第7話 盗賊

「この道を行くならアールバルがありますよ」


 食後、ノープランだからこの後どうするかまた聞かれた。

 とりあえず道に進もうと言ったら行きつくところを教えてくれた。


「それってどんな国?」

「国ではありません。いや、人によっては商業国と言います。商人が多く、他国の取引に使われます」

「なんでそんなところで?」

「この道は海まで一直線だよ?」

「行き止まりじゃないか…」


 えー!

 海ならいったん戻らなければならないじゃん。

 うーん、今ならまだ引き返せるけど。


「行き止まりじゃないよ?高いけど船に乗れば別の国へ行けるよ!」

「え、そうなの?」

「はい。ランデック王国と仲がいい国は海の向こうにあります」


 それならこのまま進めばいいか。

 でも船かぁ。

 小さかったころ一回漁船に乗せてもらったんだけど死にかけたからなあ。

 あれって降りたくても降りれないから酔うと本当に地獄。


「一応聞いておきたいんだけど、その船って安全?」

「危険かなあ」

「危険ですね」

「えぇー…」


 一気に戻りたくなってきた。

 でも話をされたら行きたい気持ちもある。

 あーもう!

 安全な方法はないの!?


「安全に行く方法ならあるよ?」

「え?そんな方法あるの?」

「私は分かりませんね」

「簡単だよ!ドラゴンに乗ればひとっ飛び!安全でしかも速いよ!」

「「却下で」」

「えー!なんでー!!」


 簡単に言うなよ!

 今はもうバラバラになっちゃったんだよ?

 そもそも連れてこられた時には死んでいたが。


「うーむ、とりあえずアールバルに行こうか」

「そうですね。もしかしたら掘り出し物もあるかもしれませんし」

「りょうかい!任せるよ!」


 とまあ結局はまっすぐ進む。

 狼がいれば狩る。

 あと少しだから早めに終わらせておきたいなあ。


「ちょっと待ててめぇら!」

「どっちかの知り合い?」

「違いますよ」

「あんな男の知り合いはいなかったと思うんだけど…」

「へっへっ、いいから金と金になるものを置いて行くでやんす」

「そうすれば楽に死なせてやろう」


 何この人達。

 一人は右額に傷跡があって腰に剣がある少し大柄の男。

 もう一人はひょろひょろの短剣をもったバンダナ男。

 言っている内容からして盗賊なのか?


「どうやら盗賊みたいだな」

「そうですね。でもどっかで見たことあるような…」

「僕もどっかで見たことある気がする!」

「へっへっ、どうやらあっし達も人気になったでやんすね!ガラメル!」

「そうだろう、ラウドラ。俺たちは『三つ首ケルベロス』という名の盗賊だ」

「そうです!そうです!この人たちは盗賊です!」

「そうだったよ!冒険所の依頼の中にあった気がする!」

「な、なんか調子狂うでやんすね…」

「あ、ああ。なんか俺たちが省かれているみたいだ…」


 盗賊で合ってたのか。

 依頼にあったってことは相当迷惑を起こしているんだろう。

 そんで俺たちがたまたま出くわしちゃったわけか。


「ケルベロスならもう一人足りないんじゃないの?」

「へっへっ、しっかり3人いるでやんす、よ!」

「あぶね!!いきなりそんなもんを振るなよ!!」

「すまんな、仕事なんだ。さっさと死んでもらうぞ!」

「よっと!」

「ありがとうキャリアちゃん!」

「どういたしましてー」

「なんだこの猫女!なんていう力なんだ!」


 すげぇ…。

 あんな大柄の男の剣を両手剣で受け止めている。

 絶対向こうの方が力あるように見えるのに。

 その細い腕ででも止めれるものなのか…?


「グアリア!撃て!」

「ん?」

 キーン!

「何か飛んできたけど、なにこれ?」


 急に片方の剣を外し、素振りをしたと思ったら金属音が聞こえた。

 コンコンと俺の足元まで転がってきた。

 手に取ってみると、実物は見たことが無いものの、見たことがあるものだった。


「弾丸じゃないか!」

「弾丸!?危ないじゃないかそんなもので狙ったら!もー!!」

「いや、普通は避けれないはずなんだが…」

「話が違うでやんす!!」

「いいから大人しく捕まってもらうよ!向こうにいるやつも捕まえるから!」

「旦那様!何か縛るものはありませんか?」

「あるよ。『四肢束縛リン・バインド』!」

「「えっ!?」」


 2人はバタバタと倒れた。

 これは四肢だけの自由を奪う魔法。

 何か心臓だけ止めるえげつない魔法も一緒に見つけたのはここだけの話。

 殺すとまでは言っていないからね。


「な、なんだこれ!」

「手足だけ動かないでやんす!」

「ただいまー。もう一人にもかけてもらえる?」

「いつの間に…。『四肢束縛リン・バインド』」


 連れてきた背が低い金髪男にもかけた。

 それにしてもこれってスナイパーライフルか?

 銃についてはよくわからないけど、あの長さ敵にそうだと思う。

 ただスコープがついていない。


「どうすればいいの?」

「それよりも待ってください。聞きたいことがあるんです」

「はい。さっき『仕事』と『話が違う』っていました。誰かから依頼されたんでしょう」

「依頼?そんな依頼もあるの?」

「裏社会の依頼です。こういう依頼は禁止されています。誰に依頼されたんですか?」

「ふんっ。俺はしらねぇな」


 まあ簡単に言わないよな。

 それならいい案を思いついた。

 ここは俺が解決してみせよう。


「ここは俺に任せて。少し魔法袋マジック・バッグ貸してくれる?」

「え?わかりました。どうぞ」


 仕舞っているところを見たからたしかあるはず…。

 お、あったあった。

 これでうまくいくといいんだが。


「さて、キャラメルにひょろひょろに金髪チビ」

「ガラメルだ!!」

「ラウドラでやんす!!」

「グアリアだ!チビじゃねぇ!!」

「まあそれはさておき3人とも」

「「「さておくな!!!」」」


 うるさいワンちゃんズだなぁ。

 話が進まないじゃないか。

 随分キャンキャン吠えること吠えること。


「いいから!これを見ろ!」

「ん?牙か?」

「そうだ。なんの牙だと思う?」

「ドラゴンの牙でやんす!そんな高いものを見せびらかしてどうするんでやんす?」

「そうそうドラゴンの牙だ。君たちに倒せるかな?」

「はっ!無理に決まってる」

「俺たち三つ首ケルベロスでも不可能だ。それがどうしたんだ?くれるのか?」

「あげるわけないだろ!そのドラゴンを倒せるやつがここにいたらどう思う?」

「そんなわけ!ないだ……ろ……」

「ガラメル。どうしたんでやんす?」

「顔色が悪いぞ」


 だんだんキャラメルの顔色が悪くなってきた。

 どうやら気づいたみたいだな。

 残り2人は鈍いらしい。

 さっきの状況を見ていなかったのかな?


「……わかった!話すから殺さないでくれ…!」

「どうしたんだガラメル!」

「らしくないでやんす!」

「黙れ!!殺されるかもしれないんだぞ!!」

「むー。僕はそんなにひどいことをしないんだけどなあ」


 よしよし!

 脅し作戦成功!

 ドラゴンを討伐したってことはドラゴンにケンカを売った。

 そもそもあの弾丸をはじいたんだぞ?

 そんな人がいたら普通は怖がるでしょ。

 もし敵だったら震えが止まらないよ。


「俺たちは貴族に頼まれて男女2人組の男を殺せと依頼された」

「だから俺に攻撃してきたのか。でも俺たちは3人いたんだよ?」

「似顔絵も見せてもらったから間違えるわけはない。ただ1人増えただけだと思って油断していた…。まさかその一人が化け物だったなんて…」

「失礼だなー!僕は猫の獣人!化け物ではないよ!!」

「も、申し訳ございません!!」


 手足が動かないから頭を地面にこすりつけている。

 うわぁ、こんな姿する人本当にいるのか。


「それでその依頼した貴族ってだれ?」

「マルモン。マルモン・デン・トトロール」

「マルモンってあの貴族様野郎?」

「そうです。間違いありません。まだ諦めてなかったんですね」

「だれそれ?」

「リリアちゃんを勝手に妻にさせようとしたやつ。俺が勝ったから正式に結婚したのにまだ諦めていなかったのか」


 まさかあそこまであったのにまだ諦めていなかったのか。

 大人しくしていると思ったらけど根から腐っているな。


「どうします?いったん国まで連れて行きますか?」

「えー。めんどくさーい!」

「いや、帰らなくてもいい方法があるよ!」


 便利に指示できるのがないかなぁって探してたらなんとありました!

 でもぶっつけ本番。

 上手くいけばいいんだが…。


「じゃあ行くよ。『骸骨召喚サモン・スケルトン』!」

「「ひっ!?」」

「二人ともどうしたの?」

「おおおお化け!!」

「ダメなんです!!幽霊系はダメなんです旦那様!」


 あ、そっち?

 てっきり人間の骸骨だから怖がると思ってた。

 ……まあお化けだな。

 この骨って誰の骨なんだか。

 魔法で出来たとか?

 でも召喚ってあるし…。

 まあそんなことは別にいいや。


「とりあえず5体もいれば十分でしょ。じゃあ王国まで運んでもらえる?」

 カタカタカタ

「た、たぶん門まで運べば大丈夫だと思います」

「分かった。じゃあ門まで頼むね。あ、これを門番に」

 カタカタカタ


 3人とも観念したのか、束縛魔法を解いても抵抗はしなかった。

 念のために縄が魔法袋マジック・バッグにあったから手を縛って置いた。

 先端はスケルトンが持っている。

 ってか縄があるんなら最初からこれにすればよかったじゃん。

 今度からしっかり確認しよう。


「じゃあ出発しますか!」

「あのスケルトン大丈夫かな…?」

「どういうこと?」

「国に着いたら何か呪ってきたりしないよね…?」

「しないよ。役目を終わったら土に戻るから」


 元々役目を与えるために呼ぶ魔法。

 役目を与えないとその場で土に戻ってしまう。

 終わったなら用済みだから消えてる。

 なんてブラックな魔法なんだ…。


「よし!改めて出発!何回言ったんだか…」

「アールバルかあ。久しぶりに行くけどまた何かあるかなあ」

「私も久しぶりです。元々外へ出ることが少ないので」

「二人とも何か買ったの?」

「私は買っていません。お父様の付き添いで行っただけですので」

「僕は新しく入った食べ物を買ったよ!たしかライスボールって名前!こんな形の」

「それってホント!?!?」

「う、うん。本当だよ…」


 ライスボールってことはおにぎりのはず!

 というか絶対そうでしょ!

 ジェスチャーでもおにぎりの形してたし。


「旦那様…?」

「違うんだ!おにぎり、ライスボールは俺にとって必須級の食べ物なんだ!!」

「そ、そうなんですか?」

「そうなんだよ!」


 今の言い方は怒るときの言い方。

 いい加減覚えた。

 さっきまでは全敗だったけど今回珍しく俺が勝った。

 何しろお米の為だ。


「今すぐ行こう。絶対に行こう!レッツゴー!!」

「「お、おー!」」


 どうしようかなあ。

 どれぐらい買おうかなあ。

 でもお金はあれしかないし。

 依頼をクリアすればお金が手に入る。

そこからできるだけ買おうかな?


「依頼も忘れないようにしてくださいよ!」

「そこは僕に任せてリリア!」

「…そうね。旦那様、今はそれどころじゃないみたいですし」


 いやー楽しみだなあ!



「なに?スケルトンが門まで来た?」

「はい。門番の報告ではそう言っておりました」

「してどうなった?」

「盗賊と手紙を渡したら土にかえりました」

「どういうことだ、一体…」


 国王は椅子に座り、部下の報告を聞いていた。

 報告と共に部下は手紙を渡した。

 国王はそれを読むとさらに驚愕する。


「あれが魔法なのか…。アンデットが襲ってきたのかと思ったぞ」


 手紙の内容はこうだ。

 『道中で盗賊に会いました。指示したのはマルモン。対処をお願いします。

 スケルトンについては安心してください。俺、ユウジが召喚したやつなんで大丈夫です。

 役目を終えたら消えますので』


「黒魔術はここまで進んでいるのか…。敵ではなく味方、いや身内でよかった」

「どうなされたんですか?」

「いやなに、強い味方がいるってだけだ」

「それで、大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫だ、安心していい」

「安心しました。スケルトンを動かせるなんて上位の悪魔か魔王ぐらいですから」


 スケルトンは他の下位種と同じで命令をしなければ動かない。

 前世の恨みで単独で動くことはある。

 複数で、しかも5体となれば誰かが操っているものがいる。


「呼び名でも決めておいたほうがよいな…」


 例えば冒険者一位の者は『死の執行人サリエル』と呼ばれている。

 理由は討伐の依頼ばかりを選び、必ず成功して戻ってくる。

 それゆえにこの呼び名がついた。

 呼び名はこのように呼ばれるようになった場合と付けられる場合がある。

 かと言って誰でも付けていいわけではない。

 付けられる場合はそれほどの地位の者からでしか与えられない。


 捕まった盗賊はあくまでも自称。

 依頼書のほうも名指しで3名の名前が書かれていた。

 三つ首ケルベロスと広まったのは3名が頑張り広めただけ。

 呼び名とは違い、これは悪名となっている。


「『暗黒の王』、単純すぎるな。いや、単純なほうがいいかもしれないな」


 こうして本人がいない中、話は進んでいった。

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