「それから」
「以上が俺が見た団地の様子です」
「……」
面倒な事になったと派出所に勤務する警察官の青年は思った。
目の前にいる大柄の190㎝はありそうな青年が駆け込んできてから一時間。
服には大量の血痕が付着している事から話している事の一部は本当だと思われるがあの団地は住人が集団失踪をして以来、無人で青年の言う様にゾンビが居たりピエロが居たり子供……警察官は深い溜息を付いて先輩である定年間近の警察官が帰って来るのを待っていた。
椅子に座り何やらブツブツ言っている青年を見た警察官は「薬でもやってるのか?」と疑問が脳裏をかすめたがそれだとこの大量の血痕は説明がつかないと思った。
身形は白いタンクトップとジーパンと言う出で立ちで、そう言えばここに駆け込んで来た時に外に何かを落とした様な気がしたが、それを取りに行けばこの青年を一人にしてしまうと思い警察官は先輩が帰って来るのを待つ事にした。
「そう言えば君はご両親に会いに行ったと言っていたね、電話があったんだって?」
「はい、変な電話でした。ええ、変な電話でした。とても、とても、とても、今、今、今思えば変な電話でした」
「そうか……」
どんどん悪化して行っている。
警察官は思った。
最初は普通に喋っていたのに徐々に喋り方がおかしくなって行っている。
目付きも少しずつ狂気を孕んで行く様で最初は真摯に対応していた警察官も薄気味悪くなり今すぐ逃げ出したい気分に襲われていた。
だが同時に10年前に起こった団地で起こったカルト教団による住民の集団失踪事件の解決の糸口になるかもしれないという使命感から警察官は根気強く、青年の言葉を聞き続けた。
そして最初は変な薬でもやっているのか?という内容は酷く生々しく、実際に起こったか事の様に思えてしまい警察官は酷く恐ろしくなった。
今もここに居るのは使命感だけだった。
「あそあそあそあそあそあそこは、あそこは変な、父も変な、母も変な、変なカルトを信仰してしました、俺はそれが嫌で、あと団地に死が充満している様な気がして、怖くて逃げだして、10年以上も帰っていませんで、それでこんな事が起こっていたとは露とも予想できず」
「落ち着いて!ゆっくり、ゆっくりで良いから」
「はいはいはいはいはいはい」
駄目だ。
警察官は思った。
完全にあっち側に足を踏み入れている。
「ちょっと待っててね?すぐに戻るから」
警察官は救急車を呼ぼうと思い立ち上がる。
と、同時に息を切らした先輩が駆け込んで来る。
「おい!表のあれは何だ!?」
「表の?何が……」
「
「え!?」
「それに、それにあったぞ惨殺死体、四人分だ……ありえない殺され方だった」
警察官は後ろを振り向く。
椅子に座りブツブツと喋っている青年がここに駆け込む直前に何かを落とした事を思い出す。
そして4人を瞬時に惨殺した大男の特徴と目の前の青年が同じだと気付く。
青年は目をギョロギョロさせながら立ち上がり、にこやかに微笑むとそう言った。
「次、行ってみよう」
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