百合文学の一つの到達点

 百合小説の名手による、オムニバス短編集。読めばすぐにわかると思いますが、この小説に出てくる少女たちには、胸が締め付けられるような、抗いがたい魅力があります。これほどまでに、多様で蠱惑的な少女たちが、一人の人間の想像力だけから生み出されていることが、驚異的です。

 この小説の少女たちはほぼ例外なく、何か(あるいは誰か)を強烈に追い求めています。それはたとえば、地図を作ることだったり、写真を撮ることだったり、あるいは別の少女だったりするのですが、どの少女にも、必ず追い求める何か(誰か)があるのです。

 一方で、伝統的な価値観に立てば、女性というのは、能動的に何かを追い求めるというより、誰かに追い求められる受動的な存在、告白される対象、そして(美しいモノとして)人に見られる対象なのかもしれません。

 この小説の少女たちが、これほどまでに魅力的である理由の一つは、その二つが両立していることなのだと思います。そして、愛でられる対象としての受動的な快感と、何かを追い求める情熱に伴う能動的な快感を、一人称の文体を通して、読者も疑似的に体験できてしまうことこそが、この小説の中毒的な魅力の一つだと思うのです。

 さらに、少女たちの追い求めるもの(あるいは人)は、当然、多種多様で、それぞれ唯一無二です。そしてそれは、異界的な少女九龍城の混沌の中に散りばめられています。
 
 そのことが、読者である私たち自身の抱えている、混沌としたこの現実世界の中から、自分だけの唯一無二の何かを掴み取りたいという、内なる渇望とシンクロして、言葉にできない感動を生んでいるのではないでしょうか。

このレビューの作品

少女九龍城

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