第11話 エルフの町 1日目

 町に戻るとミミちゃんは研究ができる場所へと行ってしまった。

 俺はどこへ行けばいいのか分からなかったが、町の人に聞いたら教えてくれた。

 教えてもらった部屋に行くとみんなとメルクリウスさんがいた。


「なにをしているの?」

「旦那様がお米を欲しがっていたので交渉しているんです」

「次いつ来れるかわからないからねー」


 お米が食べたいからといってすぐ買えるわけではない。

 かと言ってお店で売っていることは少なく、俺たちが訪れた時のように事故があれば一切手に入らない。


「それでどうなったの?」

「はいどうぞと無料タダで渡すわけにはいかない。もちろん買うのなら売ろう」

「まあそうだよね。大体の値段は?」

「10kgで銀貨10枚だ」

「「「高い!!」」」

「今の値段が分からない…」


 そもそも硬貨は下から順に銅貨、銀貨、金貨、そし星虹しょうこう貨。

 銀貨1枚で大体の宿に泊まれる。

 質から考えると一泊5000円ぐらい。

 それぞれ100枚で上の硬貨になるから銅貨1枚50円。

 星虹貨1枚5千万円となる。

 普通使われることはないけどね。


 そうなると10kgで5万円。

 向こうの約10倍も高くなっている。


「た、高い理由を…」

「味が好評でな。貴族が占め始めたから値上げをしたんだ。それでもいまだに売れている」


 ここまで払えるラインをみつつ、そこまで上げたってことか。

 まじかぁ…。

 そうなるとあまり手を出せな…いわけではないな。

 臨時収入があったんだ。

 余裕で買えるじゃないか。


「それじゃあ50kg買うよ」

「わかった。いつまでに用意すればいい?」

「滞在中でいいよ」

「そうだった、何日ぐらい滞在するんだ?ミミが行くというまでか?」


 うーん、そうだなあ。

 やめておくならやめてもいいって言ったし、どれぐらいがいいんだろう。


「そうだなあ、とりあえず5日間いるよ」

「わかった。ではその日のうちに用意しよう」


 5日間か。

 こっちに来てまだ数日。

 少しはゆっくりするのもいいだろう。


「旦那様、この後はどうします?」

「うーん、ミミちゃんが籠っちゃったから暇なんだよね」

「では魔法の練習に付き合ってくれませんか?」

「それならかまわないよ。どこでやるの?」

「先ほどいい場所を教えていただきました。さっそく行きましょう!」

「いや、先にお昼食べようよ」


 先にお昼を食べてからにした。

 昼飯は待ち望んでいたごはん!

 そしてさっき取り上げた魚を焼いた焼き魚がでてきた。

 もう、このために俺は…。


「だ、旦那様!?どうしたんですか!」

「なんでないてるの?」

「いたい?のどに刺さった?」


 あまりのおいしさに涙。

 心配してくれてありがとう。

 でも今はこの美味しさを味わいたいんだ。


 食後、教えてもらった場所へ。

 森の中にあり、ここだけ木が切られて更地になっている。

 上から見たらハゲみたいで目立ちそう。


「なんで練習しようと思ったの?」

「このパーティだとそのうち身の危険があるかもしれないから…」

「あぁー…」


 確かに…。

 さっき魔法を使ってみて俺もそれなりに強いかもしれないと思った。

 けどできることならリリアちゃんみたいに練習しておいた方がいいね。


「じゃあさっそくやろうか。でも」

「でも?」

「もしリリアちゃんが危険な目にあったなら俺が飛んでいくよ」


 というか危険な目に合わせない。

 リリアちゃんはもちろん、キャリアちゃんもアリアちゃんも。

 後ろ二人は逆に守ってもらうことがありそうだけど…。


「は、はやくやりましょう!」

「え、うん。いつでもいいよー!」


 あたふたしている。

 腕をパタパタさせているけど、新しい魔法なのかな?

 もしかして、もう呪文を唱えているとか?


「いきますよ!『氷の槍アイスランス』!」

「はやっ!『暗黒炎ダークネス・フレイム』!!」


 いつでもいいよとはいったものの、魔法が速すぎる。

 とっさに動けて氷を解かすことができた。

 あんなの当たったらひとたまりもない。

 少しせこいけど、痛いのは嫌だ。


「『魔法無効空間アンチ・マジックエリア』!」

「なんですか?その魔法は…」

「これは一定の距離からの魔法を打ち消す魔法。ただ俺の近くで使うと当たるけど」

「そんなずるい魔法を使って…」

「でも止められるのは魔法だけ。代わりに物理攻撃は倍のダメージを負う。木の棒で殴られたらひとたまりもないと思うよ」


 強い魔法にはデメリットもある。

 強ければ強いほどデメリット、負担が大きくなる。


「デメリット少なくないですか…?」

「黒魔術だからじゃない?」

「本当にずるいです…」


 うん、俺もそう思う。

 効果に対してデメリットが少なすぎる。

 もしかして隠れた怖い要素があるとか?


「…いや、やっぱりこれだけみたい」

「そうですか…。では次行きますよ!『泡弾バブル・ショット』」

「ん?」


 ポンポンと泡が出てきた。

 出てきたまではいいけど上の方へふわふわ飛んで行った。


「なにそれ?」

「えっと、使えるかなあって思って試しにやってみたんですが、完全にただの泡ですね」


 魔法名的に泡が弾丸のようになるのかな。

 でも今はただの泡。シャボン玉みたい。


「とりあえず、今はその魔法の練習をする?」

「僕もやってみるよー!」

「アリアもやってみる」

「じゃあみんなでやってみるか!」


 見ていた2人も興味を持って、みんなで練習することに。

 絶対2人ともいらないでしょ…。


「ユウジはどんなのが使えるの?」

「どんなって?」

「黒魔術の水バージョン。何かないの?」

「あるにはあるけど…」


 俺の場合は泡どころではなくなるけど。

 みんなに合わせてやってみたいけど黒魔術のせいで…。

 こういうとき一緒にできないから不便に思える。


「ちょっと見せてよ!」

「ここだと森が…」

「じゃあアリアが受け止める」

「そんなことできるの?」

「うん。いい方法があるから」


 さっきの俺とリリアちゃんの立場が変わり、アリアちゃんと俺。

 今度は俺が魔法をはなつ番だ。


「気を付けてね!」

「わかった」

「『黒水龍弾ダークウォータードラゴン』!!」

「むっ」


 勢いが強い川のようにゴウッという音と共に勢いよく黒い水が飛び出た。

 最初はただの勢いがいい黒い水だったが、やがてドラゴンの形へとなった。

 初めて使ったせいで制御ができていない。

 このままでは危ない!


「アリア!危ない!!」

「これぐらいなら大丈夫。『魔法能力向上マジックアッパー』、『脱水ディハイドレーション』」

「えっ!?」


 さっきまで勢いがよかった黒い水龍が消えた。

 それもいっきにではなく、アリアちゃんに当たるとどんどん消えていくように。


「さっきの魔法はなんなの?」

「ただの脱水。他のドラゴンで水を使うのがいたから覚えた」

「そんな簡単に…」

「でもさすが黒魔術。強さが上がっていたから能力向上を使わなければ危なかった」


 そんなスラっと言われても信用できねぇ…。

 やっぱ神と祀られていたドラゴン。

 敵わないよ。


「とりあえずやってみよ!」

「そうしましょう。これ以上見ちゃうと自信がなくなってしまいます…」


*


「いきますよ!『泡弾バブル・ショット』!!」


 ドガンという音がなり、木をへし折っていく。

 見事成功だ。


「できました!できましたよ旦那様!」

「ああ!おめでとうリリアちゃん!」


 よっぽどうれしかったのか抱き着いてきた。

 おぉ…今、この祝福の時間は忘れないだろう。


「時間も遅くなったし戻ろうか」

「お腹空いたー!」

「アリアも」

「では早く帰りましょう」


 町へと帰ると夕食が用意されていた。

 もちろんご飯と魚。

 ……昼と同じだったような。

 まあいっか。美味しかったし。


 食後、俺はいなかったけど寝るところの案内をしてくれていた。

 俺はみんなについて行った。


「えっ?一部屋?」


 そう。俺たちが泊まる場所に案内されたのは一部屋だけだった。

 もしかして俺がいなかったから別だったのかと思ったけどそうでもない。

 しっかりと4人の部屋と言われ、案内された。

 エルフは男女気にせず寝るのかな?


「みんなは気にしないの…?」

「結婚していますので」

「僕は全然気にしないかな」

「誰かと一緒に寝るほうが好き」


 みんな抵抗なし。

 それなら俺もここで寝ていいよね。

 今度は少し慣れたのか寝れるようになった。


 こうしてエルフの町へ来て一日目が終わった。

 旅立ちまで残り4日。

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