分裂した世界を元に戻すのは簡単じゃない。

青見銀縁

第1話 違和感の正体は果たしてわかるのだろうか。

 気づけば、隣の席に見知らぬクラスメイトが座っていた。

 同じ高校一年女子の制服という格好ながらも、教室内で一際目立つ銀髪。加えて、精巧に作られた西洋人形みたいに端正な容姿。誰であれ、彼女を美少女という言葉が似合うと答えるだろう。

 彼女は休み時間に文庫本を開き、時折ページをめくっていた。読書をしているらしい。

 知らない子だ。

 というより、いつもなら、席にいるのは彼女じゃない。

「ねえ」

 僕は思い切って、呼びかけた。

 彼女は顔を向けてくる。

「君は誰?」

「わたし?」

「うん」

 僕がうなずくと、彼女は首を傾げた。

「あなたのクラスメイトだけど?」

「いや、そんなはずはない」

「どうして?」

「だって、そこには」

 僕は間を空けるなり、彼女と目を合わせる。

「美鈴がいるはずだから」

 自分の記憶を頼りにした言葉は、はっきりした調子で発していた。

 対して、彼女の反応は。

 表情を綻ばせ、読んでいた文庫本はしおりを挟み、閉じていた。

「鴨宮美鈴の記憶があるみたいね」

 相手の言葉に、僕はどう受け止めたらいいのか戸惑う。

「それは、どういう、意味?」

「言葉通りの意味よ」

 彼女は文庫本を机の上に置くと、立ち上がった。

「ここだと落ち着かないと思うから、場所を移動しましょう」

 相手は口にするなり、足を進ませ始める。

 にしても、妙だ。

 銀髪の美少女というそのままの名に相応しい彼女が動くというのに、教室内はざわつかない。周りにいる生徒らは、彼女が普通のクラスメイトという扱いをしているように見えるのだ。

 加えて、僕が遅れてついていくことに、誰も興味深げな視線を移そうとしない。ひとりでトイレに行くのだろうと思われているぐらいに。

 教室を出た彼女に対して、僕は追いかける形で横に駆け寄った。

「おかしいよね?」

「何が?」

「だって、みんな、君のことを当たり前にいるかのように、というより、普通の女子みたいに見てる気がして」

「それに違和感を感じる?」

「無茶苦茶感じる」

「それは普通の感覚」

「えっ?」

 僕が間の抜けた反応をすると、彼女は耳にかかった銀髪を手で払いのけた。

「わたしの名前はヒカリ」

「ヒカリ?」

「ここでは、神野ひかりという名前にしてる」

「という名前って、君は一体?」

 僕の問いかけに、ヒカリは返事をしないまま、廊下を抜け、階段を昇っていく。

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