お見合い結婚しました―しばらくはセックスレスという約束で!

登夢

第1話 お見合いで最適な人を選ぶための戦略を教わった!

(9月第2土曜日)

9月9日土曜日、僕は東京駅8時36分発の北陸新幹線の「かがやき505号」に乗車した。


金沢まで2時間半、随分便利になったものだ。東京へ就職したころは上越新幹線で越後湯沢まで1時間半、それから在来線に乗り換えて2時間半、4時間はかかった。


ただ、新幹線で便利になったがトンネルが多くて景色はよくない。線路の脇には防音壁があって景色が見づらいし、日本海側へ抜けても、山側を走るので海が見えないのは寂しい。


以前は車窓から日本海が見えてよかった。海が見えると帰って来たと思えた。いつも『悲しみ本線、日本海・・・!』の歌詞が思い浮かぶ。だからいつも座席は海側のA席を取っていた。


その癖もあるが、新幹線になってもA席にしている。今日は8号車A席。3人掛けを避ける人もいるが、そのためにすいていると大抵B席は空席になる。だからゆとりを持って座れる。E席にすると少し混むと隣の席が埋まるのでうっとうしい。


土曜日の今の時間は混むほどではないが、D席かE席には人がいる。A席とC席にも人がいるくらいで、ほどよい混み具合だ。これ以上は混まないでほしい。


C席もA席と同じことが言える。よっぽど混んでこないとB席は埋まらない。C席は横が通路だから他の乗客から一番距離の取れる席だ。でも、僕は人がそばを通るので落ち着かない。


A席は座ってしまえば一番落ち着ける。C席に人がいても2時間半位ならトイレに行かなくて済む。それにC席の人は途中で降りることが多い。


C席に若い女性が座った。手荷物は小さめのバッグだけでそれを床に置いた。小柄だから棚に上げようとすれば手伝っていたところだ。


髪は肩まであって、横顔しか見えないがすごい美人だ。20代後半? 30前くらいか? 落ち着いた雰囲気で、席に着くとすぐにスマホをいじっている。


僕は髪の長さは肩くらいが女性らしくて好きだ。その後ろ髪をアップにしたときがなまめかしくていい。前髪は少し垂れていた方がいいかな? でも、凛としたショートカットも好きだ。顔立ちのいい子はこれが一番似合う。


今日の見合いの相手は28歳と聞いている。写真を見ていないので、顔はまだ分からない。写真は真を写すと書くがあてにならない。


修正も効くし、一瞬をとらえているから見た目と違うことが少なくない。まあ、真を見抜けないだけかもしれない。だから見合い写真は不要と言っている。


僕は昔から面食いだ。美人が好きだ。だから美人の方が良いと注文に出している。美人の定義は人それぞれだからそれが問題だ。誰にでも好みはある。


今日の2時からホテルのラウンジで見合いの予定だ。母親が同席することになっている。ホテルのラウンジなんか目につきやすいのでいやだが、わざわざどこかの個室を使うのも費用がかかる。費用はこちら持ちだ。


なにせ、うまくいく確率は低い。ここ2年位で4回ばかりしているが、希望する娘にめぐり合っていない。こちらが断ったのが3回、断られたのが1回で今日が5回目。そろそろ決めろと両親から口うるさく言われている。


僕から親に言っているのは、そんなに美人でなくてもいいが可愛い娘、毎日顔を合わすので可愛いは不可欠と言っている。可愛いというのも定義が難しい。好き好みがある。


それから性格がいいこと、これも定義が難しい。要するに、自分との相性がいいと言うことかもしれない。


学歴にはこだわっていないが、レベルの高い高校を卒業していること。これは話が合わないと困るからだ。条件はそんなところだが、それが意外と難しいことが徐々に分かってきている。


そろそろ、年貢の納め時かとも考えている。両親からは同郷の人にしたほうが良いと言われている。


同郷なら育った環境が同じだから話が合っていいし、盆暮に別々のところへ帰省するのは時間と費用が掛かると言うのが理由だ。確かに東京の女性とはテンポが合わないことがある。


同期の友人が経済学の分野で「秘書問題」や「裁量選択問題」と呼ばれる理論分析を教えてくれた。お見合いにも応用できると言う。


いろいろ説明してくれたが、要するに「全体の約37%を見送り、それ以降に今まででベストの相手が現れたらその人を選ぶ」というのが最適な戦略らしい。


要するに10人見合いをするとして、3人目までは見送って4人目以降、それまで出会った人の中でベストな人が現れたら結婚するということのようだ。


その理論でいくと、まあ10回位はできるとして、もう3回以上見送っているので、今度それまでにない人が現れたら決めるのがベストのようだ。


僕は35歳になったばかり、東京の大手食品会社に勤めている。研究企画部に所属している。役職は課長代理で一応管理職。


地元の大学を出て東京に就職した。地元では希望の就職口が見つからなかったからだ。


両親は健在で地元に住んでいる。弟も地元の大学を卒業して東京の企業へ就職した。


会社では事務系のような仕事を今はしているが、大学は理系で30歳までは研究所にいた。もともと人付き合いが好きな方ではないので、入社当時は研究所を希望して配属された。


研究所ではそれでも人付き合いがよかったのか、本社向きと思われて異動になった。本社では関連部門の人たちともなんとかコミュニケーションができて今まで勤まっている。


本社は新橋にある。本社に転勤になったので、研究所近くの独身寮を出て、大井町線の北千束に1LDKの賃貸マンションに住んでいる。


そこを選んだのは、本社へもあざみ野にある研究所へも1時間以内で通勤可能で、異動があっても転居しなくて済むからだった。


お昼前には実家に着いた。母親がお昼ご飯を用意して待っていた。約束の時間は2時だからゆっくり食事ができる。久しぶりのおふくろの味だ。


お見合い写真が置いてあった。のぞいて見るとどこかで見たような顔だった。見た目は凄い美人だ。いいね!

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