第15話 勇者、勝利

 やあ、こんにちは!

 私はパンツ、語り部パンツさ!

 みんな、よろしく!



 さて、地獄で勇者になった水島だけど、食い逃げを繰り返しながら木村を探して旅を続けているよ!

 もう、食い逃げで全国指名手配されかねない勢いさ!

 本当に、水島にも困ったものだよ。


 でも、仲間も増えたんだ。

 犬のフォースとその息子シルバー、さらにその部下たち。彼らはクマ退治と聞いて水島について行くことにしたんだ。なんでも、フォースはクマ退治目的に組織されたオクバネ軍団の総大将なんだそうだよ。

 彼らはとても大きくて、とくにスツールなんて、水島を乗せて走れるくらいさ!

 彼らのお陰で、随分と移動が楽になったんだ!


「総大将、今日はこの辺りで休みましょう。」


 参謀のレッドアイが声を掛けて、オクバネ軍団は川の畔で足を止めたんだ。

 この川は国境になっていて、川の向こう側は木村に食い殺された魔王の治めていた国なんだ。

 まあ、魔王もその部下たちもみんな木村に食べられちゃったから、今は木村の国ってことになるのかな?


 水島たちは途中で狩ったシカを、スツールが吐いた炎で焼いて食べてるよ。

 地獄の犬は焼き肉が好きなんだ。わたしも知らなかったけどね!


 一晩ゆっくり休んだら、いよいよ川を渡って木村の首を狙いに行くんだ。

 でも、どこにいるか分からないからね。オクバネ軍団を幾つかの班に分けて捜索するようだよ。


「次の満月に、この先の首都で会おうぞ!」


 フォースがそう言うと、犬たちは散っていったんだ。

 でも、次の満月って三日後だよ? 早くない? 大丈夫なのかなあ?


 なんて思っていたけれど、心配無用だった!

 結局、全員が木村の痕跡を見つけたんだ。

 まあ、木村は見つけた町や村を壊滅させていっているからね。その痕跡を見つけたら後を追いかけるのは簡単みたいだ。


 人間だったら大変かもしれないけれど、彼らは地獄の猟犬ヘルハウンドなんだ。臭いを追いかけるくらい、朝飯前さ!



「見つけたぞ、木村! 貴様の悪行もここまでだ!」


 木村を見つけたフォースが雄叫びを上げている。

 水島は後ろに隠れているよ! 勇者なのに、何をビビっているんだか。情けないね!


「何だ? 子犬が俺様に食われに来たのか? げふぁふぁふぁふぁ。」


 なんか、木村の口調が変わっているよ! すっかり悪役に染まっている感じだね。

 そして、体長二メートルを超えるような犬たちを見て『子犬』って言っちゃうくらい木村は巨大化している。

 その大きさ、実に二十メートル超! なんと、ガン○ムより大きいんだ!

 しかも口や爪からビームを放つし、素早さは大型ロボットとは比べ物にならない。


 だけど、オクバネ軍団はそんなことで怖気づいたりはしないよ!


「行くぞォォ!」


 シルバーが先頭になって赤カ○トじゃない、木村に向かって行った。

 だけど。


「絶! 天熊抜刀爪牙!」


 木村が超高速回転して犬たちに突っ込んでいった!


「ばかな! クマがその技を使うなど……」


 木村の一撃でオクバネ軍団は潰滅さ!

 生き残っているのはフォースにシルバー、そしてスツールにレッドアイの四頭だけだ。あ、後ろに引っ込んでいた水島は全然ぴんぴんしているよ!


 そして。


 油断して高笑いしている木村の顔面に向けて神槍マシンガンを乱射さ!


「ぎゃあああああ! 痛てててて! この野郎、何しやがる!」


 後ろに下がって、木村は水島を睨みつけた。


「水島? テメエ! 水島かァァァァ! そっちから殺されに来るとはなあ。俺はお前を殺したくて殺したくてうずうずぎゃああああ!」


 ぺちゃくちゃ喋っていようが、水島の機関銃乱射は止まらない。木村に向かって容赦なく神槍マシンガンの威力を見せつけて行くよ!


「いまだ、行くぞ!」


 フォースとシルバーが必殺技を繰り出していったけれど、それは木村の前足の指三本を切り落とすくらいしかできなかったんだ。

 でも、普通、指を切り落とされたら痛いよね! もの凄く痛いよね!


「はんぎゃああああああああ!」


 木村は泣き叫んでいるよ! これはチャンスだよ!


「絶! なんとか殺熊牙!」

「絶! なんとか殺熊牙!」

「襲! かんとか殺熊牙!」

「撃! ぬっころ殺熊牙!」


 四頭の犬は、木村の残っている指先に飛び掛かっていった!

 まあ、木村の本体は大きすぎるからね。


「痛であ! 痛であああ! クソ、水島ァァァ!」


 木村は泣き喚くが、水島は攻撃の手を緩めない。

 目や鼻先に向けて神槍マシンガンの乱射を続けている。

 前足でそれを庇ったら、千切れた指に狙いを変えるという汚さだ。とても勇者の攻撃とは思えないね!


 水島は叫びもせずに、ひたすら神槍マシンガンの乱射を続けているよ。

 そして、三十分ほども経ったころ、ついに木村が根をあげた。


「勘弁してくれ! 俺が悪かった、助けてくれ!」


 だが、水島は無表情で攻撃を続ける。

 容赦ねえなコイツ。


「木村さん、私はね、あなたを殺さなきゃならないんですよ。勇者ですからね。」


 神槍マシンガンの乱射を止めもせずに、淡々と言うんだ。怖いよ水島。


「何で、何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!」

「え? 分からないんですか? あなたの性格と日頃の行いが悪いからでしょ?」


 水島は本当に酷い奴だ。

 いや、まあ、木村の性格と日頃の行いは悪いんだけど! それは間違っていないんだけど!


「ってことで、さっさと死んでください。あ、この槍って、毒付きらしいんですけど、まだ効いてこないですか?」


 え? 神槍に毒? それ、本当に神槍? むしろ魔槍って言わない?

 神様は一体なんてものを与えたんだ。


 ――いや、普通に攻撃したって、あのサイズに致命傷なんて無理だろ?


 おおう? 神様、出てこなくていいよ! 閻魔大王様のお仕置きは終わったんですか?


 ――ちょいパンツ、黙ってろ。って見つかったァァァ!


 もう、うるさいなあ。


「ぐばはああああああああ。」


 あ、木村も血を吐いて苦しみ出したよ!

 そろそろ終わりかな?

 でも、水島は相変わらず無表情で神槍マシンガンを撃ち続けている。

 弾切れの心配が無いって便利だね! 相手が死ぬまで撃ち続ければいいんだもの。



 さらに一時間くらいしたら、木村は動かなくなったよ!

 勇者の勝利だ! 地獄は救われたんだ!


 と思ったんだけど、水島はまだ攻撃を止めるつもりは無さそうなんだけど。


「よし、そろそろ止めだな。」


 いやいや、木村、もうピクリとも動かないんだけど!

 水島は懐から杖を取り出すと、天に翳した!


 すると!


 天から物凄い数の槍が降ってきて、木村に突き刺さる!

 って、物理攻撃なの?

 どう見たってそれ、魔法の杖じゃないの! なんで槍が降ってくるのさ!


 ――魔法は食われる可能性があるからな


 また出てきたよ。うるさいカミサマが。地獄の奥底で氷漬けになっていてくれないかな。


 ――おい、パンツ! お前図に乗ってんじゃああああああああ


 ほら、閻魔様から逃げられなんかしないんだからさ。無駄なことをしてないで、お仕置き受けててください!



「フォース、シルバー。動かない今の内がチャンスだ! どんどん攻撃していくぞ!」


 水島は動かなくなった木村を前に、やる気満々に指示を出している。


「俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ!」


 いや、終わってませんか……

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