゃあ私井上君にくっ付いて離れない」

「あらあら私モテモテね」

「どうしてそうなるんですか、僕がユーマに追われているんです、助けてください」

「自力で解決しなさい、北風よりお日様よ、ぴゅー」

「北風になって逃げていった、ともかく下を探しましょ」


 私はやっぱり井上君の袖を引いて階段に向かった。

(ほんとは手を繋ぎたいんだけど)


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