第5話 旅立ち

「逆に俺たちでいいの…?」

「そうです…私たちで大丈夫でしょうか…?」

「僕は全然かまわないよ?一緒に旅するほうが楽しいからね!!」


 なんとまあ懐が広いお方だ。

 さすが一位様。

 底辺のDでも優しく振舞ってくれる。

 お金を払ったおかげもあるだろうけど。


「二人のも見せてもらっていい?」

「ええ…」

「構わないけど…」

「ふむふむ」


 外に出てフードを被ったまま話すのは良くないと思ったのか外している。

 なにそのコクリと頷く動作!

 頷くだけでこんなに視線を集める動作ってなんなの!?

 アイドルじゃないのか…?


「うん!これならすぐAぐらいまではいけるよ!」

「「えっ!?」」

「これには抜け道があるんだ!」


 冒険者ランクを上げる方法は2つ。

 同じランクの依頼を10件クリアすると試験を受けれる。

 合格すれば昇格、不合格なら3ヶ月間試験を受けれない状態に。

 もう1つは上のランクのクエストを5件クリアすると試験なしで昇格。

 上のランクをやるためにはそのランクの同伴者がいないと受けれない。

 だから大体は最初のやり方で上げていく。


「でもそれって危険なんじゃ?」

「ちょっと待って、『疑心暗鬼シー・ユー』」

「え?」

「ふむふむ…。二人とも大丈夫だよ!」

「「どういうこと??」」

「これは二人について見れるの!例えばユウジ!」

「俺?」

「黒魔術を使える!」

「「おおぉー!!」」


 って、どういうこと?

 俺魔法見せたっけ?

 さっきシー・ユーって言ってたよね。

 シー…シー…ああ!

 『あなたを見る』か!


「そんな魔法があるのか」

「そうだよ!パーティを組んだりするときには覚えたほうがいいよ!それよりさっそく依頼を受けてみる?」

「そうしてみようかな」

「私もそうしたいです」


 さっそく依頼を受けるため冒険所へ!

 こんな早く行くとは思わなかったけど…。

 ちなみに武器屋から近い。

 理由は簡単、依頼を受けてからや終了後によって行く人が多いため。

 ほぼ共同運営みたいなもんらしい。


「それでどれを受けるの?」

「……声かけられたりしないんだ」

「ああ!なんか僕が一位って言っても信用してくれないんだよねぇ」

「なるほど!」

「納得するな!!」


 そりゃあこんなかわいらしい子がねぇ。

 一応170近くはあるけど、それでも身長差がある。

 140後半ぐらい?

 そりゃあ最強に見られねぇわ。


「これなんてどう?僕はこういうのをよく受けるけど」

「ちょっと見せてもらっていいですか?……無理です!」

「え?なんて書いてあるの?」


 リリアちゃんが見るなり無理と断言。

 何が書かれているんだ?


「えっと、『東の森にいる子ドラゴンの討伐』って無理!しかもこれSじゃないか!?」

「えー!ユウジならいけるよ!それに楽しいし!!」

「んなわけあるか!もっといろいろ慣れてから!」

「そうです!旦那様を危険にさらすわけにはいきません!!」


 何この子!?

 根っからの戦闘狂じゃないか!

 めっちゃ目をキラキラさせながら討伐行こうよーとか言っているし。

 ムリムリ、俺には無理です。

 狼がいいです。

 小さくはないけどそっちの方が楽そうです。


「おっ、狼の討伐の依頼あるじゃん」

「いいですね!ランクもCで少し難易度は上がってますが旦那様なら大丈夫でしょう」

「えー!そんなのでいいのー?」

「これぐらいがいいの!」


 本当に戦いたいらしいな…。

 戦闘能力は群を抜いているけど思考回路も群を抜いている。

 冒険に誘ったものの、一緒にいたらそのうち本当に難しい依頼を持ってこられそう。


「言い忘れてた!これから一緒のパーティで行こうよ!」

「そりゃあ返してもらうモノがあるからね」

「そうじゃなくて!ずっと一緒のパーティでいようよ!ユウジがリーダーでいいから!ずっーと探してたんだけど誘っても断られて…。なかなか見つからなくてね…ぐすっ」


 おっとなんと断りづらい表情。

 これを断ったら全世界の男性に殺意を向けられるかもしれません。

 という以前に泣かした時点で殺されてしまいそうだけど。

 うーん、どうも断りづらい…。


「わ、わかった!わかったから泣かないで!」

「ありがとー!!」

「旦那様!?!?」

「だって!こんなの断れないじゃん!?」


 ちなみに周りから注目の的。

 今すぐ逃げ出したい気分。


「ぐぬぬっ…!今は仕方ありません。ただし!手を出したら…」

「…出したら?」

「二度と手を出させないようにしますね」

「……しません。誓います」


 語尾にハートでもつくような言い方。

 あれ?こんな子だったっけ?

 もしかして愛に関して一方的になっちゃうやつ?


「あははっ!面白いね!こういうパーティがよかったんだ!」

「俺は危ないけどな!!」


 なんていうパーティだ。

 幸先が心配だよ…。


「それで旦那様、これでいいの?」

「それがいいでしょ。危険性も少ない方がいいからね」

「むー。せめてオオトカゲの討伐!」

「さっき俺がリーダーでもいいって言ってたでしょ?リーダー命令」

「むむむー!わかったよ!」


 よし!勝った!

 これで安心の依頼を受けれる。

 それとちゃっかりオオトカゲの討伐と言ってたけどそれBだから。

 難易度上がってるから。


 よーやく依頼を受けれた。

 依頼を選んでカウンターに持っていけば受けれる。

 おかしいね、たったこんなだけなのに時間がかかった。


「やっと始めれる…」

「これからですよ旦那様!」

「そうだよそうだよ!これからなんだよ!」

「…ソデスネ」


 もうなんかよくなってきた…。

 依頼は狼の討伐で数を減らしてほしい依頼。

 ここの冒険所で受けても依頼書と討伐の証明があれば別の冒険所でも報酬は貰える。

 ついでにそのまま旅へ行くことになった。

 もちろんキャリアも一緒に。


「じゃあ出発!」

「ちなみにどこへ向かうの?」

「…旦那様?」

「……決めてない」


 全くのノープラン。

 べ、別にいいじゃないか!

 目のまえに道がある!

 なら進むあるのみ!


「とりあえず真っすぐ!」

「「えええ!?」」

「歩けば狼もいるでしょ!」

「だったら僕が前に出て探してあげるよ」

「そんなことできるの?」

「耳がいいからね!」


 飾りじゃなくて本当に仕事するのか。

 いいなあ、俺もそういうの欲しかった。

 …俺が猫耳なんて似合わないな。

 やっぱなしで。


「こっち!」

「そんな近くにいるの?」

「とりあえずついていきましょう」


 道を進むと狼が道をふさいでいた。

 うわ…。

 道の上で他の動物の肉を食べている。

 これはグロイ。


「ここは僕に任せて!」

「いいの?」

「もちろん!それに腕の見せ所だからね!」


 俺とリリアちゃんは見学。

 数は5体。

 本当に大丈夫かな?


「これだけでいいか。『高速化』!!」

「ガルルルル」


 両手剣を取り出し、魔法を発動。

 体に影響を与える魔法は体が少し光る。

 何ともゲームらしい。


「いっくよー!」

「「えっ!?」」


 あ、あれ?

 さっきまで俺たちの前にいたよね?

 気づいたら狼の向こう側にいるんですが…。


「いっちょ上がり!」

「つ、つえぇ…」

「ここまで違うんですか…」


 さすが一位。

 速い攻撃で狼も気づいたときには倒れていた。

 どんだけ速いんだよ…。


「試してみる?」

「旦那様、試しにどうでしょう?」

「え、絶対無理だよ」

「物は試し!やってみようよ!少し抑えるからさ!」

「やっぱいいよ」

「ほらいくよ!」

「えっ!ちょっ、まっ!」

「ニャンッ!?」


 とっさに手を前に出した。

 ……ふにっ?

 手に柔らかい感覚が。


「旦那様…?」

「違う!これは不可抗力だって!!」

「にゃ…」

「え?」


 あ、あれ?

 手の先にいたキャリアちゃんが俺に寄ってきた。


「ギュー」

「な、なつかれている…!?」

「いい加減離れてください!!」

「あははっ。悪ふざけが過ぎちゃった?」


 一体何が起きたの!?

 俺にも状況を教えてくれ!!


「いきなりどうしたの?」

「ちょっとからかおうと思って」

「そんなことすると俺が危なくなる…」

「僕の胸を触ったバツ!でもよかったでしょ?」

「そんな理不尽なー!あ、大変良かったです」


 いきなり抱き着かれてびっくりしたよ。

 でも、本当によかった…。


「旦那様、こちらへ」

「ちょっ、そんな真顔より笑ってる方が」

「こちらへ!」

「は、はい…」


 こうして旅初日。

 俺は土下座のすばらしさを理解した。





 うーん、戦いは慣れていないみたい。

 でも抱き着いたときに見たらやっぱり魔力は高い。

 成長すれば僕より強くなるんじゃないかな?

 やっと可能性がある人を見つけたんだ。

 手放すのは惜しい。


 なにせこれでやっと結婚をできるんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る