4周目。『明後日の方に向かって、物語れ』
■異世界、その四■
「よし、成功です」
綺麗に着地を決めるシスターに、瓦礫に身を隠していた戦士と魔法使いが口をあんぐり開けて驚いた。
「シスター生きてたの?」
魔法使いの驚きの表情をスルーして、シスターは声をあげる。
「あの魔王は、火炎に弱い植物の化身。火を付けないと勝てないの」
魔王の方に目を向けると、勇者が仲間を休ませるべく孤軍奮闘しているところだった。
「何だって? そんな魔法使えないわ!」
パーティメンバーの魔法使いは、水属性。この場面での致命的なミスに、メンバーは全員ざわついた。
しかし、シスターは力強い言葉で、それに答える。
「大丈夫、爆弾があるから」
「なんでだよ」
戦士はツッコむ。
「詳しい話は後で」
シスターは、努めて冷静に制止すると、皆に指示を始めた。
「戦士。魔王の動きを止めるの!この爆弾と、魔法使いの威力増加魔法が有れば、ワンキル出来る」
時限爆弾のタイマーは、残り2分。
「了解ッ!」
にわかに活気ついたパーティ達に、魔王は気付く。
「何を内緒話で、盛り上がっている?! もうすぐ隔世創造が終了するぞ」
シスターの目配せで、魔法使いは魔力を込める。
「古竜瀑布ッ!」
魔王は鼻で笑う。
「2度も愚行を繰り返すな」
魔王の斬撃で、辺りを濃霧が覆う。
「魔王ォオ!」
濃霧から勇者と戦士が、渾身の力を込め、魔王に飛びかかる。
二人の強烈な一撃が、一瞬の膠着状態を生んだ。
「この一撃で決めるんだ」
「この期に及んで何が出来る?」
魔王の言葉に、勇者と戦士は不敵に笑い、一気に後退した。
「んっ?──」
──不意に上から、濃霧を切り裂くように、物体が降る。
魔王の視界に写ったのは、魔法で強化された時限爆弾のカウントダウン──。
「なぜ、ここに火種が……」
──その数字は、ゼロ。
魔王は、強烈な爆風に弾かれた。
■未来、その四■
「おいおい、嬢ちゃん。こんなところで寝るんじゃないよ」
おじいちゃんが、河川敷のベンチに横たわる私に声をかけている。
「へ?」
寝てしまっていたようだ。シスターが現れて、それを何の躊躇もなくぶん殴る時点で、確かに可笑しな話だった。夢の中では、気づかないものだ。
結局、幹太は見つからなかった。本当に何処へ行ったのだろうか。
『由衣が生きてない世界なんて、無理だ』
過去に幹太は、何度もそう言った。その度に、心がきゅうと縮む想いだった。私のことなんて心配しないで欲しい。私の為に、私を見捨ててよ。
どさり、と音がした。
ボロボロの魔王がそこにいた。
「ここは何処だ」
魔王は、空に浮かぶ見たこともない彗星を眺めて、そう言った。
■裏社会、その四■
「どうする? これから」
フィンが階段方向を向い、様子を伺おうとオフィスを離れようとする。
「いやいや、まず俺の縄を解けよ」
声を挙げて、呼び戻そうとするイーサン。
「その必要はない」
聞いたことのある耳障りな声が、部屋に響いた。
フィンの脇腹に熱い感覚が走る。生暖かい液体が零れるのに気付いた。殺し屋のリュウが、ナイフを刺していたのだ。
「こい」
そのまま、フィンはリュウに引き摺られるように窓際に立たされていた。風が吹き抜ける。フィンの顔は青ざめ、今にも生気が抜けそうだ。
「てめぇら、本当に気味が悪いな。イーサンは死んだと聞いていたのに、また沸いてくるし」
昔の話だった。一度、死亡説を流したことがある。
「今度は変な女を、出しては爆弾ごと消し去るってか」
「すごいっしょ」
フィンは強がりで笑う。
「もう我慢の限界だ、殺す。お前ら気持ち悪すぎだ」
イーサンは慌てた。万事休すか。
「待て待て待て! 頼むよ。フィンを殺さないでくれ」
「寂しいか? それなら心配するな。お前もすぐ逝く」
リュウの言葉に反応して、フィンの口から、か細く声が漏れる。
「あのさイーサンを救ってくれるなら、俺が本当のことを話すぞ」
「何を言ってる?」
イーサンは困惑した。
「楽しかったんだ、相棒が出来て。仲間だけは救ってやりたい」
「黙ってろフィン」
「良いんだイーサン。俺の無茶に付き合ってくれて、いつもいつも嬉しかった。今まで一匹狼でやって来て、命を差し出してやりたいと思ったのは、お前だけなんだ。だから、良いんだ」
リュウはニヤリと笑った。
「宝石の場所は──」
やめろ、とイーサンは叫んだが無駄だった。
「──埠頭のK倉庫だ。そこにある」
「ククク、ありがとな」
これでフィンを生かしておく理由が消えてしまった。イーサンは、リュウがこれからやることが手に取る様に分かる。
フィンが助からない。これじゃ、バッドエンドだ、考えろ。
イーサンは思考をビュンビュンと回転させて、ある策を思い付いた。
「いっそのこと、蹴っ飛ばせ!」
イーサンは、吠える。
「あいつ、まじで喋りやがったな! いっそのこと思いっきり弾き飛ばしちまえ!」
フィンも意図を読み取り、歯を食い縛って強引に笑った。
「ほんとに殺すほど、度胸があんのか?」
フィンは、プッと血混じりの唾をリュウに吐きかける。
「舐めたマネすんじゃねえよ!」
リュウは額に筋を立て拳を振るい、フィンを窓の外へと思いっきり弾いた。
イーサンは、内心でガッツポーズして、地面に落ちていた文庫を足で、無造作に開く。
本には、こう記されていた。
■『異世界、その五』に、つづく■
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