5周目。『そして、超展開は丸ごと世界を救う』
■異世界、その五■
爆風が魔王を跡形もなく消し去った。だが、問題が残ってしまった。
上空の瞳が、充血して真っ赤になっている。時間がない。
「どうすんだ」
寡黙な勇者が、いつになく慌てている。
隔世創造を解く『解術の札』が、魔王と一緒に消えてしまったからだ。
これでは、隔世創造が終わらない。
「いや、解決策はある」
冷静な声が飛んできた。勇者はその方向を見ると、寝転がったフィンが、眼鏡をくいっとやる。
「誰だよ」
当然のツッコミをする戦士。
しかし、シスターはフィンの状態を見て、駆け寄った。
「何でこんなケガを……」
「そんな青ざめるなよ。ちょっとやられだけさ」
消え入りそうなフィンの声に、シスターは耳を近付ける。
「向こうの世界で大ピンチになってさ。どうにでもなれって
「分かった、ちょっと待って」
シスターは傷口に手をかざし、魔力を込めた。
戦士は、気付いたように声をかける。
「おい。悪いが、解決策を教えてくれ。状況が不味いんだ」
「あぁ、そうだった」
のんびりと答える。
勇者一向が視線を向ける中、フィンは、さて、と前置きした。
「ゲームの方に致命的なバグが有ったんだよ。そのゲームのノベライズなら、こちらも同様のバグがあるかもしれない」
「ゲーム……バグ……ノベライズ?」
転生者の勇者以外、馴染みのない言葉だった。
「その辺は気にするな。そこのオベリスクに、ある技をぶつけると、魔王との対決を回避して隔世創造が解けてゲームクリアになるんだ」
勇者は聞く。
「その技とは?」
フィンは傷口を治すシスターを見て、にやけた。
「シスターのヒップアタックだ」
「へ?」
「作中最弱の技が、実はゲームクリアに導くんだよ」
シスターは顔を赤らめた。
「では、やっていただきましょう」
フィンはオベリスクの方に、シスターを押し出す。
先程の戦いとは、段違いの朗らかな空気が流れている。
「分かりましたよ」
シスターは、オベリスクの前に立つと、満を持して持ち技を放った。
「えいやッ!」
隔世創造の瞳が、急に白目を剥き出し、ウウゥと呻く。
──汝、私に用は無いのか……。
フィンは微睡んだ視線を向け、冷たく応えた。
「あぁ、無いさ」
その言葉に呼応するように、空間の裂け目が、文字通り目を瞑り、神殿の禍々しい空気感が消えた。
「勝ったんだ……」
パーティが祝福する。
「君が本当の勇者だ」
勇者はフィンに、握手を求めた。
「俺は、この世界で良いかも」
フィンは、嬉しそうにそれに応えた。
■未来、その五■
かくかくしかじか。
魔王と自称する男に、この世界滅亡の危機を説明した。記憶喪失なのかと思うくらい、この世界についての知識が全く無かった。
「なるほど、そういうことか。我輩が彗星を消しさってやろう」
もう一向にコスプレを認めないから、そのノリに乗っかって会話している。
「いいの? 魔王が人を救うの?」
「地球が滅亡したら、元も子もない」
魔王さんは、不意に力を込めた。
「隔世創造ッ!」
空間に瞳が現れる。新手のマジックだろうか。
「気持ち悪ッ!」
私の言葉に、一瞬化物の瞳が悲しげに揺れた。
──汝、何を滅却したい……。
「あの我等の星を壊さんとする彗星だ」
「ほんとに出来んの、魔王さん」
「物理的な事象などで、手間取るような男に魔王は務まらん。傷を付けたければ、強い勇者を持ってこいってな」
「やだ、素敵……。あの彗星が消えたら、魔王じゃなくて、英雄だよ」
魔王の頬が少し赤くなった気がした。
「ヒト種族のクセに、魔族に優しい言葉をかけるのだな」
■裏社会、その五■
イーサンが『読みかけ転生』を開き、フィンが生き残っているのを確認する。そして、ほっと胸を撫で下ろした。
そして、リュウのくぐもった笑い声が聞こえてくる。
「そんなにおかしいか?」
「あぁ、おかしい」
リュウの笑みを見て、イーサンも吹き出す。
「俺もだ」
「早く縄をほどけよ」
「分かったよ」
リュウはにこやかな表情で縄をほどく。
「やっと宝石の場所、話してくれたな」
「今回ばかりは無理だと思ったよ」
これで、イーサンとリュウのバディは元鞘に戻った。
リュウは笑いが止まらない。
「吊り橋効果って本当にあるんだな」
今回の獲物は、フィンの持つ宝石。イーサンはフィンの相棒として潜入し、宝石の在処を聞き出すほど信頼を勝ち取ったのだ。
「チェックメイトだ」
イーサンとリュウは、にこやかにハイタッチした。
■
縄をほどけたイーサンは、手首を確認しながら、リュウに埠頭の倉庫に先に行ってくれと伝え、一人になった。
そこに駄女神が、空オフィスのドアをばんと開け放つ。
「いや、本当に助かりました」
「これで、俺が元々居た世界も救えたのか?」
駄女神は、大きく頷いた。
「もちろん。あなたが此方の物語世界に送れば、ドミノ形式でバタバタと世界が救われるのは分かっていましたので」
「ほとんど泣き付くように、頼んで来たクセに」
「いやぁ、そんなこともありました」
駄女神は、舌を出しておどけた表情をするが、イーサンは怒る気持ちも失せていた。
清々しい顔でイーサンは呟く。
「由衣が助かるのならば、他の世界だって救ってやるよ」
「そうでしたね、
駄女神は微笑んだ、ということは、彼女の窮地も救われたということだった。
■『始まりの地、その0』につづく■
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