第6話 改ざんは不完全でも、何とかなるらしい。
目を覚ますと、僕は自分の部屋にあるベッドで横になっていた。
枕のそばにはスマホがあり、アラーム音が鳴り響いている。
僕はそれを止めるなり、体を起こす。
窓からは日差しが入ってきており、照明がついてない中を照らしていた。
「夢?」
僕は瞳を擦るなり、とりあえず、場を出ようと体を動かす。
僕の部屋は二階なので、一階にあるリビングまでは階段を使うことになる。
僕は廊下を過ぎ、下へ降りていく途中で、台所の物音に気づく。何かをフライパンで焼く感じから、母親が朝食の準備をしているのだろうと察する。
で、僕は一階に着き、リビングに向かおうとして。
「おはよう、時也」
玄関前に立つ制服姿の銀髪美少女、ヒカリに挨拶をされた。
「お、おはようって、えっ?」
「時也って言い方が変?」
「いや、それは別にいいんだけど……」
僕は何気なく、ヒカリを上から下まで確かめてしまう。
「どう考えても、普通の人間にしか見えない」
「そうじゃなきゃ、わたしはこの世界に溶け込むことはできない」
「それはそうだけど……。って、君がここにいるってことは、美鈴と再会したのは」
「あれは、夢だけど、夢じゃない。時也は実際に美鈴と再会している」
「だとしたら、世界は分裂してるってこと?」
僕の問いかけに、ヒカリは躊躇せずにうなずく。
「ちなみに、神様にはまだ聞いていない」
「そっか」
僕は寝癖があるであろう髪を掻きつつ、自分がパジャマ姿だったことに気づく。
「とりあえず、色々と話はしたいけど、ちょっと準備をしてからで」
「わかった」
ヒカリは口にするなり、肩に提げていた学校の鞄から文庫本を取り出す。
「それって、昨日読んでいたもの?」
「そう。途中だったから」
「そういえば、学校から急にいなくなる時、机の上にあったそれ、消えてたけど?」
「それぐらいの世界の改ざんはわたしでもできるから」
「改ざんか……。何か、言葉だけ聞くと、悪いようなイメージがあるけど」
「その印象はあながち間違ってない。実際、昨日した改ざんは不完全なものだから」
「不完全?」
「そう。だから、クラスメイトの中には、体調不良で早退したって思っている人もいれば、突然いなくなったと感じてる人もいるかもしれない」
ヒカリは淡々と答えると、背を向けるなり、床に座り込み、文庫本のページを開き始めた。どうやら、僕の準備が終わるまで、読書をして時間を潰すようだ。人の家でやっているという不躾さは、人間じゃないという理由だけで感じることはなかった。
ともあれ、僕は学校へ行く支度を済ませようと、足を動かした。
「あのう、君は、どういう改ざんをした?」
「わたしと時也が付き合っているという事実を作り上げた。あなたの母親の記憶に」
何事もないかのように話すヒカリ。だから、母親が終始にやけていたのか。
僕とヒカリは家を出て、住宅街の通学路を歩く。時間には余裕があり、よほどのことがない限り、遅刻はしないだろう。
「ちなみに、クラスのみんなには?」
「そこらへんの改ざんは行ってない」
「それって、クラスには秘密にしてるとかっていう風にすればいいってこと?」
「というより、それしかない」
「クラスメイトらに改ざんは?」
「そこまでやると、神様に小言を言われるかもしれない」
「小言ね……」
ヒカリの世界では、色々と大変なところがあるようだ。
「でも、君は神様に、世界を元に戻したいかどうか聞くんだよね? なのに、小言を言われるかもしれないとか、気にしてるのは」
「ちょっとしたことでも細心の注意を払わないと、痛い目に遭うと思うから。ましてや、神様に自分の存在が消えるかもしれない質問をするなら、尚更」
「そっか……」
「神様には、この世界で言う昼ごろに聞いてみるから」
「何か、すごい何かのついでみたいに聞こえるけど……」
「焦って聞くと、神様に色々と疑われると思うから」
「僕とか、何か手伝えることってない?」
「ない」
ヒカリはきっぱりとした調子で答える。
「時也はそのままでいい」
「何だか、悪い気がするなあ……」
「仕方ないと思う。人間が神様に接触するのはほとんどできないことだから」
「そうなんだ」
僕はうなずくと、後は適当な雑談を交わすだけにした。彼女は学校やネットでの流行りに対して、反応を示してくれたりする。なので、学校に着くまでの間、話が途切れたりせずに、時間を潰すことができた。
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