「それら」
「ん?あれ?俺は、寝ていた…いや違う、水を飲んだら眩暈がして―――」
そこから先の記憶がはっきりとしないが、たぶん俺はふらついてそのまま倒れたのだろう。
体は特に変な感覚は無い、何ともない様だ。
俺はポケットに入れているスマートフォンを確認するとどうやら10分も経っていないみたいだ。
たぶん疲れがたまっていたのだ、そこに両親が死んでいるかもしれないというショックが重なって
俺はそう思った途端、急に空腹を覚えた。
そう言えば昼飯はまだ食べていない、だけどこの辺りがこの調子で店は普通に開いているのだろうか。
確かこの団地から徒歩で30分くらいの距離に大きめのスーパーと小さな商店街があった。
両親にお土産として買って来たクッキーを食べる訳にはいかない。
俺は財布があるのを確認して家を出る。
鍵は、もしかしたら両親が帰ってくるかもしれないと思い開けておく事にした。
不用心かもしれないがこんな場所だ、泥棒など入らないだろうし特に問題は無いと思う。
何かと細かい事を煩く言う両親だが、自分が鍵を掛けるのを忘れて出たのだから文句は言えまい。
俺は階段を下りてスーパーに向かう。
途中、もしかしたら誰かとすれ違うかもと思っていたが残念な事に誰とも出くわさなかった。
道路に出て丘を越えて下った先にスーパーと商店街がある。
確か商店街の終わりには稲荷があった筈だ、小さい頃はそこの境内でよく遊んだ。
懐かしくなった俺はスーパーに行くついでに稲荷を見て行こうと思った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
絶句するしかなかった。
スーパーは遠目からは分からなかったが近付くとすぐに分かった。
中は酷い荒れ様で棚などが倒れされ、天井のタイルは剥がれ落ち、何かが暴れた様な惨状だった。
俺の記憶が正しければこのスーパーは県内でもそれなりに有名な地方の大手だった、記憶している店の内装はとても立派で、商品の品揃えも良かった。
それなのにこの惨状は一体、それに廃墟になって十年以上は経っていそうだった。
だけど俺がこの団地を出た時は普通だった、これと言って悪い噂も無かった。
客足は確かに団地の人口が減った事で悪くなっていた、それでも普通は取り扱っていない珍しい商品も取り扱っている事から団地の外から買いに来る人もいて、閉店したと言っても数年前の筈だ。
しかしこの荒れ様は一体?そんな疑問が浮かんでいたが酷い空腹感も感じていた。
思い出の場所がこの惨状でも俺はこの空腹を満たす必要がある。
スーパーが駄目なら商店街の方ならまだやっているかもしれない。
ほんの数十メートルという短い、10店舗程度の小さな商店街だけど県外から食べに来る人もいたラーメンの名店やお好み焼き屋もあった、それ以外にも洋服店やパン屋に駄菓子屋と小さい頃はお小遣いを片手に何度も訪れた。
商店街ならきっとまだやっている筈だ、と俺は思っていた。
「嘘、だろ……」
目の前に広がっていたのはシャッターが下ろされた商店街だった。
それだけだったらこんなに驚かなかった。
異様なのは
シャッターは何かが体当たりでもしたのかと言う程に歪んでいて、それにこの錆びついているのは塗料か?だけど俺にはこれが噴き出して飛び散った様な跡に見える、そう映画とかで血が噴き出して壁に飛び散った様に見えてしまう、いや違う勘違いだ。
そんば馬鹿な事があるものか、きっと誰かが遊び半分でやった事だ。
俺は無理矢理そう思う様にして、商店街を歩く。
やはりどこも酷い有様でとても店がやっているとは思えなかった。
ならせめて稲荷だけでも見て行こうと思って足を進めた事を後悔した。
「ここもかよ……」
稲荷はスーパーや商店街よりもっと酷い有様だった。
石像は倒されただけでなく、入念に破壊されていた。
鳥居も倒され、燃やされたのか炭化していた。
そして社も燃やされていた。
誰がこんな事を?俺は憤りを感じた。
子供の頃の思い出が詰まった場所をこんな風にされて平気でいられる人間なんていない、許せない!と思っていると境内の中に人影が見えた。
少し足を引きずる様に歩いていたから、老人かと思い何で稲荷がこんな事になったのか聞こうと追い掛けた。
酷く足を悪くしているのかすぐに追い付けた。
やはり老人だった、年齢の所為か頭は禿げていた。
俺は老人に声を掛ける。
「すいません、団地に住んでいる人ですか?」
「………」
老人から返答は無く黙っていたが足を止めた所を見ると聞こえてはいる様だ。
老齢からの痴呆か?よく言われている老人の徘徊というやつかなと思ったがもう一度声を掛けてみる事にした。
「すいませんおじいさん。少しお話を聞かせて欲しいですが」
「………」
やはり老人からの返答は無かった。
それと同時にその老人が異様な事に気が付いた。
靴は履いておらず足はボロボロだった、それに来ている服もボロボロで何より禿げていると思っていた頭頂部は髪が無くなって禿げていると思っていたが、どうやら頭の皮膚が剥げているみたいだ。
俺は後退る。
異常だ。
逃げろと本能が訴えている。
少しずつ離れるが老人は振り返る、その目は濁り顔は腐敗してぐちゃぐちゃだった。
俺は振り返って走る。
老人はゾンビだった。
俺が走って逃げると同時に老人が奇声を発した。
それに呼応する様にあちらこちらで奇声が上がり始める。
俺は必死に走った、決して後ろを振り返らずに。
後ろから感じる迫るその気配から逃げ切る為に!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
団地まで来る頃には後ろから迫る気配は消えていた。
逃げ切った、俺は安堵した。
一体何だったんだ、
もしかしてスーパーや商店街を破壊したのは
いや今はとにかく家に逃げ帰る事だ、そして父と母と共にこの団地から逃げる。
俺は震える足に鞭を打って走り出す、警戒を怠らず急いで帰らなければならない。
漸く二人が住む公園の前の三号棟に辿り着き、俺は気を抜いてしまった。
人が一人隠れれそうな隙間が沢山ある団地の中こそ一番警戒しなければならないのに、俺は警戒を怠ってしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「っな!?」
隙間から視覚から飛び出して来た
俺の肉をかみ千切ろうと恐ろしい力だで噛みつき、引き剥がそうとしても全く離れない。
「クソ!離せ!!クソ!クソ!クソォオオオ!!」
俺は何度も殴った、それこそ顔が潰れるくらいに殴った。
だけど全く力が弱まらない、それどころかさらに強くなっていく。
俺の腕からは血が流れに
それでも俺は歯を食いしばってひたすら殴り続ける、そしてついに観念したのは
そして立ち上がって走ろうとした瞬間、自分の腕の惨状を理解して悲鳴を上げてしまった。
「っぐああああ!?」
外れたんじゃない、食い千切られていたんだ。
そして俺の悲鳴を聞いて
俺は痛みに耐えながら走る、家に入ってしまえば逃げ切れると思ったからだ。
でも甘かった、俺は足の痛みを感じて倒れてしまう。
足に噛みつかれたのだ。
そして俺が倒れると同時に集まって来た
「痛い!痛い!やめ、やめてくれ!クソ、クソ!クソ!!やめろろおおおおお!!」
俺は必死に抵抗した、それでもいくら引き剥がしても次から次へと噛みついて来る。
駄目だ、もう駄目だ。
痛みで気が狂いそうになった瞬間、最初にあった
そして俺を見てはっきりと喋った。
「次、行ってみよう」
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