第12話 エルフの町 2日目(前編)

「んあ、もう朝か」


 森の中の町だけど朝日は入ってくる。

 たしか昨日みんなと同じ部屋で寝れないかなと思ったらすぐ寝れた。


「おきた」

「起きたよ――ってえぇ!?」


 なんで俺のところにアリアちゃんがいるの!

 寝るときはさすがにとみんなと距離を開けた。

 それに、


「なんで服着ていないの!」

「暑かったから」


 暑かったからって脱ぐな!

 というか下着はないのかよ!

 まあ下着が必要ないサイズだから……。


「そうじゃなくて!暑いならなんで俺のところにいるの!」

「今度は寒くなった」

「だったら服着ようね!!」


 何だこの子。

 どれが正解だったんだ?

 ていうか掛けるものがあるんだからそれ使えばいいんじゃない?


「なんですかー……?」

「やばっ!」


 リリアちゃんにこの状況をみられるのはまずい!

 また土下座タイムがやってきてしまう。


「……」

「……おはよう」


 バッチリ見られてしまったー。

 これはもう腹をくくったほうがよさそうだな。


「旦那様」

「はい」

「この際だから言っておきます」

「なんでしょうか?」

「旦那様がほかの女性に手を出すことを怒るのをやめました」


 それって厭きられたってことなの?


「ごめんなさい!だから離婚だけは」

「違いますよ!話は最後まで聞いてください!」

「へっ?」

「旦那様の世界では結婚とはどういうのでした?」


 どういうのって。

 俺がいた国では男女一人ずつが結婚するんだよな。

 ただし両者公認じゃないといけないし、証人が必要なんだっけか?

 向こうで結婚したことないからよくわからないけど。


「男女が相思相愛で一緒にいたいから結婚する」

「それはこちらの世界でも同じです。他には」

「え?それは男女一人ずつが結婚を――」

「そこです。こっちでは多妻、多夫が認められています」

「そうだったの?でもリリアちゃんの国ではいなかったんじゃないの?」

「私の身内はみんな一対一です。旦那様が戦ったマルモンは多妻です」


 あいつ、他に妻がいて嫌がっているリリアちゃんを引き連れようとしたのか。

 最低な奴だ。勝って本当に良かった。


「ですから私は旦那様が奥さんを何人つくろうが文句は言いません」

「そういうわけじゃなかったんだけど……」

「ただし!約束を一つ守れるなら許します」

「その約束とは?」

「旦那様の初めてを私にくれることです!!」

「えっと……分かりました」


 そこはわかっちゃダメだろ!

 そうなると俺はみんなと結婚する流れじゃないのか?


「じゃあアリアもユウジのお嫁さんだ」

「ちょっ、いきなり!?」

「うん。そのほうが楽しそう」


 楽しい楽しくないで結婚を決めてしまうんですかー!!

 あなた仮にも守り神と呼ばれたドラゴンでしょ!

 そんな気軽にきめていいんですか。


「じゃあ僕も!」

「あぶない!いきなり飛ぶと危ないだろ!」

「えへへ、それで結婚についてだけど――」

「おはようございます、みなさ……」

「お、おはよう、ミミちゃん」


 不幸の連鎖はつながる。

 まさに今のように。


「えっと……失礼しました!!」

「待って!!これには訳があるから!!」


 いつも本の中にいるからすぐ追いつく!

 と思ったけど足が速い、速過ぎる。

 追いつくのにここら辺一帯走り回った。


「えっと、要するにみなさんユウジさんの奥さんってことですか?」

「そうだよ!僕とアリアはさっきだけど」

「いえーい」

「リリアさんもですか?」

「私は最初に結婚していたんですが……」

「あっ!す、すいません!!」


「それでどうしたの?ミミちゃん自ら来るとは思わなかったよ」

「パパに籠りっぱなしは良くないと怒られまして。みなさんを起こすよう言われて来ました」

「ごめん、用意が終わったらすぐ行くよ」


 集まってみんなで朝ごはん。

 何と驚くことに昨日と同じ!

 というサプライズはなかった。

 今日の朝ごはんはおにぎりだった。

 中身は昨日獲れた魚が入っており、見た目や色は違うが鮭の味がした。


「ユウジ、この後時間ありますか?」

「あるよ、ってか、ミミちゃんとまた魔法についてはなそうかなあって思っていたし」

「そうですか!ではさっそく行きましょう!」

「旦那様、私たちは昨日の練習をしていますね」

「わかった!終わったら行くよ」


 ミミちゃんに連れて行かれた場所は研究室だった。

 もう入ってすぐ分かるようながっちりした施設。

 こんな森の中にある町で作るような場所じゃないだろ…。


「どうぞ。散らかっていますが」

「あ、うん」


 研究するためにあれこれ放置しっぱなし。

 せっかく本棚があるのに前に積み重なっている。


「それでどうしたの?」

「昨日の氷です」

「あー、何か分かったことがあるの?」

「ちょっと持ってください」


 ただの黒みがかった氷。

 小さすぎず、大きすぎず、尚且つ持ちやすいサイズ。


「気づきませんか?」

「え?思った以上に軽いとか?」

「それもそうですけど、その氷冷たくないんです」

「ほんとだ!」


 全然ずっと持っていても大丈夫。

 普通だったら手に引っ付いたり、冷たすぎて離したりする。

 溶ける気配もない。


「試しに温度を測ってみたんですが見てください」

「どうみればいいのこれ?」

「えっと、最初の位置がここですので氷は温度を持っていないんです」


 氷なのに冷たくはないわ、温度がないわ。

 全然分からない。


「それでどういうことになるの?」

「この氷は相手を凍らすと何か起きる可能性があります。何か知っていませんか?」

「いや、溶けない地獄の氷って書いてあるけど」

「地獄の氷……。切り刻む氷ですか。やっとわかりました」

「え?何が分かったの?」

「地獄の氷は鋭利な針にし、上を歩かせる氷です」

「うげぇ、えげつない」

「そして逃げる者にはその氷を足にくっつけます」

「冷たくないのに?足枷の代わり?」

「いえ、氷の中に生物の手足などがあれば切り刻まれていきます」

「もっとえげつないじゃん!」


 どういうこと?

 俺はそんな拷問系の魔法をあんなときに使ったの?

 これ、引かれちゃったかな……?


「えっとー」

「それにしてもすごいです!今まで言い伝えられていた魔法で使える人がいないかった!そんな魔法、黒魔術を使えるなんてすごいです!」

「……ぷっ。あはははっ!」

「な、なにかおかしいこと言いましたか!?」

「いやいや、そういう風に明るくしゃべるんだなって」


 昨日とは大違いだ。

 あんなにおどおどしていたのに今はすごく積極的に話している。

 こんなに明るい子だったんだ。


「す、すみません」

「いいよいいよ。というよりそっちの方がいいよ」

「そ、そうですか?」

「それと分かったんだけど、やっぱりミミちゃんは外に出た方がいいよ」

「えっと……」

「だって新しい魔法を見るとそんな風に調べたくなるんだろう?外に出ればもっと知らない魔法があるよ」

「でも……」

「怖いなら俺が守る!絶対に守ってみせるよ!!だから一緒に行こう」

「それってプロポ……!!」


 あ、あれ?

 顔を赤くして下を向いちゃった。

 俺恥ずかしいこと言っちゃった?

 やばい、顔に血が上ってきたわ。


「その、実はいけない理由がもう1つあります」

「そうだったの?」

「はい。ついて来てください」


 本の合間を抜けていくとドアがない入り口があった。

 中は暗く、ミミちゃんがろうそくを持ってやっと足場が見える。

 下まで降りるとドアがあり、中へと入っていった。


「ここは明かりがあるんだね」

「魔法で置いています。こちらです」


 さらに奥へと進むと何やら大きいものがドンと置いてあった。


「こ、これは?」

「これは森の腐食を止めるための装置です。未完成ですが」

「えっ!?まさかこの森って――」

「はい。今現在進行形で腐食が進んでいます」

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