第13話 大ピンチ
「莫迦なッッ! ク、クマごときが……ッッ!」
放った業火を全て食らい尽されて呆然としていたギュシオンだが、我に返り怒りの声を漏らす。
「炎が通じぬのならば! 切り刻むのみ!」
虚空から取り出した長剣を握りしめ、木村に向かって急降下をかけていく。
飛翔速度に落下の勢いを乗せて、弾丸のような速さで突っ込み、構えた剣を振り抜く。
ことはできなかった。
「痛ッッッてええええ!」
ギュシオンの剣は、木村の右肩のあたりに食い込んだ状態で止まってしまっている。
必死の形相で引き抜こうとしているが、突き刺さった剣が抜ける気配はない。
「てめえぇぇ! ゴルァァァァァ!」
木村は立ち上がりざまに振り向き、左の爪を横に薙ぎ払う。
反射的に剣から手を離し、ギュシオンは距離を取ろうとする。
が、木村の右の方が速かった。
上から振り下ろされた右の爪がギュシオンを捉え、その身体を引き裂きながら地面へと叩きつける。
「ぐぅぁああああぁぁ!」
思わず苦悶の声を上げるギュシオン。なんと情けない! それでも魔王の側近か!
いわゆる四天王最弱って奴なのだろうか? 木村に対してまるで歯が立っていない。
必死に立ち上がるも、木村の追撃がギュシオンを叩き潰す。
そう、文字通りまるでゴキブリのように叩き潰したのだ。
そして、木村は動かなくなったギュシオンを頭から丸かじりだ。
羽生えてるし鳥か何かだとでも思っているのだろうか。
魔王配下を返り討ちにした木村は、北東方向へ向かって歩き始めた。
木村は知っているのか知らないのか、その方角の先には魔王の居城がある。
普通の人間が歩いて約一日の距離。体長十メートルを超えている現在の木村のスピードだと半日も掛かるまい。
そして、数時間後。
魔王は苛立っていた。
「ギュシオンはまだ戻らんのか? 何をモタモタしているんだアイツは……」
クマ退治ごとき、一時間も掛からずに帰って来れるはずである。
だが、二時間たっても、三時間たっても戻ってくる気配がない。
「イーリゴゥス、ギュシオンを探して来い。報告もせずにほっつき歩くとは罰を与えねばならん。」
遂にしびれを切らし、遣いを出すことにした魔王。
「御心のままに。」
跪き返事をすると、イーリゴゥスは暗褐色の翼を広げて南西へと飛び立っていった。
イーリゴゥスはギュシオンの気配を探しながら、注意深く進んでいく。
だが、ギュシオンは既にクマに食われてしまっているのだから見つかるはずがない。
そして、前方の異様な気配に気付いた。
「ギュシオン……? いや、似ているが違う?」
イーリゴゥスはその気配に訝しむも、確認すべく飛んで行く。
だが、見つけたのはギュシオンではなく、巨大なヒグマだった。
「莫迦な……、ギュシオンは何をして……」
イーリゴゥスは呟くが、その顔色は悪い。
ギュシオンが既に食われたことを感付いてはいるのだろう。木村と戦うのではなく、来た方向に引き返していった。
「魔王さま。ご報告いたします。」
「ギュシオンはどうした?」
「ギュシオンは見つからず、かわりに、巨大なヒグマを見つけました。」
イーリゴゥスの報告に、魔王の表情は険しくなる。
「どういうことだ?」
「あのクマから、ギュシオンの魔力を感じました。恐らく、食われたのではないかと……」
「食わ……れた……?」
あまりの報告に呆然となる魔王。
「それで、お前はそれを放置してきたのか?」
「本当にギュシオンが食われたのであれば、私の手に余ります。私まで食われたら、奴に力を与えるだけ」
「分かった。もう良い。儂が行く。」
玉座から立ち上がる魔王。
その顔には、くっきりと怒りの表情が浮かんでいた。
「そのクマとやらはどこにいる?」
「はい、ここから南西方向、約二分ほどのあたりでございます。」
イーリゴゥスの返答を聞き、魔王は城から飛び立ち、木村のいるであろう方向へと向かって行った。
魔王の飛翔速度はかなり早い。一分も掛からずに木村を見つけた。
そして、発見直後には業火を放っていた。
「はんぎゃああああああ!」
前触れすら感じることもなく業火に焼かれ、怪獣の叫び声のような悲鳴を上げる木村。
そして、身を焼く業火を食っていく。
全身を包んでいた炎は、瞬く間に木村の口の中に吸い込まれていった。
「なに! 儂の炎を食らっただと?」
目を剥き、驚く魔王。
「ならば、
両手を空へとかかげると、上空に暗雲が渦巻き、雷光が閃く。
「おぼおおあああああ!」
三回、四回と稲妻が木村を貫くが、倒れる気配はない。
というか、回数を重ねるほど、稲妻が口に吸い込まれていく率が上がっていく。
「なんという化物だ……」
魔王は木村を睨みつけ、呻くように言う。
その時。
振り上げた木村の前足の爪から稲光が奔った。
正面から魔王を貫く稲妻。
そして、驚愕し戸惑っている魔王の目の前に木村の巨体が舞う。
煌めく爪。
飛び散る血飛沫。
「貴様ァァァ……!」
木村の一撃で深手を負った魔王が吼える。
――おい。
なんだ、ウルサイな。今、良いところなんだよ。
――デュニラハ、あれはお前の仕業か
あ? って、エンギシェ様ァァ!
――あのクマはお前の仕業かと訊いているのだ。
いや、あの、ち、違う! 私じゃあ、いや、地獄に送ったのは私ですけどね?
――では、お前の仕業だろう!
いやいやいやいや、死んだ者を地獄に送っただけですよ? それを仕業とか言われましても……
「ぎゃあああああぁぁぁぁ……」
なんだ? 何が起きた?
って、魔王が食われてる! 木村に下半身をかじられている! このままでは食い殺されてしまうのも時間の問題だ!
ヤバいぞ魔王! そして、やばいぞ私!
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