第2話 王国

「え!?別の世界から来たのですか!?!?」

「そうだよー」


 道中暇だったから話しながら歩いていた。

 森にいるとまた襲われるかもしれないけどすぐ森の外へ出れた。

 結婚した?とはいえお互いを知らないのはよくない。

 だからいろいろと話している。


「羨ましいです…。平和な日々を送れるなんて」

「たしかに平和だけど同じような日々だよ」

「それでも争いがなくなるほうはいいです!」


 そりゃそうか。

 誰でも争いは嫌なもんだよね。

 俺は戦って勝ちたい!とは思うけど戦争とかまで行きたくはない。

 何より痛いのが嫌い…。

 痛覚が効かない魔法とかないかな?


「それにしても珍しいですね。黒魔法、黒魔術を使う人が本当にいるなんて」

「珍しいの?」

「はい!今まで一回も見たことが無いほどです」


 話によると黒魔術は黒魔法とも呼ばれている。

 悪い印象もあるけどその分強い魔法が多い。

 もちろん会得しようとたくさんの人が挑むみたい。

 でもなかなか会得者はでなかった。

 出てくるのは精々十年に一人。

 そう考えると俺は珍しい部類に入る。


「でも強いならだれでも会得しようとするんじゃないの?」

「それが…。会得すると他の魔法を使えなくなるようになると…」


 そのため普通の魔法が使えない。

 試しにリリアちゃんに魔法を教えてもらってやってみたところ無反応。

 むう。使いたかったんだが。

 おまけに魔法剣の魔法も発動しないとのこと。

 ……どんだけデメリットが多いんだよ。

 たしかに完全に死を与える魔法があるから強いけど。

 反動のほうがでかすぎませんか?


「質問があるんだけど」

「はい!なんでしょう?」

「さっき王女って言っていたけど…」

「それですね。私はランデック王国第二王女です」


 おうふ…。

 やっぱり聞き間違いではない。

 第二王女ってことは上の方?

 姉が一人いるってことだよね。

 あ、兄がいるかもしれないのか。


「でもなんで王女様がこんなところに?」

「お、王女様なんて…。リリアって呼んでください」

「あ、うん。リリアちゃんはなんでこんなところに?」

「魔法の練習です!兵士が相手をして下さるんですが、王女ということあって手加減をされてしまうので…」

「あー、そりゃあ立場上仕方ないよね」


 社長が平社員に『最近将棋始めたんだー』と言われて本気でやる人はいないでしょ。

 たとえ社長が本気でやれ!と言ってもボッコボコにまではしない…はず。

 力を入れても本気でやるなんて恐ろしいもんだ。


「それで森へ?」

「はい。大丈夫かと思ったんですが、思った以上に速い狼でしたので」

「なるほどなるほど」


 的や人間相手なら当てられるのかな?

 いざ実践とまではいかなかったみたい。

 あれ?何か抜けている気がする…。


「そうだ!それならなんで護衛がいないの?」

「……」

「……ぼっち?」

「違います!ただ、誰かがいると気恥ずかしいのでこっそり出てきただけで…」

「もっとダメじゃないか」


 お姫様大脱出。

 これ王国だと大騒ぎになってるんじゃないのか?

 まあなんていう自由な姫様なこった。

 可愛いから何でも許せそうなんですがね!

 現に俺は怒る気はない!


「だ、ダメでした?」

「全然!」


 その涙目の上目遣いは反則!

 男だけじゃなくて女でも魅了しちゃうよそれ。

 ああ、無事生きてられるならずっと一緒にいたい。

 もし、もしもだよ?

 本当に殺されちゃいそうならこの魔法で…。


「見えてきました!あれがランデック王国です!」

「おお!大きい…といか真ん中の城デカすぎね?」

「あはは…。そうですよね。でも私が生まれた時にはもうできていたので」


 平坦な土地にある国。

 そこでデカい城ときた。

 国の周りにある門なんて5分の1ぐらいしかない。

 ざっと十階建てマンションと同じ高さ。

 ……あれは現代技術があってできているんだけどこの城はどうやって建ってるんだよ。

 魔法がある世界なんだし、何か固める魔法でもあるのかな。


「旦那様!こっちですよー!」

「今行くよー!」


 もうこの呼ばれ方に慣れたな。

 最初は背中がむず痒かったけど。

 慣れると段々うれしくなってくる。


「リリア様!一体どこへ!」

「ちょっとそこまで。大丈夫だから通してほしいわ」

「かしこまりました。…待て、貴様はこっちだ」


 えー。

 リリアちゃんの後ろについていったら止められたよ。

 しかもどこかに連れて行かれそう。

 やめて!俺は男に興味はない!

 そんな無理やり手を引っ張らないで!

 個室へ連れて行こうとしないで!


「その方は私の旦那様です。通してください」

「だ、旦那様!?!?」


 めっちゃ驚いている。

 驚きのあまり手を放してしまっている。

 よかった。

 これで個室行きはなくなった。


「このことは、国王様はご存知で…?」

「今から報告に行くの。だから通してくれないかしら?」

「……かしこまりました。ではこちらへ。馬車をご用意いたします」


 そう、今からお父様にご挨拶に行くんだ。

 無理やり、ね。

 あー!もう緊張してきた!

 早く終わってくれねぇかなー。


*


 馬車で20分。

 無事に城へ到着。

 あぁ、口から心臓が出そう。


「リリアか。どこへ行っていた?」

「お兄さま!」

「お、お兄さま!?」


 さ、流石美少女のお兄さん。

 すげえイケメン。

 くっそー、こういう人がモテるんだよなあ。

 妬ましい…。


「それで、そいつは?」

「私の旦那様です」

「……は?」

「旦那様です」

「あ、ああ。そうか。そりゃおめでとう…」


 え!?それだけ!?

 反対とかないの?

 こんなかわいい妹が見ず知らずの男にとられるんだよ?

 もっとこう『どこぞの馬の骨に渡さない!』とかないの?

 この王国心配になって来たよ。


「俺はガノン。ガノン・セル・ランデック」

「俺はユウジ・イノウエ」

「よろしくなユウジ。これから頑張れよ。まあ、すぐだろうけど」

「え?」

「じゃあな」


 なに!?

 怖いこと言わないでよ!

 大変なことがすぐ起きるの?

 そりゃあお父様に会いに行くからそうだけど。

 さっきから心臓がバクバク動いてるんだからこれ以上負担をかけないでくれ!


「それじゃあ行きましょう」

「う、うん。行こうか」


 進むこと5分。

 やっと階段へ到着。

 どんだけ廊下長いんだよ…。


「これからお父様、国王に会ってもらいます」

「そんな気はしていたよ…」

「今は仕事部屋にいるはずです。私が話すので話を合わせてほしいのです」

「そういうことね。分かった」


 右も左も分からないやつが何かを言うとか自ら首を絞めるようなこと。

 俺の代わりに話をしてくれるってことだ。

 決して足手まといではない!

 ただまだこっちの世界について知らないだけなんだ!


「では行きますよ。失礼します」

「え、もう着いて――」

「リリアか」


 階段上ってすぐの部屋。

 まさかこんなところだとは。

 ……なるほど。

 階段の近くだから移動がしやすいのか。

 それなら城を小さくすればよかったんじゃね?


「リリアが来るとは珍しいな。どうした?」


 おぉ…。

 なんて威厳がある姿。

 国王と言ったらこの人!っていう感じ。

 コーヒーを飲む姿も様になっている。


「実は私、この方と結婚しました」

「ブーッッ!!」


 あ、コーヒー吹いた。

 距離があったから俺たちにまでは届かなかった。

 目のまえの書類はびちゃびちゃだけど。

 かっこいいと思っていたけど今は汚いと思っている。


「お父様!?大丈夫ですか?」

「それはこっちの台詞だ!急に結婚なんて…まさか!」

「……それ以上は言えませんわ」

「くっ!」


 睨まれちゃったよ!

 怖いんですが、怖いんですが!

 娘に手を出したらそりゃ怒るよね!

 当たり前のことだけど、怖いものは怖い。

 今すぐ回れ右して帰りたい。

 帰る場所ないけど。


「過ぎてしまったことだ。仕方があるまい」

「ありがとうございます!お父様!」

「ただ、あいつが黙っておらんぞ」

「それは大丈夫です!旦那様、ユウジさんはお強いですから」


 ……何の話?

 蚊帳の外で話についていけない。

 あいつって誰なの?

 なーんか嫌な予感が思い浮かんでくる。


「話を聞いたぞ!俺の嫁が浮気だと!」

「……マルモン。今話し合い中だぞ。勝手に入ってくるな。それにまだ決まってはおらぬ」

「知るか!俺の嫁が取られると――リリア!」

「来ないで!あなたとは結婚しないわ!」

「何を言っている!これは決定事項なんだぞ!」


 うわー、でたでた。

 決まっていないのに自分の嫁と勘違いしているやつ。

 服装からみてもボンボンだな。

 貴族かなんかだろう。

 ってか、貴族でも勝手に入ってくるのはまずいだろ。


「勝手に話を進めるではない!マルモン、貴様は貴族だろ?」

「……ほう?ならやることは一つだな」

「え?」

「決闘だ!俺様と貴様と一対一のだ!」


 マ、マジデスカー。

 なんとまあ予想通り。

 その自信たっぷりの言い方は勝つ気満々ってところかな。

 なるほどねー。

 ガノンさんが言っていたことはこういうことか。

 本当にすぐに来ちゃったよ…。


「それで何時やる?」

「無論、今すぐにだ!」

「……お主、えと」

「ユウジさんです」

「ユウジはいいのか?」


 戦うのは嫌だなあ。

 痛いのも嫌いだし。

 何より疲れる。

 断りたいのは山々。

 でも、リリアちゃんが森で『助けて』と言ったときと同じ顔をしている。

 それに、こんな貴族様野郎にリリアちゃんを取られたくない。

 なら答えは決まった。


「今すぐにでもいいよ」

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