タイトルの印象とは真逆。超硬派で重厚なファンタジー

魔法の世界を舞台に、新入り大学教員が学生たちにモテまくる、逆ハーレム系ファンタジー……。なのですが、似たような作品の中で、頭一つ抜けています。

 ハーレム系とか、逆ハーレム系の作品の多くで、欠乏しがちなのが、主人公の人間的な魅力だと思います。存在感が薄すぎたり、あるいは、なんでモテるのか到底理解できない、俗物だったりするパターンが多いように思います。

 しかし、この物語の主人公、リディアは違います。彼女の一番の魅力は、まぶしいくらいの利他的な自己犠牲精神でしょう。リディアは一貫して、周囲の人を守るため、幸せにするために、自分の身をささげようとします。そしてその態度は当然、自分の受け持つ学生に対しても貫かれています。そんなリディアだからこそ、男子学生にモテるのも当たり前だと思えるし、読んでいて爽快感があります。

 リディアは、大学の教員です。表向きはいつも、厳正かつ理知的です。一方で、心の奥底には、家族との関係など、致命的な弱さも抱えています。そのギャップが、ぐいぐいと小説を読ませる力を生み出しています。

 リディアだけでなく、リディアの男子学生、ハーレムボーイズたちも、綺羅星のごとき魅力を放っています。

 まず、十段階の笑みを使い分け、女を利用し尽くすホスト系男子、ケイ。抜群のトリックスターっぷりで、彼の出てくる場面は、アドレナリンが出すぎてやばいです。

 堅物のキーファと、ワイルドなウィルのコンビは、バディ萌え不可避です。王族のマーレンも、いい味出てます。「邪魔だ庶民」などなど、彼のセリフには、いちいち笑ってしまいます。

 そんな生き生きとした登場人物たちの魅力を、さらに際立たせているのが、物語の舞台です。とくに、五行相生思想を連想させる、重厚かつ緻密な魔法の設定は、圧巻です。

 魔法の講義をしているだけのシーンがおもしろいなんて、なかなかないことでは?作中の魔法体系の壮大さは、本場アメリカの第一級ファンタジーに迫るものがあるでしょう。「この世界は、たぶんどこかにあるんだ」。そう思わせるような、完成度があります。

 このように、超本格派のファンタジーなのかと思いきや、現代日本の大学教員のブログを読んでいるかのような、リアルな日常描写もみられます。私たちの生きる日常に近い世界と、限りなく幻想的な魔法の世界が入り混じるのは、まったく新鮮で、不思議な感覚です。Web発の小説でしか味わえないものなのかもしれません。

 おもしろいだけでなく、物語の底流には、ジェンダー、エイジズムなど、読んでいると、ぐさぐさ刺さってくるようなテーマが流れており、作者の鋭い感性がうかがえます。

 一点だけ残念なのが、名前が分かりにくいことです。地の文では名、呼びかけは姓なので、誰が誰なのか分からなくなってきます。地の文で、ところどころ、姓と名を併記すれば、もう少し分かりやすかったのかもしれません。

 いずれにしても、読んでいると、狂おしいほどに物語の世界に行きたくなり、かつ、永遠に物語が終わってほしくないと思えるのは、至高のファンタジーの証ではないでしょうか。

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