第3話 もう一度会った! これで決まりか?

(9月第3土曜日)

2回目も前回と同じ時刻の列車にしたが、新幹線や駅で彼女と会うことはなかった。帰省の日時が違ったようだ。


待ち合わせは前回と同じホテルのラウンジにして、時間も同じの土曜日の午後2時とした。


僕は人を待たせることが嫌いだ。もちろん待たされることも嫌いだ。時間にルーズな人間は考え方も生き方もルーズだと思っている。だから約束の時間には絶対遅れないことにしている。


どんな場合でも、かなり早い時間に余裕を持って出かける。それで交通トラブルがあっても約束の時間に間に合ったことが何度もある。


大体、時間ぎりぎりに走り込んで、ろくなことはない。余裕がないし、息が切れて、気も動転している。主導権を取れないし、取られることになる。先に行ってその場を確保するというのは大事なことだ。


15分前にはラウンジに到着した。でも中に入ると彼女がもう奥の席に座っていた。僕に気づいて手を振っている。


「お待たせしましたか?」


「いえ、私は約束の時間に遅れるのが嫌いで、早めに来ました」


「僕も同じで早めに来ました。気が合いますね」


確かに時間の観念が違うと、出張でも旅行でも一緒に行動するのに疲れる。彼女とは何となく気が合いそうだ。


「もう一度会っていただいてありがとうございます。それに会うのをこちらにしてすみません。向こうだと誰かに見られているようで嫌なんです」


「まだ、交際すると決まっていないけど、まるで遠距離恋愛みたいですね。それも良いかと思います。こちらなら確かに集中できる」


「こちらの方が、お見合いして会っていると言う感じがしていいんです。私は今日で決めますから」


「それなら、ここでしばらく話をして、公園を散歩でもしますか? それから夕食を一緒にするというのはどうですか?」


「今日の一日を大切にしたいので、これから私の家へ来ていただけませんか?」


「あなたの家へ、ですか?」


「母にも会っていただきたいのです。ご迷惑でしょうか?」


「いや、手っ取り早くていいんじゃないかな、今からでもいいんですか?」


「出かける時に相談してきましたので大丈夫です。電話だけ入れておきます」


彼女はすぐに立って席を外した。入口付近で電話をして戻ってきた。


「大丈夫です。せっかちですみません」


「いや、その方が二人には都合がいいんじゃないかな。可否判断が早くできるから」


「それに家の方が周りを気にしないでゆっくりお話しできますから」


「住所は聞いていますが、近くですか?」


「タクシーで10分位です」


「じゃあ、すぐに行きましょうか? 時間を大切にしたい」


二人は席を立って、ホテルの入口でタクシーに乗った。彼女を先に乗せて乗り込む。彼女は行き先を運転手に伝えている。家はよく知っている場所の近くのようだ。


車の中では何を話したらいいのか分からないので、黙っている。運転手に聞かれるのもいやだ。彼女も同じように黙っている。


10分足らずで家の前に着いた。料金は彼女が支払った。ごく普通の一戸建ての住宅だった。着くと同時に玄関ドアが開いて父親と母親が出てきた。


「よくいらっしゃいました」


「突然、お訪ねして申し訳ありません」


「娘が我が儘を申しまして、母親の登紀子です」


「初めまして、吉川 亮です」


「どうぞ、おあがり下さい」


リビングへ通された。そこでしばらく両親と話をした。僕は両親と弟について話した。父親は家族の話をしてくれた。母親は僕の好きな食べ物を聞いていた。嫌いなものはないと答えた。


両親とも穏やかで好感がもてる。僕の両親が「親を見て決めなさい!」と言っていたのを思い出した。


「私の部屋で二人だけでお話ししてもいいかしら?」


彼女は両親の前では話しにくいことがあるようだった。


「そうだね、せっかくだから、二人でゆっくりお話ししなさい」


両親は我々を二人にさせてくれた。もう30過ぎと30前のりっぱな大人だ。


二階の彼女の部屋に案内された。部屋は少し広めの洋室だった。8畳くらいはある。両親が高校時代のままにしてくれているそうだ。どこでも親ってそういうものだ。親ってありがたい。


部屋の真ん中にふわふわの絨毯が敷いてあり、そこに座卓がある。彼女が座ったので、反対側に腰を下ろす。近すぎず遠すぎず、話すのに程よい距離感がある。


座ってこれからというところで母親が飲み物を持って部屋に入ってきた。彼女はそれが分かっていたのか、母親が部屋を離れるまで何も話そうとしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る