第3話 前兆


 朝の教室に入るといつもの様にヒカルだけが来ていた、いつもなら真っ先に私に飛付いて来るのに今日は様子が違う。


「おはよう」

「あっ伊佐宵いざよさん上履きに番号書かれてない?」

「えっ番号?」


 ヒカルの所へ行ってヒカルの上履きを見るとピンクのチョークらしきもので両方に 8 と書かれていた。


「書かれてないけど、、、」

「何なのかなあ、下駄箱の中まで掃除したりしないし、全部取り出しても名前で場所は分かるから書く必要は御座いませんのに」


 やっと普段の御座いません口調に戻ってきた、あれこれ考えていたから丁寧言葉を付けるのを忘れていたのかも知れない。


 この頃早く来るようになったボカロ(ボーカロイド)クラブ(ただし同好会、私とヒカルがなぜかメイン)メンバー二人がやって来て挨拶もそこそこ、ちょっと元気すぎでヒカル目当ての高田君が「委員長上履きに5って書いて有るけどこれ何?」

「僕は1」と言うのは秋山君、落ち着いて芯がしっかりしてそうな子、ボカロに関しては私の先生。


「私も何も聞いておりません、もう少しすれば先生に聞いてまいります」

「いやいや、それならば拙者が聞いて参りまする、姫はごゆるりと」


 ヒカルにゴマをすってる高田君に一言アドバイス。


「高田君いつも言ってるでしょ、ヒカルには上から強く言わなきゃ、せめていつもの様に」

「それがさあ、日輪さんの顔を見るとつい姫様ーってなっちまうんだ、分かってるんだけど」


 秋山君がチャチャを入れる。

「片思いこじらせてるからなあ」

 容赦ない。


「こ、こら、余計な事言うな、お前こそ蒼井さんだーい好きなくせに」

 二人で暴露大会して炎上している、でも秋山君は大して気にせず、

「うん好きだっていうか憧れかなあ、ダンスが上手いし、和太鼓をやってる時なんてめっちゃカッコイイじゃん」


 そうは言うものの私たちの仲は一向に進展しない、私たち二人だけになるとボーカロイドの話ばかり熱心に語り聞いているので、それに私は恋愛となるとどうしても年上の人に引かれてしまう、井上君(先生)が乙姫先生を好きでなかったら見境なく押しかけてしまいそう。



 その後次々にクラスメイトが登校して来て「この番号なに?」「オレのだけ入ってないけど」「9番なんてやだー」だんだん騒がしくなってきた。


 チャイムが鳴ってもまだワイワイやっている。


 先生がやって来て優しい声で「何々、何があったの」

「先生、上履きに番号が書いて有るこれ何?」

「番号無いのも有るし」

「白とピンクのチョーク で書いてあります」

「えーなんだろ、何も聞いてないんだけどー、後で聞いておくから席に着いてね」


 私への失言(はっきり言って苛めの先導をするようなことを言った)でいなくなったトモベー(休職処分後姿をくらませた前任の友部先生)に比べたら攻撃的でなくなったのは助かってるけど、ベテランの割に頼りない。

 

 でも教室は幾分賑やかになったけどそんなに好き勝手する子はいない、”先生を困らせる子は許さない”的な雰囲気をヒカルを中心に出来上がっているためかな、中々やってくれるんだ、ぼくの彼女は、ん?



「じゃあね今日は、あら?チョークが無いわ、えーと、、、」


 先生が困っていると日直の田辺さんが、

「先生朝取りに行ったんですけど、在庫が見当たらないから後で配りますって言われました」

「無い?チョークが?まさかチョークを切らすなんて、どうしましょ」

「先生隣の組で借りてきます」


 そう言ってヒカルは出て行って直ぐに戻ってきた国語の谷口先生を連れて。


「花園先生、ひ組(ほんとは火星組)も一本も無いんですよ、それに上履きにチョークで番号振ってるんで、何か関係が有るのかも知れませんねえ」

「事務室にも無かったそうです、困ったわ授業に成りませんね」

「僕職員室で聞いてきます、ちょっと待っててください」

「でしたら私も」


 先生二人は「おかしいですねー」「困りましたねー」と言いつつ、いそいそと二人そろって職員室へ歩いて行く、生徒の目が無ければ手を繋いでスキップでもしそう。

(青春だねー、曲がり角を二、三回も通り過ぎてるけど)


「蒼井さん、ちょっとよろしいですか」

 こちらは青春真っ盛り、ぼくの彼女のヒカルです、なんて事を本人に言ったとしたら、人目もはばからず抱き付いて来るだろう学級委員になったばかりの日輪ひのわひかる、他の人が居る時だけは十六夜いざよいとは呼んでこない。


 余談になるけどヒカルが学級委員になったのはつい先日、今は六月なので一学期の中程、前学級委員が突然登校拒否になってしまい、先生が臨時の学級委員になってくれる者はいないかと希望者を求めたが誰も手を上げず、それなら学級委員の長谷はせ君が戻ってくるまで、と言う事でヒカルは学級委員代理となった訳だ。


 でも学級委員代理が決まった翌日から長谷君は出てきたが、委員長復帰は拒否しているらしい、ヒカルも何もいわないし、まあこれで良いって事なんだろう。



 ヒカルは私の前に座っている男の子にニコッと微笑むだけで座席を確保。(美人は得よね)


「昨日から何かおかしゅう御座います、何が起きているのでしょうか、オカルト娘」

「オカルト付けなくていいからみんな知ってるし、それに暗闇でも見えると言っても何でもお見通しって事じゃないからね」

「あらまあ、十六夜姫いざよいひめでも分からない事が御座いましたか」

「やめなさいヒカル、御ふざけが過ぎるわよ」


 十六夜姫というのは満更嘘ではない、でも確実な事でもないし他の子に聞かれたらとてもじゃないが説明できない、それこそ中二病患者のレッテルを貼られる、ほんとに戯言たわごとならそう呼ばれても仕方ないが、私が”十六夜姫”になる日は着々と近付いている。

 

 それを知っている者(人でないモノも)が私の周りに急に増えてきた今日この頃なのだ。

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