第3話 決闘

「30分後、闘技場へ来い。リリア、俺の勇姿を見ていてくれ」

「では旦那様、ご案内いたします。お父様、これで」

「あ、ああ」

「くっ!精々今を楽しむことだな…!」


 すげえリリアちゃん。

 あの貴族様野郎をガン無視だよ。

 お父さん驚いちゃってるぞ。


*


「いきなりごめんなさい!」


 部屋を移動して待機部屋?

 その部屋に入って誰もいないのを確認すると謝られた。

 巻き込んだから申し訳ないと思ったみたいだけど。

 今は特に気にしていない。


「大丈夫だよ。それにリリアちゃんをあんな奴に取られたくないし」

「!?!?それって俺のモノっていう…」

「え?ごめん、よく聞き取れなかった」

「何でもありません!」


 期待?に応えたつもりなんだけど顔を真っ赤にされた。

 もしかして恥ずかしいことでも言っちゃった?

 俺もすこし顔が赤くなってきた気がする。


「そ、それでこれからどうすればいいの?」

「闘技場は王国が所有しているので近くにあります。今は準備時間ですね」

「俺はどうしたら?」

「えっと、黒魔術に鎧は邪魔なんです…。ですからせめて服だけでも。ご用意いたしますね」


 ということは丸腰。

 一冊の本を持って戦闘をしろと…。

 ――きつくね?

 いや、魔法を使えるんだからいけるかもしれないけど。

 相手さんあんなに自信満々だったんだよ?

 やるからにはやるけど、そうなるとこの本はでかすぎる。


「この本どうにかなんないかな?」

「一応本はなくても大丈夫かと思いますが、初めてだと分からなくなったりしますからね」

「なにかないかなー。これなんてどうかな?『装備化アクセサリー』」


 おお!本がブレスレットになった!

 さっきまでずっと手で持ってて重いなあって思っていたけどこんな便利なのがあるなんて。

 先に調べておくべきだった。


「黒魔術には分からないことがたくさんあるみたい…」

「こんなことはないの?」

「本は本。形を変えるなんて今まで聞いたことも見たことも無かったから…」


 黒魔術は知らないことがたくさん。

 まだ謎多き魔法。


「ではこちらで着替えてください。そろそろ始まりますよ?」

「そうだな、ありがとう」


 黒を基調とした服。

 黒魔術師にはぴったりな服だな。

 ……すこし中二病っぽいけど。

こっちだと編ではないみたい。

 よく似合っているって言ってくれたし。


*


「よく来たな!逃げてもよかったんだぞ!」

「そんなことしないよ。リリアちゃんを取られたくないし」

「リリアは俺のだ!!」


 まーだ言っている。

 俺がボッコボコにしてそういわせないようにしてやればいい。

 さて、がんばりますか!

 でも決闘なんてしたことないから何すればいいのか分からない。


「両者前へ!反則行為や殺傷は私が止めます!では、はじめ!」


 ただのデスマッチみたいなものか。

 いや、デスまではいかない。

 殺傷が禁止みたいだからな。

 貴族が死んだら死んだでまたあーだこーだ言われそうだしなあ。


「見るがいい!これが高貴な貴族な魔法だ!『完全武装フュリーアームド』!!」


 完全武装ってだけあって一瞬で全身鎧がつく。

 ……重そうだなあ。

 全身に鎧とか動きを鈍らせるだけでしょ。

 大して筋肉もついていなかったし。

 これなら勝機があるな。


「ふっ、貴様も構えたらどうだ?そのままではこの霊槍シュピールを受け止められないぞ!」

「このままで大丈夫。いつでもどうぞ」

「なめたことを…!うおおおお!!!」


 そういえば移動中に知ったんだけどこのブレスレット便利すぎる。

 さっきまでは本を開かないとどういう魔法があるのか分からなかった。

 でも今は便利になって頭の中でどういうのが使えるのか分かる。

 ……最初からこれでよかったんじゃないの?


「『暗黒剣ダークネス・ソード』!!」

「なっ!黒魔術か…。でもなぜ魔法剣を持てる!」

「あいにく特別製でね」


 嘘は言っていない!

 これは魔法でつくった剣。

 魔法剣と言っても嘘ではない。

 黒魔術師専用の剣と言ってもいい。

 それに持っているだけで力があふれてくる。


「黒魔術師だったのか…」

「はい。狼なんて敵ではなかったほど強かったですよ」

「なるほど…。まだあの貴族よりはマシ、か」


 後ろで世間話してるんだけど!

 俺なんて当たったら死にそうな試合なのに!

 ……さっき丸腰だったのに思いっきり突きに来たよな?

 審判、怪しくね?

 買収されているのか?ニヤついているし。

 ほう?なら俺も容赦しない!


「おりゃああ!!」

「ふっ、効かぬ!!」


 まじか!

 貫けると思ったら鎧ではじかれた。

 そんなに硬いの!?


「旦那様!その鎧はオリハルコン製です!オリハルコンの上、アダマンタイトではないと壊せません!」

「ってことは、物理系は諦めたほうがいいな」


 オリハルコンってあのめちゃくちゃ硬い鉱石だよね?

 ゲームとかでしか見たことなかったけどあれがそうなんだ…。

 というかどんだけ金かけてるんだよ。

 金で解決させてるな?

 審判も買収しているし。


「ちっ。人の嫁から助言を…」

「いい加減にしろよ?結婚するのは俺だ!リリアちゃんに迷惑をかけるな!覚悟しろよ…!」


 魔法なら通るんじゃね?

 電気とかめちゃくちゃ通りそう。

 物は試しだ。

 やってみよう!


「まずはこれ要らないか」

「とうとう諦めたか!」

「違うって…。いくぞ!『黒雷放ダークサンダー・デフュージョン』!」

「なっ!?」


 驚いたみたいで動けていない。

 このまま魔法は貴族様野郎に向かって真っすぐ飛んでいく。


「ぎゃあああ!!!!」

「よし!命中!!」


 瞬間に動けなくて見事命中。

 上手く電気も通ったみたい。

 何せあの狼も一発でやられてんだ。

 人間なんて立っていられないでしょ。


「しょ、勝者!ユウジ!」


 こうして俺の初めての決闘は勝利で終わった。


*


「旦那様!」

「おっと」


 わっ!

 すげえいい香り…。

 なんで女の子ってこんなにいいにおいがするんだろう?

 って違う違う。

 ここはもっと別のことを言わなければ!


「これで、安心できる?」

「はい!邪魔がいなくなって安心して結婚できます…」

「どうしたの?」

「……最初は決まりだから結婚しないといけないと思ってました。でも戦いを見て気持ちが変わりました…」


 あ、あれ?

 すごく顔真っ赤にしているけど大丈夫かな?

 それに手を伸ばしてどうしたの?

 胸ぐら掴まれて引っ張ってる。

 倒れそうなぐらい体調が悪いのか!

 それなら早く医務室に!


「んっ」

「んー!?!?」


 引っ張られ、そのままキスされた。

 ……状況が呑み込めない。

 もう時間を過ぎるのを待つしかない。

 あ、でもこの感覚は覚えておこう。

 初めてでこんなこと起きないだろうって思っていたし。


「……」

「……」


 だめだ!

 終わっても沈黙が続く!

 俺もそうだけどリリアちゃんも目を逸らしている。

 そりゃあ恥ずかしいもんな!

 いきなりあんなことをすれば!


「まったく、父親をほっといて何をしているんだか」

「お父様!」

「国王様…」


 やべ、父親いるじゃん。

 これは『可愛い娘に手を出しおって!許さぬ!』ってパターンじゃ…。


「リリア、後悔はないんだな?」

「はい!もちろん!」

「……わかった。ユウジよ」

「はい!」

「この通り、決めたら真っすぐ真面目な子だ。こんな子だがよろしく頼む」


 これは、結婚を許されたやつ!?

 というか国王が頭を下げちゃってるし。

 ちょいちょいちょい、俺も動揺を隠せないんだけど!

 というかさっきから動揺しっぱなしだよ!!

 でも、返事は決まっている。


「はい!こちらこそお願いします!」


*


「旦那様ー。お父様が呼んでおりますよ」

「今いくよー」


 決闘後。

 正式な手続きや話やらいろいろあると言われ呼び出された。

 親公認なんだからもう気軽にいける。

 さっきは本当に心臓への負担がやばかったからなあ。

 さすがに決闘後すぐではなく、少し休憩をしていた。

 ほんと、少しだけ…。


「失礼します」

「おお、来たか」


 さっきの仕事部屋とは違い、ここは国王の部屋。

 結婚なんだからプライベートの部屋かと思ったら全然違う。

 仕事部屋とは違い、周りに本などは少なく、本当に机と椅子だけ。

 ようするに、ここに人を呼び、命令をする部屋。

 贅沢過ぎる部屋だ。


「どうしたんですか?お父様」

「うむ。結婚を祝いたいんだが、リリア。お主をこの城に置いていられなくなってしまった」

「……やっぱりそうですか」

「どういうことなんですか?」

「リリアは王女。貴族と結婚するならまだしも市民、というより市民でもない旅人と結婚をしたんだ」

「だから一緒にいられない、と?」

「ああ。皆離れるのを嫌がっているが、それが血の定めだ」


 国王と王子、王女ってややこしいっていうかめんどくさいというか…。

 あれだ、バカみたい。

 家族なんだから一緒にいてもいい。

 俺はそう思う。


「じゃあ、俺たちは結婚できないんですか?」

「そうとは言っていない。先ほど言った通り祝いたい。そこでだ」

「「???」」

「お主たち二人には旅に出てもらおうと思う」

「「え!?」」


 なんかいきなりだな!

 旅はしてみたいからよかったけど、いいのか王女様?

 危険だろうし、守っていけるか心配。


「いいんですか!お父様!!」

「ああ。リリアも行きたがっていたし、ちょうどいい」

「旅にでたかったの?」

「はい!だから森にいたんですよ」


 あー、そういうことね。

 勝手に抜け出したのもそれが本当に理由か。

 魔法の練習なんて言っちゃって。

 なら反対はしない。

 旅に出ることにしよう。


「出発は明日だ。今日はゆっくり休みたまえ」

「あ、すいません。一つ質問が」

「なんだ?答えれる範囲なら答えるぞ」

「あの貴族様野郎…なんて言ったっけ?」

「マルモンな。あやつは一応貴族を続けている。ただ、決闘を挑んで負けたんだ。それ相応の扱いは受けるだろう」


 貴族だからと言って何やってもいいってわけじゃないのか。

 そこらへんは芸能人みたい。

 女性と一緒にいるところを見られただけでニュースになったりするし。

 でもあいつは甘やかされて育ったんだろうな。

 めちゃくちゃ自由だったし。


「質問はそれだけか?」

「はい。今のところは」

「では休むといい。リリア、一緒にいてあげなさい」

「もちろんです!お父様!」


 てっきり別の部屋かと思ったら一緒の部屋。

 そりゃ夫婦だから当たり前だと思うじゃん?

 でもあって一日目の人と結婚、ましてや美少女。

 休めるわけねぇ…。

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