第8話 僕たちはこうして婚約した!
「結婚式はどうする?」
「披露宴は無しでいいのではと思っています。友人なども呼びたいとは思いませんし、結婚式も無しでもかまいません。こんな条件では気乗りがしないでしょう」
「式は挙げよう。入籍はするのだし、君を幸せにすると誓いたいから。結婚式はそういう誓いの儀式だ。それを家族や友人の前で誓う。君は誓えないのか?」
「そんなことはありません。誓います。でも一生添い遂げられるか今は自信がありません」
「ただ、努力すると誓えばいいと思っている」
「私もそう思います。そう言っていただけて嬉しいです」
「結婚式を挙げて両家族だけで会食をするということでいいんじゃないか?」
「それがいいです。両親も納得してくれます」
「新婚旅行はどうする? どこか行きたいところはある?」
「どこって言っても、新婚旅行の目的は二人きりになって落ち着いてセックスすることだと思います。だったら、今の私達には意味がありません」
「二人になって落ちついて気持ちを通い合わせると言うのは悪いことじゃないと思うけど?」
「でも行き着く先と目的が見えています」
「いやなの」
「そういうのはいやです。うまくいかないとすぐに離婚と言う話になりかねません」
「成田離婚っていうやつだね」
「気持ちが通じ合ってからでいいでしょう。無理やり急いで気持ちを通じ合わせるなんて、もっとゆっくりでいいじゃないですか?」
「そう言うなら、新婚旅行はやめにしよう。すぐに二人だけの生活が始まるのだから、行かなくてもいいと思う」
「家具とか電気製品などはどうしますか?」
「それぞれの部屋にテレビは必要だろう」
「あなたはビデオを見るために必要でしょう。私はリビングにあればいいです。テレビはあまり見ないので、二人が今持っている2台でいいと思います」
「冷蔵庫、洗濯機、掃除機、炊飯器、電子レンジは今の私のものを使いたいです」
「僕のものは廃棄しよう」
「調理器具はどうする?」
「とりあえず見てから必要なものだけ選んで、後は廃棄してもいいですか?」
「いいよ、でもあまりないから。食器はどうする?」
「全部持ってきてください。これも見てから必要なものを選んで後は廃棄でいいですか?」
「食器も少ないし、かまわない。食器棚もいらないね」
「はい、私のを使います」
「寝転べる大きさのソファーと一人掛けのリクライニングチェアーがあるけど」
「ソファーは使いましょう。リクライニングチェアーも持ってこられてもいいです」
「食卓のテーブルと椅子はどうする?」
「大きさはどのくらいですか?」
「小さいので二人で食べるのには小さすぎると思う」
「私のものも小さいので二人では無理です。新しいものを買いましょうか?」
「それなら費用は僕が出そう。一緒に見に行ってくれる?」
「いいですよ。一緒に買いに行きましょう」
「後は二人で生活してみてからでいいんじゃないかな。いろいろ買っても使わないと無駄になるから」
「そうですね。必要なら買うことでいいと思います。とりあえず生活できればいいですから」
「ここまで相談すると、すぐにでも一緒に生活できるような気になってきたから不思議だね。それにとっても楽しい。まるで恋人と相談しているみたいだ」
「意外と気が合うかもしれませんね」
「話し合うのはいいことだ。徐々に気心が知れて来るから」
「性格も分かってきますね」
「もう、分かった?」
「意外と几帳面ですね」
「意外はないと思うけど、君も几帳面だね」
「それほどでもありません」
「もう、交際を始める前に相談しておくことはないかな?」
「ほとんどのことを確認したと思います」
「それなら、交際を始めようか?」
「はい、でもこれだけのことを確認したら交際の必要はないと思いますが、交際期間が必要ですか? どうですか? 交際して何を聞きたいのですか? 何を相談したいのですか?」
「ううーん、そうかな? 確かに、もう会って相談することもないし、こうして相談している間に気心も分かってきた。それじゃあどうする? もう婚約する?」
「私は構いませんが」
「僕も構わないから、そうしようか。今日中に両方の両親に話をしておこう」
僕たちは階段を降りてリビングの彼女の両親のところへ行った。
「お二人にお話があるんですが、お嬢さんを私にいただきたいのですが、お願いします」
「ええ、娘はどう言っているんですか?」
「私は承知しています」
「そんなに早く決めていいのか?」
「今2階で気になっていることを話しあって確認できましたので、それで十分です。これ以上交際期間を設けても時間の無駄になりますから」
「吉川さんもそれでいいんですか?」
「はい」
「それならめでたいことだ、吉川さん、娘をよろしくお願いします」
「承知しました。娘さんを幸せにします。ご安心ください」
それから今度は僕の実家へ二人で行って、僕の両親に婚約することを報告した。両親も突然のことで非常に驚いていたが、ご縁があったのだと喜んでくれた。
◆ ◆ ◆
(9月第4土曜日)
次の週も二人は帰省した。結婚式の日取りや会場の予約、食事会の打ち合わせのためだった。
彼女は東京で会って打ち合わせるより、地元で打ち合わせたいと言った。東京では結婚するまで会うのを避けたいようだった。
僕は両親から一任を取り付けて、彼女の家へ行って、結婚式の日程と場所を決めた。彼女は早く一緒に住んだ方が良いと言った。僕もその方が良いと思った。
式は1ケ月ほど後の10月21日(土)に決まった。それから婚約指輪と結婚指輪を二人で買いに行った。
理奈は結婚するまで準備で忙しいから東京では会えないと言った。それから、二人は何回か帰省して最後の準備をした。
1回は結婚式の打ち合わせと衣装合わせだった。1回は実家の自分の部屋の整理をして、理奈の家で両親と食事をした。
二人とも金曜か土曜日に来て日曜日に帰るというとんぼ返りの慌ただしい帰省だった。行き帰りの新幹線も別々になって、ゆっくり二人で話をする時間がとれなかった。
僕が新たに借りた同じマンションにある2LDKの新居に、理奈は式の1週間前の日曜日に母親と一緒に荷物の搬入に来た。荷造りを解いて片付けが済むとすぐに引き上げて行った。
食卓用のテーブルと椅子は僕に選定を任せるというので、近くの家具専門店へ行って買ってきた。これで同居の準備は整った。
僕は結婚式の前日の金曜日に休暇を取って帰省した。その日は午前中に新居の大掃除をして、午後になって帰省した。明日の晩には、もうここに二人で戻ってきて、同居生活を始めることが信じられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます