0周目。『遅すぎるプロローグ』

 ■始まりの地、その0■


「お願いですから、物語世界と私を救ってください」

 駄女神が泣きながら、幹太にすがりついた。

「いやいや、勝手過ぎるだろ」

「いや、そこを何とか!」

 手を合わせてお願いをする駄女神。

「と言ってもなぁ」

 もともとは、女神による物語の管理不足が原因だった。


「天上界では今、『バッドエンド撲滅月間』に入ってまして、あと3つノルマを達成しないといけないんです。でも……」

 同時に作中作として隣り合う3つの物語世界が、どうにも避けがたいバッドエンドに向かっているという。

 ──『読みかけ転生』は、パーティの組合せが失敗している。

 ──『終末の君へ』は、ヒロインの悲劇一直線。

 ──『ダーティワークス』は主役に問題が発生した。


 それを強制的に繋ぎ会わせて解決するという、荒療治を駄女神は仕掛けたいらしい。


 その第1段階として、俺を『ダーティワークス2』に一キャラに転生させたいらしい。

「本物のイーサンは、どうなってしまうんだ?」

「いや、彼はですね、前作で死んでまして」

 駄女神の速答に、呆気に取られる。

「マジかー。あの結末、やっぱり死んでたの?」

 一巻は、生きてるか死んでるか分からない結末だった。さっきの死亡説とは、このことだ。

「だから、あなたが二作目に影武者として入ってもらうんです。小説は、顔が分かりませんから」

 と、平然と駄女神は言いのける。


「そもそも、あなたの物語世界において、由衣さんを救う方法は残念ながら、ありません」

 駄女神は俺を真剣な表情で見つめた。

「でも、この超展開をきっちり決めれば、由衣も救えるってことだろ」

 駄女神は無言で頷いた。どっちみち俺に不利な交渉なのだ。諦めと希望がない交ぜになる。

「やるっきゃねェんだな」

「やるっきゃないです」


「分かったよ」

 そして、俺はダーティな世界に弾かれることを受け入れた。


「因みに、異世界に一つだけ物を持っていけるとしたら、何を持っていきますか?」

 この期に及んで、駄女神は気の抜けることを言う。

「じゃあ、隕石かな」

「分かりました、と言いたいところですが、それだと由衣さんが助ける目論見だけ達成されて、私のピンチを放置できますよね。駄目です」

「分かったよ。抜け目ねェな。じゃあ、何も入らないよ」

 そんなに上手い話はないか、なら仕方ない覚悟を決めよう。

「では、行ってらっしゃい」

 と、駄女神が送り出す。


 俺の視界が、光に包まれた。


 ■END■

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『異世界』も『未来』も『裏社会』もまとめてピンチなので、俺は物語をみっつ丸ごと救おうと思う。 緯糸ひつじ @wool-5kw

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