第6話 勝負

「ユウジはともかくリリアさん?はどうかな?」

「リリアでいいですよ、キャリアさん」

「私もキャリアでいいよ!」


 土下座終了後、まだ依頼達成まで達してないから探すことに。

 俺は何回か使ったけどリリアちゃんのは見たことないな。

 どんなの使うんだろう?

 練習もしていたみたいだし。


「その、私は使える攻撃魔法は少ないんですよ…」

「そうだったんだ。じゃああの時は本当に危なかったんだね」

「そうですね。あの時旦那様が来てくれなかったら助かりました」


 それならいきなり森に行かなくても…。

 無謀なことするなぁ。


「どういう魔法が得意なの?」

「『回復ヒール』や『攻撃強化パワーアップ』に『防御強化ガードアップ』、それに『速度上昇スピードアップ』ですね」

「主に支援型だね!」


 回復にアシスト系魔法か。

 昔はゲームで攻撃こそすべて!と思って攻撃ばっかりにしていた。

 だんだんアシストを入れるといいってことに気づいてから入れるようになった。

 今のパーティだと俺とキャリアちゃんは前衛で戦闘型。

 リリアちゃんは後衛で支援型。

 正直今のままでいいかも。


「『速度上昇スピードアップ』と『高速化』ってどう違うの?」

「僕のは自分だけに!」

「『速度上昇スピードアップ』は相手に付与させます。上昇値はキャリアのほうが高いですね」

「よく使うからもっと上がっているけどね!」


 似たような魔法でもこうも違うのか。

 いいなあ、俺は使えないみたいだし。

 せっかく転生したんだから使ってみたかったよ!!


「この辺はさっきの群れだけだったみたい。他のパーティが倒しちゃったのかな?」

「どうします?お昼も近いですから食材探しをしますか?」

「じゃあ勝負しよう!30分後ここに集合!大きい獲物を仕留めたほうが勝ち!」

「だいぶ不利じゃない…?」

「僕は一人、そっちは二人でいいから!それじゃあスタート!」

「「あっ!」」


 返事さえさせずにさっさと森の中へと入っていった。

 それでもだいぶ不利なんじゃ…。

 出遅れているし。

 まあ大きすぎても食べきれないからなあ。

 ほどほどのでも仕留めて食べようか。


「でかすぎても余っちゃうからほどほどの奴を見つけようか」

「いえ、大きすぎても魔法袋マジック・バッグがあれば大丈夫ですよ?」

「お金以外も大丈夫なの?」

「はい。便利なことにその状態を保ったまま保存されます。ですのであればあるだけ困りはしません。溢れなければですが…」


 それじゃあ大きめのでもいいってことか。

 うーん…。

 しょうがない!

 俺もできる限り大きい奴でも仕留めるか!


「よし、じゃあ行こうか!無理のない奴を仕留めに!」

「はい!サポートは任せてください!」


 俺たちも森の中へ。

 何がいいかな?

 というか何がいるんだろう?

 狼は知っているしゴブリンもいたっけ。

 ……ゴブリンって食べれるのか?

 いや、ないな。

 美味しくはなさそう。


「どういうのがいいんだろう?」

「そうですね。大きさで一番はいるかは分かりませんがドラゴンです」

「それはなしで!」

「もちろん私も嫌ですよ!会ったら死んじゃいます!」

「それ以外では何がいるの?」

「あとはそうですね、無難に熊なんてどうでしょう?」

「熊もいるんだ。熊って食べれるの?」

「はい!牛に近くて美味しいですよ!」


 熊って食べれるのか…。

 そもそも熊なんて生で見たことすらない。

 テレビで山から下りてきたーっていうニュースで見たことあるぐらい。

 実際に出会ったら怖いだろうなぁ…。

 リリアちゃんはめちゃくちゃ期待しているみたいだしがんばってみよう。


「さっそくいましたよ!」

「うぇ!?まだ心の準備が!」

「そんなことしている間に襲ってきますよ!!」


 出会うの早いって!

 しかもいきなり襲い掛かってくるなんて。

 やばい!

 こんなことを考えている間にこっちまでくる!


「くらえ!ダークフ――」

「旦那様!燃やしてしまうと食べれなくなってしまいます!」

「もうちょっと早く言って!!」


 あぶないあぶない。

 このまま打っていたら熊はマル焦げ。

 焦げ肉を食う羽目になっていた。

 よく考えればそうだよね。


「頭っていらないよね?」

「え?そうですね。食べれませんので…」

「じゃあこれだ!『死神の大鎌デスサイズ』!!」


 名前的に大鎌が俺の手元に来ると思ったけどそうではない。

 はっきりとは見えないけど熊の後ろに死神みたいなのが見える。

 大鎌を持っているのはそいつ。

 そう!これは相手の後ろに出現して首を落とす便利な魔法!

 ただそこまで速くはないからキャリアちゃんは簡単に避けちゃいそう。


「ガァァっ!!」

「クスクス」

「な、なんですかあのお化け!笑ってますよ!!」

「俺の魔法なんだけど、笑うんだ…」


 こっわ!

 熊の首を落としたら笑ったよ!

 魔法で生み出されたやつも感情があるのかな…。

 あ、でも役目を終わったら消えた。

 これはリリアちゃんを怖がらせちゃうから封印。

 俺も怖いし。


「とりあえず俺たちはこれでいいでしょ」

「そうですね。十分――あっ!」

「どうしたの?」

「あれ!あれを見てください!」

「金色の鶏?」

「はい!金毛の鶏、コッコゴールドです!」


 普通の鶏が金色の卵を産むってのはあるけど。

 本体が金色なんてなあ。

 ひょっとしておいしいのかな?


「美味しいの?」

「王国でも滅多に手に入らなく、見ることもあまりありません。一匹で金貨10枚します…」

「バカじゃないの!?」

「それほどおいしいんです!!」

「ちょ、わかった。分かったから。近いって!」


 今まで高級品なんて食べたことないからな。

 高ければ本当に美味しいのかなんてわからない。

 でもこっちは見た目もだけど本当に美味しい方が高そう。

 それならもちろん!


「がんばって仕留めよう。どうやったらいいの?」

「難しいですね…。近寄ったり攻撃をすると自分の巣にワープします」

「それじゃあ無理じゃない?よく今まで手に入ったね」

「今までは弱ってるところかランクSの冒険者が取ってきましたから」

「うーん、目の前にいるのに見逃すのかぁ」

「いえ、見えない攻撃をすればいいんですよ」

「ってことは鶏に見られると逃げられるってこと?」

「そうです。目の方が進化して耳の方はそこまでいいわけではないので」


 それならまたいい魔法がある。

 これで高級食材もゲットだ!


「いくよ。『不可視針インビジブル・ニードル』!!」

「ココッ!?」

「よし!高級食材ゲット!」

「やったー!!久しぶりのコッコゴールドですよ!!」


 よかったよかった。

 リリアちゃんも喜んでくれたみたい。

 でも、それ俺も食べたいから全部持っていかないでね。

 仕留めた瞬間取りに行くほどうれしかったみたい。


「でもよく仕留めれましたね。どこを狙ったんですか?」

「別に当てるだけだよ。『黒雷放ダークサンダー・デフュージョン』を少し混ぜて刺さった瞬間に電撃が流れるようにしたんだ」

「器用ですね…。魔法の合わせ技なんて全然できないのに。黒魔術同士だからうまくいったんでしょうか?」

「俺に聞かれても分からないよ…」


 分からないもんは分からない。

 でもうまくいったんだからそれでいいじゃん!


「それじゃあ戻ろうか。まだ少し早いけど」

「そうですね。コッコゴールドがいればもう私たちの勝ちでいいと思うんですが」

「大きさ勝負だよ…」


 決して味勝負ではない。

 あくまでも勝負内容は大きさ勝負。

 俺たちは熊で勝負。

 こいつ結構重いんだよね。

 普通に運んだらだけど。

 もちろん魔法袋マジック・バッグに入れて移動。


「あれ?もういるみたいだよ」

「早いですね。これでも早いと思ったんですが」


 すでに集合場所にキャリアちゃんがいる。

 のんきに鼻歌まで歌っちゃって。

 でかい獲物の上に座って足をパタパタさせて楽しんでいる。

 ……でかい獲物?


「あっ!二人ともおかえりー!」

「おかえりって…。それってもしかして…」

「ど、ドラゴンですか!?」

「そだよー!ちょうどこの森にいたみたいだから」


 うそーん。

 座ってるところには血はないみたいだけど全身傷だらけ。

 どんだけ切り刻んだんだよ…。

 しかもキャリアちゃんは無傷。

 やっぱつえぇ…。


「ど、どうやって運んできたの?」

「ん?『魔法袋マジック・バッグ』だよ!これは便利なことに――」

「あ、おんなじですね」

「なんですとー!!なんで持っているの!?」

「いろいろとあって…」

「うぅ…。私は大金貯めて買ったのに…」


 やっぱりこの袋高いんだ。

 中に入っているお金も高いけど。

 中にはお金にナイフに鍋、それに熊。

 何か適当にしまったバッグみたいになっている。


「それでそっちは?」

「こいつだよ」

「熊じゃん!これは僕の勝ちだね!」

「それとこいつ」

「コッコゴールド!?すごーい!!」


 ドラゴンから降りるとすたすたこっちに寄ってきた。

 近い!近いから!


「私の負けでいいから少しわけてほしいなー」

「えー。これって高いうえに美味しいんでしょ?」

「私の獲ってきたドラゴン上げるから!お願い!!お願いしますから!!!」


 ちょ、そんなに揺らさないで!

 君小柄なのに力は強いんだから!

 俺の頭見てよ!

 ガクンガクンしてそこの熊のように落ちてしまいそう!


「キャリア!?旦那様の頭が熊のようになってしまいます!」

「じゃあ少し分けて!」

「脅迫ですか!?」

「わかった!分けるから!元々そのつもりだったから!」

「ほんと!?ありがとー!!」


 もう俺たちはパーティなんだ。

 みんな平等に食べ物も報酬も分けていくつもり。

 ただその中から少しずつ返していってもらう。


「もしかしてこのドラゴンの素材売ればお金になるんじゃない?」

「え?ご飯を売るの?」

「いや、例えば鱗とか売れるんじゃないの?」

「そうですよ。これを売れば大金持ち間違いなしですよ」

「いつも食べるときにめんどくさくてバラバラにしてたからそんなことはしなかったよ!」


 なるほど、極度のめんどくさがり屋さんと。

 真面目に剥げばお金になる。

 これからは注意をしつつ剥いでいこう。

 そうすればお金も増える。


「これからはまず剥いでから。そうすればお金も手に入るでしょ?」

「うーん、めんどくさいけどそうするよー。今は必要だから」

「そうですね。じゃあさっそく剥いじゃいましょう」

「できるの?はい!キャリアもやりましょ」

「はいはーい!」


 こうしてドラゴンと一緒に熊も剥いだ。

 ドラゴンは夕食として今は熊を食べることに。

 それにコッコゴールドも。


「どう料理するのが一番いいの?」

「素材が美味しいので焼くだけが一番いいです」

「シンプルでいいね」

「はい、ここは私に任せてください」

「リリアって料理できるの?」

「得意ですよ!」


 ということでリリアちゃんに料理を頼んだ。

 俺たちは焼いているのをじっと見ていた。

 ちらっと横を見た時、キャリアちゃんが餌を待っているネコに見えた。

 まさかとは思うけど手は出さないよね?

 出したら大事になるけど。


「完成!どう分けます?」

「僕は一口でいいよ」

「いや、3等分で」

「そうですね。それがいいでしょう」

「いいの?僕がとってきたわけでもないし、ましてや――」

「いいの!同じパーティなんだから遠慮はなし!ほら、食べよう!」

「ふふっ。ユウジとリリアに会って本当に良かった!」


 こうして俺たちは仲良くコッコゴールドを食べた。

 味は一言で言うと美味しい。

 本当にそうとしか言えない。

 油も程よく噛むと溶けるように切れていく。

 そう、味だけではなく感触までもすごくいい。

 二人も美味しそうに食べている。

 これは獲っといてよかったな。

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