「ぼくら」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
俺、俺は、俺はまた死んだ!?
チェーンソーで頭から真っ二つに、真っ二つにされた!なのに何ではっきりと頭の皮膚を!骨を!脳を!
「何で、何で、何でだよぉぉォオオ!?」
真夜中だった。
さっきまで真夜中だった、だけど今は昼過ぎだ。
「どうなってんだよ!?」
俺は叫ばずにはいられなかった。
叫ばないと正気を保っていられない、自分の中で渦巻く不安や恐怖を叫んでありったけ吐き出さないとすぐに渦巻いている感情に縊り殺されてしまいそうだった。
何かに生きたまま食い殺されたと思ったら今度はピエロにチェーンソーで生きたまま真っ二つにされた。
生々しい痛みの記憶とそれを否定する無傷な体、自分が狂っているのか世界が狂っているのか。
分からない、理解出来ない―――。
「どうしたら良いんだ!俺は!?」
叫んで叫びまくったら急にドッと疲れてしまった。
俺は今でも何とか原形を留めているベンチに疲れに身を任せて座り込む。
両手で顔を塞ぎただ考える事をやめた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
急に蝉の鳴き声が聞こえて来た。
肌を刺すどころじゃない全身を骨の芯まで焼いてしまいそうな強烈な陽射しと息をするのも辛い、蒸し上げる暑さを感じて俺は今が夏だった事を思い出した。
気が狂いそうな体験をしていてどうやら俺は正気を失いかけていたみたいだ。
この酷い暑さを忘れていたなんてどうかしている。
そこで俺は気付いた、目の前に小さな女の子がいて公園が記憶の中と同じ様になっていた。
俺は立ち上がって周りを見る、公園は俺が子供の頃に遊んでいたあの日々と同じ姿になっていた。
少し錆びの目立つ回旋塔はあの日のまま、今でも普通に回りそうだった。
よく登っては滑った滑り台、支柱に錆び一つ無い。
おふざけが過ぎて勢い余って大怪我をしそうになったブランコ、何度も逆上がりの練習をした鉄棒も何もかもどれもこれも記憶の中の思い出がそのまま現実となって俺の目の前に存在する。
後ろによろめいて中学生の頃に危ないという理由で大人達が一方的に切り倒したベンチで囲う様に植えられている大きな木も、あの日々と変わらずそこにあった。
気が狂いそうだった。
さっきまで公園とは思えない荒れ様だった場所が目を開けると公園になっていた。
「お兄さん、大丈夫?」
俺は女の子に話し掛けられて我に返る、もしかしたら今までのは幻覚だったのかもしれない。
本当は公園も団地も何かも荒れ果てていなかったんだ。
現に目の前に小学校低学年くらいの女の子がいる。
つまり団地は今でも―――。
「ねえお兄さん、そろそろ始まるよ」
「始まるって何がだい?もしかして、まだ紙芝居ボランティアの人が来てくれているのかい?」
俺が子供の頃に近隣の大学で昭和文化を研究するサークルがありその人達が定期的に紙芝居のボランティア活動をしていた。
水飴やカラメル焼きといったお菓子も売っていてよく紙芝居を見ながら食べていた。
そうか、あの活動は今でも……やっている筈がない、あのサークルの人達は事故で全員、無くなった筈だ。
なら何が始まるっていうんだ?
俺は笑顔の少女が急に恐ろしくなる。
今度は何が始まるっていうんだ!
「お兄さんお兄さん、あっち見ていて、もうすぐ飛ぶから!」
女の子は嬉しそうにマンションの屋上を指差す。
屋上には手を繋いだ子供達がいた。
そして右から順番に自分の通っている小学校とクラスの名前、そしてどんな悪い事をしたのか宣言して行く。
「〇〇小学校三年二組 崎本若菜!花壇の水やりを忘れました!」
「〇〇小学校二年一組 山本幸助!クラスの女の子を後ろから突き飛ばしました!」
「〇〇小学校三年三組 大城雄太!俺が犬を連れて行った所為で兎がかみ殺されました!」
「〇〇小学校二年一組 迫田夢子!クラスメイトの秘密を言いふらしました!」
その声はあちらこちらから聞こえて来る。
別の棟にも同じ様に罪の告白をする子供が次々と現れる。
そして全員が言い終わると高々に彼等は宣言した。
「「「責任を取ります」」」
責任を取る?どういう意味だ?
それが屋上に―――
「やっやめろおおおお!」
俺は走っていた。
何が起こるのか分かった。
全力で走った、今まで一番の速さで走った。
階段を段飛ばしで全力で駆け上がり屋上に着く。
「良かった、まだ―――」
飛び降りていない。
そう言い切る前に彼等は俺の方に振り向いて笑顔で一斉に飛び降りる。
「や―――」
まだ間に合う。
全員は無理でも一人だけなら!
手を伸ばしてそして掴んで振り払われた。
落ちて行く子供達は全員が笑顔で地面に激突して赤い花を咲かすその瞬間まで、頭部が原形を失ってしまう前まで彼等は笑顔だった。
「あ、ああ、あああああああ!?」
俺は後ろによろめく。
現実なんかじゃない!これはきっと幻覚だ!
さっきからずっと幻覚を見ている、だからきっとこれも幻覚だ!
俺は自分の頬を殴った。
殴って、殴って、だけど確かな痛みと口の中が切れたのか鉄の、血の味がしてこれが現実だと理解した。
俺は目の前で助けられたかもしれない命を助けられなかった。
何で?何故なんだ?何でこんな事が起こったんだ?
子供の集団自殺?自殺する程の理由だったのか。
俺は立ち上がって階段を下りて行く。
思考が上手く動かずただ呆然と歩いていた。
一階に下りて外に出ると公園にいた女の子がいた。
その子はとても笑顔だった。
「お兄さん、お兄さん!」
「……何だ?」
何でそんなに嬉しいんだ?
俺はその女の子が不気味だった、だけどそれ以上に生きている子供が入る事に安堵していた。
そうだ、この子にはちゃんと言わなければ。
あんな事で死んではいけない。
俺は女の子に近寄ろうとすると女の子は俺から距離を取る。
ただ笑顔なのは変わらない。
「お兄さん、お兄さん!」
「何だよ、何なんだよ!」
俺は思わず声を荒げてしまった。
もう自分が正気なのか分からなくなって来た。
「お兄さん、上!」
「上?」
女の子は上を指差す。
俺は上を見て絶句した。
子供が降って来て女の子に激突する。
頭と頭がぶつかって首が圧し折れる音が聞こえた瞬間、世界が静止して落ちて来た子供と落ちて来た子供の頭とぶつかった女の子は口を揃えて言った。
「「次、行ってみよう」」
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