第4話 新たな出会い

「そういえばなんで黒魔術なのに火とか雷とか使えるの?」

「知ってて使ってたんじゃ…?」

「いや、まったく」


 部屋に着くと特にやることもなかったし話をしようと思った。

 そこで気になっていたことの一つ。

 黒魔術=呪い、死のイメージだった。

 実際に死なせる魔法はあったけど。


「実は元々は呪いの類しかできなかったんですよ。ある人が黒魔術しか使えなく、ほかの魔法を使おうと頑張った結果、旦那様みたいに多種多様な黒魔術へと進化したんです!」

「じゃあもう黒魔術とは違うんじゃない?」

「そうですね。新しく黒魔法って言いますが、みなさん元々の方で慣れちゃったせいで黒魔術のままですね」


 黒い色の魔法=黒魔法っていうことになっている。

 確かに他に比べれば強い。

 ただ、やはりデメリットがある。

 例えば炎の黒魔法を会得すると、ほかの炎の魔法が使えなくなる。

 炎の魔法は火を飛ばしたり、火柱、火のドームをつくったりできる魔法がある。

 黒魔法の炎はただ一つ。

 焼き殺すほどの火をつくり、飛ばすだけ。


 要するに火力特化になった代わりに一種類だけしか使えなくなる。

 正しくは黒魔法を使うと他の魔法が使えなくなるっていうわけではなく、炎の黒魔法を会得すると他の炎の魔法、雷の黒魔法を会得すると他の雷の魔法が使えなくなる。

 使える魔法を慎重に選ばないといけないが、俺の場合は本に書かれているから選択する権利もない。

 だから『魔術回復マジック・ヒーリング』や『装備化アクセサリー』があったみたい。


「うーん、黒魔術のままでいいか。その方がなれているでしょ?」

「そうですね。そうしていただけると嬉しいです」


 新しい名前になってもなかなか馴染めない。

 気持ちもわかるからそのままで構わない。

 というかどっちでもいいから合わせるほうでいいや。


「そ、それで旦那様…」

「ん?あぁ、もう寝る?おやすみー」

「あうぅ……」


 どうやら寝るみたい。

 俺も眠いから早く寝よう。

 リリアちゃんも寝るつもりだったみたいだし。

 なんで枕を抱きかかえているんだろう?

 それは頭に敷いて寝るものだよ。

 ああ、抱き枕ってことか。

 抱きかかえたまま寝るのを想像したらなんてお可愛いこと。


「旦那様のバカ!」

「うぇ!?」


 顔をぷくーっと膨らませていたんですが…。

 これまた可愛い。

 動作一つ一つ可愛いなんて…俺が死んじまう。

 あ、ふてくされたように寝ちゃった。

 何か悪いことでもしたのか?

 明日起きたら謝ろう…。


………………

………


「んー、もう朝、か?」


 朝日が当たったわけではないけど自然と目覚めた。

 エアコンや空気清浄機があるわけじゃないからなのかな?

 いつもは寝坊するかしないかぐらいまでぐっすりだったのに。

 環境が変わると生活も変わるって本当なのかも。


「さて、起き――ん!?!?」

「んっ…すぅ」


 どどどどどどういうこと!?

 なんで一緒に寝てるの!

 たしかに寝るときは別々だったのに…。

 あれ?俺寝ぼけちゃってた?

 トイレに行くこともなかったし、そんなことはないと思うけど。

 リリアちゃんが間違えちゃったのか?


「おーい、リリアちゃーん?」

「ぅん…だんな、さま?」

「そそ、寝るところ間違えてはいない?」

「そんなことはないですよ…。夫婦なんですから」


 故意的だったーー!!

 たしかに夫婦になったけど、俺にはけっこう刺激的なんですが?

 何せ彼女いない歴=年齢の人間だからな!

 ……よく結婚できたなぁ、俺。


「では準備しますか」

「そうだね。と言っても俺は持っていくものがないけど」


 持っているのはこの服と本だったブレスレット。

 要するに手ぶら。

 本当にこんなんで旅に出れるのか…?


「私もあまり持っていくのが無いので…。少し待っててくださいませんか?」

「りょうかい。急がなくてもいいよ」


 本当にすぐ終わった。

 肩掛けのカバンに何か入れて終わり。

 俺に気遣ったのか何かを取りにいくときも小走りだった。

 急がなくてもいいのにって言ったのに…。

 でも小走りをしている姿可愛かった。


「ではお父様に挨拶をしに行きましょう」


 旅に出るんだから挨拶はしっかりと。

 というわけであの国王の部屋へ。

 いつもはあっちの部屋にいるのか。

 何もないのになにしてるんだろう?


「お父様、失礼します」

「おお、リリア!旅の前の挨拶か?」

「はい。これから会えなくなる日が続くので」

「……そうだな。そうだった、二人とも。これを持っていくがいい」


 冒険者?

 これって冒険者だということを示すやつ?

 もしやもしやと思っていたんだけど…。


「それは冒険者のカードだ。持っていれば証明書にも使える。依頼をこなせばお金も手に入るから持っていて損はない」


 なんとまあ、やっといてくれたのか。

 行ってみたい気持ちはあったけどここまでしてくれたんだから文句は言えない。

 依頼を受けるときに行くんだし、その時でいいや。

 名前もしっかり書かれている。

 他には発行場所としてこの国の名前。

 それにDって書いてある。


「このDってのは?」

「それは冒険者ランクだ。D、C、B、Aと上がりSとなる」

「それ以降は?」

「Sは英雄のとなり終わる、が――」

「が?」

「そこからは次元が変わり、新しいランク分けが存在する。単純な順位だ。Sから数字へと変わる」

「どれくらい差があるんですか?」

「Sになった者が束になっても一位には勝てない。それぐらい別次元なんだ」


 ……まあ俺たちはそこまでいかないからいいよね!

 というか無理でしょ。

 狼相手でやっとぐらいなのに、そんな上までいけない。

 いってBかAぐらいがいいのかな。

 お金に困りたくもないし。


「リリア。何かあったら冒険所から通せば手紙が届く」

「わかりました」

「これも役に立つだろう。持っていきなさい」

「!?」

「どうしたの?」

「も、持ってみて…!」


 茶色い袋を渡された。

 何か入っているの?

 袋の上にゲームにあるメッセージみたいなウィンドウが出てきたけど。


「そこには書いてあるのが中に入ってるものよ…」

「金貨千枚!?!?」


 いや、価値はわからないけど。

 でも金貨なんだよ?

 これでもう金持ちじゃないか!

 絶対そうだろ!


「これはリリアのために取って置いたお金だ。今使うのがいいだろう」

「ありがとうございます!」

「では二人とも。いい旅を」


 そんなこんなでいざ出発!

 と言っても荷物はリリアちゃんのカバンだけ。

 買い物をしたほうがいいのかな?


「リリアちゃん、何か買っていく?」

「そうですね、旅に出るので旅道具が欲しいです。元々は現地調達だけにしようと思っていたんですが魔法袋マジック・バッグを貰えたので」

魔法袋マジック・バッグ?さっきの袋のこと?」

「はい。今はお金しか入っていませんがこの袋はたくさんものが入ります。民家に金貨千枚いれても空いている場所はたくさんありますでしょ?」

「さぞ当たり前のように言われても俺にとってはびっくりだよ…」


 こっちでの常識は俺の常識とは若干外れているんだ。

 さぞ当たり前に質量保存の法則をガン無視させるのを出されても困るよ。

 そもそも魔法っていうモノすらなかったのに。

 まあそれでもたくさん入る袋が手に入ったんだ。

 ここはリリアちゃんに任せてみよう。


「わかった。それで何を買いたいの?」

「ナイフと鍋です。これがあればとりあえず冒険は大丈夫です」

「てっきり服かと思ったよ」

「洗浄の魔法もありますからね。それに同じ服を何日も着るのは普通ですから…」

「そうだったのか…」


 考えればこっちだと普通だよな。

 毎日服を変えられるのは現代だからできること。

 昔も着物は一か月に1回洗うぐらいだったらしいし。

 俺も洗浄魔法使えるかなあ。

 黒魔術のせいで出来なさそうな予感。


「旦那様は…できないと思いますので私がしますよ?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いえいえ!それよりも買いに来ましょう!」

「っと、走るとあぶないよー!」


 手を握られてそのまま走る。

 女の子ってこんなに柔らかくて小さいんだ。

 何より俺と比べて冷たい。

 なんで女性って手が冷たいんだろう?

 いつも不思議に思う。


*


「お邪魔しまーす…」

「だーかーら!これを直してほしいだけなの!なんでそんなに高いの!!」

「だから!それを直すのに使う金属は希少なんだ!高くて当たり前だ!!」


 何やら店でもめている。

 どうしようかなあ。

 たまに店で店員とほかの客がケンカしていると本当に気まずくなるんだよね。

 静かにおかれている品物の方を見ていよう。


「リリアちゃん、これなんてどう?」

「え?ああ、いいですね。刃こぼれ用に砥石もあってもいいかもしれません」

「だから!――あっ!」


 やべ、見つかった。

 嫌なことに巻き込まれそうな予感。

 頼む!こっちに来ないでくれ!!


「ねえねえ君たち聞いてくれよ!このおっさんぼったくってくるんだよ!」

「ぼったくってはいない!これを直すにはこれを使わないといけないんだ!」

「それってアダマンタイト!?一体何を直そうと…」

「僕の剣。両手剣だから片方でも失うとだめなんだ」

「なにを話しているの?ってネコ?」

「猫の獣人だ!ネコとは違う!!!」


 子供が駄々をこねていると思って顔を見たらフードで耳を隠していた。

 まあなんていう可愛い見た目をしているんだ…。

 膨らんでいるところは控えめだが膨らんでいる。

 ハグしていいよって言われたら速攻でハグしちゃいそう。

 それでアダマンタイトとか聞こえたけど、たしかそれって一番希少なんじゃ?


「これってそんなにすごいの?」

「お客さん…こいつぁ神器の一つ、古龍の斬撃ドラゴン・スラッシュですぜ?」

「神器?神器って言ったら鏡と勾玉と剣じゃ?」

「なんじゃそりゃ?神器はもっとある」


 俺の知っている神器とは違った。

 日本じゃないからな。

 変わっているんだろう。

 それにしてもこの両手剣、暗殺とかに使われそうな形してる。

 一体どれだけ血を吸ったんだか…。


「それでいくらなんですか?」

「金貨10枚。アダマンタイトなんてそうそう手に入らないからな」

「なんでそんなにするのよ!アダマンタイトなんてたくさん手に入るじゃない!」

「「「えっ!?」」」


 それじゃあそれ渡せば解決すんじゃないのか?

 一番早く解決するじゃん…。


「それでそのアダマンタイトを持っていないの?」

「全部売っちゃった…。他に買い物をしたからお金があまりないの」

「うーん、そうだなあ…」


 せっかくなんだから助けてあげたい。

 何かいい案が浮かばないかなあ。

 あ、いいのがあった。


「冒険者やってたりする?」

「え?もちろん冒険者だけど」

「じゃあ今は俺たちが払う。一緒に冒険をしよう。そのときに徐々に返せばいいからさ」

「いいの!?僕はそれで全然かまわない!」

「いいかな、リリアちゃん?」

「助けるつもりはあったのですが、その分しっかりしてくれるなら反対はありません」

「うーむ、これだとオレが悪役みたいじゃないか…。分かった!半分まけてやらぁ!」

「やたあ!!!」


 俺たちも買い物を済ませ外へ出た。

 もちろんさっきの猫の女の子も一緒に。


「俺はユウジ・イノウエ」

「妻のリリア・セル・ランデックです。訳があって性は変えていません」

「僕はキャリア・ルーシュ!一緒の冒険者だよ、ほら!」

「へー、どれどれ…えっ!?」

「どうしたんですか?…えっ!?」


 この冒険者のカードは身分証にも使うから表紙にわかりやすく書いてある。

 名前を含め冒険者ランクも。

 今一度思い出してほしい。

 DからはじまりAになり、やがてSとなる。

 Sで英雄、もう威張って生きていけるだろう。

 そのあとは順位になる。

 何位からあるかは知らないが、冒険者ランクのところに数字が書かれる。

 そう、俺たちが見たのは驚きの――


「冒険者ランク、一位…」

「そうだよ?あまり知られていないけどね!」

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