八幡様の力石

幼いころは興味がないかもしれないが、成長していくと関心をもったり、面白いと感じるのは体験談ではないだろうか――　

生まれ育った土地には家族との思い出だけでなく、古くから続く歴史もあります。

本ではなく身近な人から体験を聞くと、歴史を知るだけでなく、隠れた物語と出合うことも……。

素敵な物語は意外と身近にあるのかもとほっこりするお話です。

神社に祀られている不思議な石。
日本の何処かで本当にありそうなお話だ、と感じたのですが実話なのですね。
登場人物の家庭、雰囲気があって素敵です。

暖かく懐かしい手触りの、そしてどこか不思議な味わいのある物語です。
主人公は、小学校の高学年。お参りするとテストでいい点数が取れると噂のある近所の社の石へ、友人とお参りに出かけます。
登場人物達の話すその土地の言葉が、じんわりと心に染み入ります。そして、少し暗い境遇にある主人公の曽祖母が漂わせる優しさと、彼女の生きてきた人生がちらちらと垣間見えるような会話。それらの描写はとても味わい深く、色彩豊かです。
近所の社にある石に纏わる言い伝え。昔から、その石がどのように祀られ、祈りを捧げられてきたか。主人公は、曾祖母からそんな少し不思議な話を聞かされます。

人間の祈る力というか、そういう心の奥の…続きを読む

「アスコラク」を読んだ後にこれを読んで、何だかホッとしました。
どちらも宗教を取り扱っていますが、本作は実際にあったお話。アスコラクは丁寧に紡がれた小説。

「宗教とはどうあるべきか」なんて考えてみるなら、こちらが正しいのかな、なんて僕は思います。
現実は甘くはないけれども、時にはお伽話より優しく、明るい。
そんな小さな安らぎをくれるだけの、「何でもないもの」。

そうであるが故に、「八幡様の力石」はひっそりと、しかし長く長く、そこに在り続けるのかも知れません。

おまじない。
そのことに真剣に向き合う子供たちの姿に、ドキドキしつつ微笑ましく思いましたです。

そして、曾祖母の立場を思いつつ耳にする、その言葉に感じるあたたかさはどこか切なくて。
なので、あの時見えた一瞬の幻覚は、確かに、確かなことだったのだと私は思う。

力石は呼び名を変えられた今も、穏やかに過ごしながら人々の力を試しているのかもしれない。

ひっそりと。
今も。
これからも。